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「接待要求」「癒着」を廃絶する環境づくりが必要~利権・裁量が広がる水産庁

 「漁協幹部が水産庁職員から接待を要求された」――そんな情報提供をもとに人事院は2022年度のある時期、水産庁に事実関係の調査を指示しました。
水産庁は関係者の事情聴取を進めたものの、国家公務員倫理規程に違反する職員による接待要求事実は確認できなかったもようです。その結果が分かったのは、つい最近のことです。

 漁協は、東日本大震災被災地の水揚げ回復を目指す「がんばる漁業復興支援事業」を利用して、組合所属の漁業者による大型漁船を更新するプロジェクトを推進していました。接待を要求したとして名指しされたのはそのプロジェクトにかかわる水産庁職員でした。

 プロジェクト担当の漁協幹部職員が接待の場として設営したとされるのは東京の下町にある小料理屋で、それなりに飲食すれば一人あたり1万円を少し超える金額になる場合もあるようです。

 水産庁といえば、2021年9月、漁業者から高額接待を受けたとして幹部職員を懲戒(減給10分の1を2カ月)処分したことがありました。クロマグロの漁獲枠配分をめぐって話し合う監督官庁と漁業者という利害関係がある中での高額接待があったのです。

 そこで「がんばる漁業」についても、水産庁に情報公開請求したところ、関係者数名に事情聴取した内容を記した一覧表が手元に届きました。調査項目やその結果を含めて全部が黒く塗りつぶされていて、判明したのは確かに接待要求についての情報提供があり、それについて事実確認の調査が行われたという点のみです。

 調査しても違反事実が確認できなかったようだとわかるのは、国家公務員倫理規程違反を監視している人事院が、疑惑情報の提供者に調査結果を通知する仕組みになっているからです。

 霞が関全体で規制緩和が進む中、水産庁が所管する漁業部門だけは資源管理という名のもとに国の関与、裁量が広がっている世界です。漁獲可能量(TAC)を設定し、それを個別の漁業者ごとの漁獲枠(IQ)として配分する権限を持ち、「がんばる漁業」などのように一定の条件を満たす漁業者の漁船建造も支援しています。

 さらには洋上風力発電と漁業への影響の評価や助言、漁港関係施設を民間企業でも利用できるようにする「海業」の振興などにより、水産庁が握る利権、影響力は拡大するばかりです。

 がんばる漁業事業での接待要求疑惑は、それが行われたとされるのが2017年ごろで、すでに支払い記録や関係者の記憶も消えて、立証が困難だったのか、そもそもそうした接待自体なかったのか、詳細は不明です。

 しかし、水産庁を取り巻く大きな環境の変化を考えれば、今後も繰り返し起こりうる問題として、チェックする体制の強化が必要だと思います。

 例えば、漁獲枠の配分や業者選定プロセスの透明化を進めたり、利害関係のある漁業団体や企業に天下りしたり、再就職した元職員との癒着を防ぐ仕組みを考えたりする工夫が必要でしょう。

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