消費税廃止でもパンチ力不足?「コロナ」の経済危機は「リーマン」より深刻

 

 2008年のリーマン経営破綻後の金融大混乱はいわば資源のバブルに浮かれたひとたち中心の危機でした。

 今回の新型コロナウィルスによる経済の混乱にはほとんど全地球が巻き込まれそうです。

 リッチなひとにも、そうでないひとにも、人種にも、そして国籍、住んでいる地域にもお構いなしにコロナ不況は襲ってきます。

 世界経済に与える衝撃や影響はリーマン危機どころではないと私は思います。

1、資源バブル、漁業の存続脅かす

 

 証券会社リーマン・ブラザーズが破産申請をしたのは2008年9月15日でした。その半年くらい前から異変の予兆はありました。

 燃料代が暴騰し、フランスで漁師たちが暴動を起こしていました。日本でも春から夏にかけて高速道路を走る車が激減しました。ご記憶の方も多いことでしょう。

 日本の漁船も遠洋漁船から近海、沿岸の漁船まで採算割れで出漁を取りやめたり、航行速度を下げたりする例が続出していました。

 「我々の苦境をどうしたら一般国民にもわかってもらえるだろうか」

 当時、漁船の経営状態を取材していた私は、沿岸漁業者の団体である全国漁業協同組合連合会の専務理事(故人)から相談を受けました。

 「ストライキでもやらなければ、振り向いてもらえないでしょう」

 私はそう答えました。

2、漁師の一斉休漁、「原油高」崩す

 ベテランの水産専門紙記者も全漁連の首脳たちに「ストライキ」をけしかけました。大日本水産会も乗り気になりました。そして、2008年7月15日、北海道から沖縄まで、日本中の港で漁船が出漁を中止しました。

 「漁師の一斉休漁」です。

 全国で漁船およそ20万隻が参加したといわれています。「漁に出られん」という漁師たちの訴えは国民の共感を呼びました。政府も世論に押される形で、燃油代が一定以上に上昇すると差額を漁船に補填する仕組みを作りました。

 普通のエコノミストたちからは笑い飛ばされてしまうのですが、私は日本の「漁師の一斉休漁」こそ、原油価格の暴騰にブレーキをかけ、その後のリーマン破綻に象徴される金融危機の引き金になったと思っています。

 漁師たちの経費を直接補填する前例のない政策です。「こんな異常な原油高、燃料油価格では漁業は産業として壊れてしまう」という漁師たちの危機感を政府・与党も共有したからこそ実現した政策です。

 当時の原油高は「裸の王様」でした。日本の漁師たちが「高すぎる」と怒って一斉休漁した後、半月も経たぬうちに原油価格は大幅な下落に向かいました。ウォール街の投機家たちは、豊かな日本から聞こえてきた漁師たちの悲鳴にバブルの終わりを感じたのでしょう。

3、前例のない危機に前例のない政策

 原油価格が急落した結果、日本の漁師たちが一斉休漁で勝ち取った燃油代の補填制度は、幸か不幸か、発動されぬままとなりました。しかし、負担の上限がはっきりとわかったことで、漁師たちはどれだけ安心したことでしょう。廃業を思いとどまる人も多かったはずです。

 中国のような共産主義国家ならともかく、自由主義経済のもとで漁船が使う燃油代を補填することは考えられない制度です。当初は水産庁ですら制度創設に否定的でした。

 しかし、前例踏襲型の政策では、前例のない危機は乗り越えられないのです。

 リーマン破綻後は、日本国内でも外国でも、金融大混乱で破綻しそうになった企業や業界を救うためなら、それが自動車メーカーのような大企業であっても補助金を投入して支えるという、従来の常識では考えられないような産業支援策が続々と登場しました。

 漁船向け燃油代補填制度が一つのモデルになっているのです。

4、社会を覆いつくす「コロナ」の衝撃

 イベントが中止、学校が休校、出張や会議、会食も続々と取りやめになっています。中国やイタリアのように都市封鎖や移動の禁止といった措置が日本でも始まらない保証はありません。

