東京新聞が訂正掲載へ、ピースワンコの「美談」記事の検証を8ヶ月放置

 東京新聞がNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町大西健丞代表理事)から依頼されて取材した記事の内容に多くの誤りがあることを認めて、2月8日夕刊に訂正記事を載せるそうです。東京新聞読者部から本日、noteでこの記事のファクト・チェックをした筆者宛に連絡がありました。

 動物愛護管理法違反容疑での広島県警による捜査中という微妙な時期に、被疑者からの情報だけで「美談」のように仕立てたこの記事については、PWJを告発した団体が記事掲載の経緯や内容を疑問視する抗議文を東京新聞に送っていました。東京新聞は記事の検証を8ヶ月以上も放置していたわけです。

■広報コンサルタントから社会部長が記事掲載の依頼受ける

 事実と異なる点は、筆者が送った質問状と東京新聞の回答をご覧いただくとして、どうしてこのようなお粗末な記事が掲載されたのか、PWJの広報コンサルタントから協力を依頼された社会部長の編集者としての責任はないのか、東京新聞に説明を期待したいと思います。

 PWJは広島県警から記事掲載の半月後、2019年6月4日に書類送検されました。東京新聞の記事は掲載後ずっと保護犬事業(ピースワンコ)のホームページで紹介されています。

▶︎東京新聞への質問(2020年2月4日)

2019年5月18日掲載された「にっぽんルポ」広島・犬シェルターの記事については、日本の犬猫保護の未来を考えるネットワークが抗議文を送るなどして、事実確認を怠ったままの間違いの指摘をしたのにまだ返事も訂正もない、と聞きました。私は改めて、記事の間違い箇所を具体的に指摘しますので、責任ある報道機関として訂正なり削除の対応を検討されるようお願いします。

①県に持ち込まれた犬をすべて受け入れ、譲渡先も探す。民間団体による前例のない取り組み

→持ち込まれた犬ではなく「殺処分対象となった犬」です。つまり2015年度でいえば、持ち込み数は2千頭以上、殺処分は8百頭弱と3倍も開きがあるばかりか、事業の性格自体を理解していない記述です。これは広島県動物愛護管理推進協議会の2016年度報告書(2015年度殺処分等の実績)をみれば確認できます。

②15年度の県の殺処分は約800匹。これを基に年間1000匹を受け入れられる体制で臨んだが、16年度に1400匹、17年度に1800匹と県が引き取る犬が急増した

→これは①以上にでたらめです。県が引き取る犬の数、県内に4つある愛護センターが引き取る犬の数、いずれも16年度1400頭、17年度1800頭ではありません。ここで紹介している団体が県内4つの愛護センターから引き取った頭数をここに誤記しているのではないでしょうか?(これも引き取る対象を「殺処分対象の犬」だときちんと理解していないから犯した間違いだと思います)

③(2018年の書類送検の後)週刊誌やインターネットで猛烈な批判にさらされ、銀行に5億円の融資を引き揚げられた

→この団体の借入金は年々膨らみ2018年度末11億円まで増えましたが、銀行(信用金庫、政府系公庫を含む)の借り入れ残高のピークは4億円で、5億円を引き揚げる、ことがそもそもできません。この団体は2017年度に債務超過に転落したので、銀行からお金を借りようと思っても新規には貸してもらえなかった可能性はありますが、「融資引き揚げ」ではありません。

以上ですが、この記事自体が、団体の広報コンサルタントから個人的な知り合いである当時の社会部長に取材依頼が来て取材、執筆されたことがコンサルタント(ソーシャル・ピーアール・パートナーズ代表取締役若林直子氏)のFacebook投稿に明記されています(現在は削除) 取材上、過分な便宜供与はなかったものと信じたいところですが、事実確認や仕組みの理解もあやふやなまま記事が執筆されているところをみると、そのような疑いも排除できません。この団体が動物愛護管理法違反の容疑で広島県警の捜査を受けて、書類送検される直前(記事掲載は書類送検の半月前)であることもそうした疑念の根拠の1つです。以上、ご多忙かと思いますが、記事執筆依頼を受けた取材し、掲載した社会部でも事実関係を確認のうえ、必要な訂正、削除の措置をご検討ください。

▶︎東京新聞からの回答(2月6日)

東京新聞の読者部です。
弊紙記事に関するご指摘に対し、ご返信が遅くなったことを深くお詫び申し上げます。
担当の社会部が確認したところ、ご指摘①②③とも記事の誤りだと分かりました。大変申し訳ありませんでした。

①②についてはご指摘通り、「県で殺処分対象になった犬」を「県に持ち込まれた犬」と誤解したことによるミスでした。
③については「銀行に5億円の融資を引き揚げられた」ではなく「予定されていた5億円の銀行融資が中止された」の誤りでした。
このため2月8日(土)夕刊に、訂正記事を掲載する予定です。
また、東京新聞のホームページに掲載されいてる記事も修正します。
この度は、弊紙記事の誤りについて詳細かつご丁寧なご指摘をいただいたことに、あらためて感謝を申し上げます。
このようなミスのないよう、編集局全体で再発防止に取り組む所存です。また何かお気づきの点がありましたら、お問い合わせいただければ幸いです。

▶︎東京新聞の記事(2019年5月18日付)を事実関係の確認の目的で抜粋して紹介します。

 「広島県の山間部に位置する神石高原(じんせきこうげん)町。標高七百メートルの山あいに、ピースウィンズが運営する犬のシェルターがある。岡山県の同様の施設と合わせて二千八百匹が暮らす。飼い主から捨てられたり、野山で捕獲されたり。本来なら殺処分されていた命だ。
 県に持ち込まれた犬をすべて受け入れ、譲渡先も探す。民間団体による前例のない取り組みで、かつて全国ワーストだった広島県の殺処分数は二〇一六年度から三年連続で「ゼロ」を達成している」

 「「想定が甘かった」。大西さんの悔いは今も消えない。一六年に全頭引き取りをスタートさせた後、早々と苦境に陥った。
 一五年度の県の殺処分は約八百匹。これを基に年間千匹を受け入れられる体制で臨んだが、一六年度に千四百匹、一七年度に千八百匹と県が引き取る犬が急増した。県の担当者も「殺されないと知って、保健所への持ち込みが増えたのでは」と驚いた」

 「ピースウィンズはその全てを受け入れたため、五匹を入れる部屋に保護犬が八匹、十匹と増えた。病死やけがが多くなり、獣医師のケアが追いつかない。そして昨年十一月、二十五匹に狂犬病の予防注射を打たなかったとして、県警に書類送検された。
 週刊誌やインターネットで猛烈な批判にさらされ、銀行に五億円の融資を引き揚げられた。大西さんは支援者や企業への資金集めに奔走し、犬舎の増築やスタッフの増員で窮地を何とかしのいだ」


 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?