見出し画像

大間マグロの謎を解く⑤漁協の出荷シェア3割~脇売り業者隆盛の背景「ヤミ漁獲」


 大間でのヤミ漁獲の調査が長引いているもう1つの原因は、その問題の根深さにあります。昔からヤミ漁獲が当たり前のように行われていたのです。

「大間漁協の前で水揚げをみていたって、全部がわかるわけじゃないからね」

 2014年12月下旬、翌年から始まる沿岸漁業へのクロマグロ漁獲規制の影響を大間漁協周辺で取材していると、ある寿司屋の店主がいいました。

「マグロを揚げる場所は何カ所もあるんだよ。教えられないけどね」

 わざわざ大間まで来てそんなことも知らないのかと言いたげな含み笑い。店主に「まずいね」とつぶやいて、私は寿司を途中で食べるのをやめ、店を出ました。

 その頃、名物組合長の浜端廣文さんは病気が悪化して、大間病院に入院中でしたが、元気なころは、漁協が制定した地域団体商標「大間まぐろ」を使わずに出荷する脇売りの横行を嘆いていました。

 漁協を通して出荷すれば、漁獲量も収入も漁協に筒抜けですが、民間業者に買い手を探してもらえば、収入をヘソクリとして隠すこともできたのでしょう。

 しかし、漁獲制限のもとではそれが裏目に出てしまいます。

 漁協に知らせないまま産地の仲買業者に売っていた場合、漁獲実績からも消えているので、過去の実績をもとに設定する漁獲枠の配分も少なくなるからです。正規の収入が減るため、ヤミ漁獲に力を入れる、という悪循環から抜け出せなくなってしまうのです。

 「大間の漁師の漁獲量が400~500トンあっても不思議はない」と口にする漁師さんもいました。

 大間・奥戸2漁協の合計漁獲量上限(枠)は約270トンですから、2倍近くというわけです。荒唐無稽な推計のように聞こえますが、太平洋クロマグロの資源量は急速に回復に向かっていますから、この数量も非現実的とは言えないかもしれません。

 大間の主流は一本釣りですが、針の数が多い延縄漁船も少なくありません。一度にたくさんのマグロを釣り上げることができる延縄(はえなわ)漁船の成績次第では、漁獲量はぐんと増えます。

 荒れた海にも強い大臣許可船と同規模の19トン型延縄漁船もあります。こうした船なら津軽海峡を抜け出し、最近マグロの好漁場が出来たといわれている太平洋側の八戸沖や岩手県沖でも操業できます。その気になれば、1隻で数十トン漁獲することだって不可能ではないでしょう。

 水揚げ場所として大間町以外の場所、例えば同じ下北半島の尻屋崎など県内外のいくつかの港の名前もささやかれています。岩手県など県外の漁港を拠点に操業して、いったい、どこでどのくらいの量のマグロを陸に揚げているのか、操業の実態がよくつかめない大間の漁船もあります。

 現在のクロマグロ漁獲報告の仕組みでは、漁業者が容易に報告をごまかすことができ、調査する側の青森県も手を焼いているのが実情です。


東京都情報公開資料から集計

表は情報公開制度を利用して東京都から入手した2021年の東京・豊洲市場に出荷された大間産クロマグロの業者別取扱量を集計したものです。

 漁協公認の商標ラベル「大間まぐろ」を貼付して出荷されるマグロは、大間漁協に集められ、豊洲市場などに運ばれます。販売を委託する業者を漁業者は選択でき、漁協以外の民間業者を選ぶ人が豊洲市場向け出荷の場合7割を占めます。大間町内には大間、奥戸(おこっぺ)の2漁協がありますが、シェアはわずか3割にとどまります。

 地元の人なら、ヤミ漁獲する漁業者のグループと、漁協に出荷を任せ、ヤミ漁獲をしない漁業者のグループの線引きはそう難しいことではないようです。

 民間業者によっては漁獲報告をしない枠外のマグロでも販売を引き受けてくれ、漁業者にとっては好都合だったからです。しかし、これから環境は大きく変わることでしょう。

「漁獲制限が始まる前に過去の膿(ヤミ漁獲)を出しておかなかったから、こっそり獲って出荷することをやめられなくなっているのではありませんか?」

 昨年暮れ、ある業者にそう問いました。

「それはあります。だけど、もう(ヤミ漁獲のものは)持ってくるな、と伝えています。いまはもうありませんよ」

 代表者はそう答えましたが、水産庁や青森県の調査はまだ続いています。

 過去にさかのぼってどのくらいのヤミ漁獲があったのでしょう。漁獲枠をきちんと守って操業してきたまじめな漁業者たちは、自分たちの分まで国から漁獲枠の削減を言い渡されるのではないかと心配しています。

(お読みいただきありがとうございます。サポートしていただいた場合、その資金は情報公開請求と開示文書の受け取りに使わせていただくことにしています)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?