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「食の安全を守る人々」を観る

 弁護士山田正彦さん(元民主党代議士・農相)と初めて会ったのは十数年前でした。日本海・九州沖での大型まき網漁船によるクロマグロ乱獲問題を調べていて、この問題を取り上げているたった一人の国会議員であることを知り、話を聞きに行きました。

 山田さんは長崎・五島の出身で、離島経済を成り立たせている一次産業に深い思い入れがあったのです。

 その後、民主党が政権をとり、山田さんは農林水産副大臣、大臣に就任し、副大臣時代にクロマグロ資源管理の大枠も示しました。これは自・公連立政権に戻ったいまも引き継がれている日本の水産行政にとってかなり重大な方向転換でした。

 思い起こしてみれば、宮崎県での口蹄疫発生による牛や豚の全頭殺処分にいたるまでの感染封じ込め対策、稲作農家向け戸別所得補償の導入などかなり大きな仕事をたて続けにまとめ上げています。

 TPP交渉に積極的な菅直人首相らと対立したり、ずけずけモノを言い、思った通りに行動する政治家でした。政界を引退して、弁護士に戻ってもライフワークともいえる食料・農業政策への発言は続けていて、種苗法改正、種子法廃止、農薬規制問題などについて次々、著作を発表したり、映画製作に関わったりしています。

 山田さんのように意見をしっかり言い、政策を変えていく政治家は非常に少ないので、意見が多少違っていても、彼の発言に耳を傾ける人はかなり多くいます。SNSの情報発信に対するフォロワーの数などを見ても、現役政治家以上に大きな影響力を持っているといっていいくらいかもしれません。

 その山田さんがプロデューサーとして企画した映画「食の安全を守る人々」(原村政樹監督)が7月2日に公開されます。コープニュース編集主幹の田中陽子さんの案内を見て、先週土曜日(29日)に桜新町のコープニュース社で開かれた試写会に参加しました。

 米国のモンサント社の農薬ラウンドアップの有害性に関しては、日本でもさまざまな議論があるところですが、この映画の見どころは2018年にモンサントに巨額賠償を命じた裁判の原告ドウェイン・ジョンソン氏、子どものアレルギーや自閉症と農薬などの因果関係を探った母親たちマムズ・アクロス・アメリカの創設者ゼン・ハニーカットさんら米国の当事者を訪ね、インタビューをしているところでしょう。

 農薬成分のグリホサートの発がん性をめぐって、ハムなど加工食品の発がん性と比べて深刻なものなのかと山田さんに問う農業技術通信社の昆吉則社長との記者会見でのやり取りも収録されています。昆さんの会社は、農薬批判などをファクトチェックするサイト「AGRI FACT」を運営していて、農薬メーカーの手先、悪役ととらえて映画を見る人が多いかもしれません。しかし、私は有害性をめぐって多様な意見があることへの配慮だと思いました。わずか数十秒の場面ですが、昆さんの登場がなければラウンドアップ一掃キャンペーン映画となっていたことでしょう。

 登場人物では、「沈黙の春」の著者レイチェル・カールソンを擁護した米国のJ・F・ケネディ大統領の甥で、環境法の専門家として活躍するロバート・ケネディJrのコメントも印象的でした。モンサントの企業文化そのものが「悪」であるというその指摘はいったいどんな経験から導き出されたものなのか、モンサント社の歴史を詳しく調べてみたくなりました。それにしてもラウンドアップ販売元の日産化学の説明資料はかなり強気な内容で、抗議や訂正要求を受けた雑誌・新聞やテレビ番組の一覧も掲載されていますので、あわせて読むとよいでしょう。

 昨年暮れに亡くなられた有機稲作の指導者、稲葉光圀さんも登場しています。有機栽培のコメを利用した学校給食の広がりは、この人抜きにはなかったことでしょう。ブータンや中国などにも稲葉さんが確立した有機栽培の技術が広がっています。

 この映画は7月2日に一般公開。いまのところ、有楽町イトシアプラザのヒューマントラストシネマ有楽町、UPLINK吉祥寺での上映が決まっています。





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