 1997年7月のタイ・バーツ暴落に始まるアジア経済危機の原因は財閥などによる過剰投資、過剰債務でした。

 2008年11月のリーマン破綻後に広がった金融危機は、中国やブラジルなど新興大国による資源や不動産の買いあさりも背景にありました。

 傷の深さこそ違いますが、いずれの場合もバブルとして整理できる経済現象でした。

 新型コロナウィルスの蔓延による経済危機はこの2つの経済危機とは性質が異なります。非常事態発生による社会の変化がもたらす経済の異変です。ほぼあらゆるセクターが影響を受け、落ち込みも深そうです。

 報道によると、ドイツのメルケル首相は11日、保健相や国立の感染症研究所の所長らとともに会見し、「ドイツ国民の60%から70%が新型コロナウイルスに感染する可能性がある」と警戒を呼びかけたそうです。

 同首相は「実態のよくわからないものを相手にしている。収束には数か月、もしくは1年かかるかもしれない」とも語ったそうです。まだ、新型コロナ感染は初期段階なのです。

 日本でもそんなシミュレーションは行われていることでしょう。早く公表して、国民にも覚悟を持たせることも必要だと思います。政府が東京オリンピックの開催にとらわれていると、必要な対策を実行できなくなる恐れすらあるのです。

5、廃業・破綻の第一波始まる

 戦争であれば、軍需産業が潤います。コロナ危機で医療・医薬産業が潤うことがあるかもしれませんが、局所的です。受益者も限られる特需への期待は禁物です。

 国内最大級のレストラン船「ルミナス神戸2」を神戸港で運営するルミナスクルーズ(神戸市)は今月2日、神戸地裁に民事再生法の適用を申請しました。新型コロナによるキャンセルを原因とする倒産として大きく報道されました。廃業や破綻の第一波はもう始まっています。

 経済危機は大きな会社が破綻してから生じるのではありません。それ以前から進行しているから大きな会社が破綻してしまうのです。それも時間の問題でしょう。企業や自営業者が不安を感じなくて済むよう、一刻も早くセーフティネットを用意しなくてはなりません。

 上げてしまった消費税をまた元に戻すくらいでは、景気を刺激する効果などしれています。いっそ消費税をゼロにしたほうが、経済を殺さないという政府の強い意志がわかりやすく国民に伝わるかもしれません。

 家庭向けには、日本中どこでも外食や旅行を含めなんにでも使える割引クーポン券を配って消費を刺激したらよいと思います。ぱったりと消えてしまったインバウンドの観光客の分を含めて、イベントや会議・旅行のキャンセルの被害額に匹敵するくらいの消費、内需を作り出す必要があります。

6、今度こそ、既得権の「岩盤」粉砕を

 20年、50年先の日本を考えて改革に取り組むいい機会かもしれません。

 医療、AI、情報通信といった成長部門に加え、国土強靭化など投資の対象はいくらでもあります。激増中の外国人労働者やその家族が日本に住み続けることも視野に入れた社会制度の設計もすすめなければなりません。

 様々な事業を外資企業に売ってもいいし、外国企業から買収したっていいです。とにかく経済や産業を動かし、お金を回し続けることが必要です。政府が産業部門の需要を創出することは難しくても、民間の投資を促す手段はいくらでもあるはずです。

 国や地方の行政や財政の仕組みも大きく変えていけばいいのです。既得権に安住したかのような国会・地方議会、公務員制度のあり方を含めて社会の仕組みを作り替えていく好機が、図らずも到来したのかもしれません。

 身近なところから上げれば、都営地下鉄とメトロの経営統合から一向に具体化する気配のない「道州制」や「首都機能移転」に至るまで棚ざらしになった重要課題は山積しています。経済を、政治を、とにかく転がし続けて、知恵とお金を循環させることが何よりも大切だと思います。


 

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