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大間産まぐろ「ヤミ漁獲」~水産庁・青森県はなぜ告発を躊躇しているのだろうか?

出荷業者から情報提供得られず


「海産物を取り扱う事業者として、水産資源のサステナビリティを担保しなければならない立場であるにもかかわらず、漁獲枠内であることの確認が十分にできていなかったことは有ってはならないことと認識しております」

 回転ずし大手のスシローを運営するFOOD&LIFE COMPANIES(以下、フード社と省略)が3月31日夕、「食材に関するお知らせ 続報」と題するプレスリリースを同社のホームページで公開しました。

 フード社が扱った青森県の「大間産まぐろ」が国の定めた漁獲枠内のものかどうかの確認作業が不調に終わり、「漁獲枠内であるという確証が得られない食材をお客様に提供してしまったことは大変遺憾な事実であり真摯に受け止める」という内容です。

 静岡市中央卸売市場に青森県の大間産のクロマグロが唐突に大量出荷されたのは2021年夏です。市場の統計では9月におよそ30トンが確認できます。しかし、関係者の話をもとに調べていくと、実は前月の8月にも30トン程度の大間産クロマグロが出荷されていました。

マグロを「その他鮮魚」と報告

 荷を扱った静岡市場の卸売会社、三共水産がクロマグロなのに「その他鮮魚」として相対で販売したため、市の市場統計上、マグロ取扱数量から抜け落ちてしまっているのです。海のダイヤモンドとも呼ばれる高価なクロマグロ、その最高峰である大間産のマグロが雑魚扱いです。

 卸売市場の開設者であり、業者を監督する立場の静岡市はその事実をつかんでいるようですが、オープンデータとしてだれでも閲覧、利用可能なかたちで開示している統計の修正には至っていません。市の条例に基づき業務の改善を指導する中で是正していくのだろうと思われます。

「セリで販売する品目だと思い込んでいて、相対取引でしか買い手が見つからなかったのでマグロではなくその他鮮魚として扱った」

 そんな説明を卸売会社はしているようですが、静岡ではセリ方式以外でもマグロを販売することはできるようになっているので、マグロはマグロとして取引の記録を残せばいいはずです。単なる勘違いなのか、意図的なマグロ隠しなのか、気になるところです。静岡市や卸売会社による詳しい説明を期待したいところです。

 とにかく、去年の夏に合計60トンもの大間産のクロマグロが静岡市場に出荷されたようです。そして、そのうち50トン近くを大阪の仲卸業者が買い取りました。その業者から関西を代表する水産流通大手OUGホールディングスの卸売会社「うおいち」を経由してスシローなどを運営するフード社が買ったのです。

 うおいちからフード社に販売された数量は明らかでありません。しかし、発表によると柵に加工した状態での数量が17トン弱とありますから、歩留まり率を考えると、もともとの魚体重量で30トン前後はあったとみられます。店頭で消費していない在庫があれば、さらにその重量は増えるでしょう。

大間漁協が未報告追認の文書渡す

 それが漁獲未報告のマグロではないかとする指摘を3月11日に受けて、フード社は確認を続けていたわけですが、産地の出荷業者に漁業者の漁獲報告実施状況についての説明を受けることができませんでした。

 私が得た情報では、静岡市場の三共水産は、大間漁協から地元の出荷業者2社合わせて8トン近くの未報告分は追加申請(修正報告)済みであるとする文書を3月28日付でもらっています。

 同社はそれをもって漁獲報告の確認は完了と考えたのかもしれませんが、裏を返せば、ヤミ漁獲が少なくとも8トンあったということになります。そして残り50トン以上のマグロの漁獲報告はどう扱われていたのかという疑問も解消されません。大間漁協から受け取った文書は、ヤミ漁獲を見つけたので県に報告した、という事実を示す以外、どんな意味があるというのでしょう?

 青森県は今年1月、大間漁協など県内4漁協に対し、クロマグロについて漁獲未報告の調査結果と自主的な処分について2月の県クロマグロ管理委員会に報告するよう指示しました。そして大間漁協が2月に作成し、管理委に提出した報告文書では数量はわずか4トンと書かれていました。

 しかし、大間漁協が三共水産に渡した文書では、2業者による販売分だけで8トンもの未報告を確認し、修正したと説明しています。管理委に報告した4トンは間違いだったのでしょうか?

「過失」として公表を避ける狙いか?

 管理委向けの大間漁協の報告で注目すべき点は、違反の原因として「(未報告だった漁業者)本人が漁協から指導を受けておらず、報告義務を知らなかった」と書かれてあることです。つまり、意図的な違反ではなかったと主張しているわけです。

 もし、マグロ産地の青森県大間で漁獲報告義務が周知されていないのであれば、クロマグロ資源管理の全体が根本から崩れてしまいます。漁協が漁業者に注意喚起しなかったということは信用できません。

 なぜなら、水産庁と青森県からの要請を受け、大間漁協は地元の出荷業者を通じて漁業者に漁獲報告漏れがあれば申し出るように呼び掛けていて、現に十数トン分の追加報告を行っています。

 それでも未報告があるとみた青森県は昨年12月下旬に出荷業者立ち合いのもと漁業者を個別に呼び出して事情聴取まで行いました。今年2月のクロマグロ管理委員会への報告はその事情聴取で判明したヤミ漁獲分ではないかと思われます。未報告はかなりの部分、意図的なごまかし、隠蔽であった可能性が高いと言わざるを得ません。

 法律では懲役や罰金刑が科せられることになっています。水産庁であれ、青森県であれ、大間の漁業者による漁業法違反(漁獲のごまかし、ヤミ漁獲)を確認したのであれば、警察や検察庁に告発する義務があるはずです。

 大間漁協が違反理由として「漁業者は報告義務を知らなかった」と言い訳するのは刑事罰を回避する狙いがあるのかもしれませんし、そうした報告を求めたのは、監督責任を問われる青森県なのかもしれません。

 つまり、「ごまかす意図のない過失だった」としてヤミ漁獲を隠蔽しようとしている可能性があるかもしれません。水産庁には、大型まき網漁船による養殖種苗用のクロマグロ漁獲が一律1尾2kgだったとする虚偽報告を修正のみで放免した過去があります。「ごまかす意図はなかった」とかばったのです。

資源管理定着のため情報公開が必要

 そんな疑念を抱いて、なぜ漁獲報告のごまかしを告発しないのかと水産庁や青森県に問うと、いずれも「個別の案件については答えられない」という返事ばかりです。

 水産庁や青森県がクロマグロの違法漁獲の実態を明らかにしないままの状態は、全国の漁業者の我慢と犠牲と監督者への信頼によって成り立っているクロマグロ資源管理を定着させていく上で、決して好ましいことではありません。国や県への信頼が失われようとしているからです。

 すでに昨年11月から大間の漁業者によるクロマグロ漁獲の未報告問題はメディアで取り上げられています。国や県はそろそろ大間で長年続いていたとされるヤミ漁獲の実態について明らかにすべき時期にきていると思います。

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