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【海のナンジャラホイ-37】ワレカラを運ぶ

ワレカラを運ぶ

ワレカラは楽しい

ホンダワラ類の大型褐藻類が作る「ガラモ場」と呼ばれる海のジャングルの中には、たくさんの小さな「葉上動物」が住んでいるというお話をしたのは、このブログシリーズの第7回の時でした。この葉上動物の中のワレカラという小さな甲殻類が、私の長らくの研究対象で、海のナンジャコリャーズ絵本シリーズの第1弾が「ワレカラ」だったのは、そのためです。ワレカラは体の大きさが普通はせいぜい2~3センチくらいだし、すみかとよく似た色をしているため、海の中で目立つ生き物ではないし、むしろ見つけにくい生き物です。ところが、見慣れてくると、その動きの面白さや可愛らしさに気付き、なんだか小人を見ているような感じがしてくるのです。海藻の枝葉の上を這い回る様子、枝から枝に乗り移る様子、枝の先端にとどまって、静かに海水の動きに身を委ねている様子、時々触角を動かしたり餌を捉えたりする様子、時には戦いや威嚇行動を見せてくれることもあります。
でも、藻場のジャングルはごちゃごちゃしていて、スキューバダイビングの時に、海中でこれらの観察を行うのは、至難の技です。何と言っても、観察しやすいのは、水槽の中です。元気なワレカラを海から運んできて、水槽の中に入れた海藻片につかまらせて観察するのが一番良いのです。何世代も回すような本格的な長期飼育を目指すのでなければ、エアレーションと濾過をしている海水水槽で、観察を楽しむことができます。水槽の中のワレカラたちをじっと見ていると、飽きることがありません。時間を忘れてしまいます。

海の生き物だけど海水には入れません

でも、海水の水槽を準備しても、海からワレカラを元気な状態で運んでくるのは、ちょっとだけ難しいのです。海の生き物だからと、海水の入った容器に入れて持って帰ろうとすると、帰るまでに死んでしまっていることが多々あるのです。ワレカラは鰓が小さくて、いつも海水の動きに体をさらしている必要があります。かなり酸欠に弱いわけです。海水の温度が上がれば溶存酸素は少なくなって、すぐにアウトですので、運搬するときは、冷蔵が原則です。でも、流動海水に晒しながら持ち帰るのは、いずれにしても難しいのです。
実は、一番良い方法は、海水に入れないことです。海水で湿したペーパータオルで挟んで、海水には浸らないけれど湿った状態に保ちます。私たちはワレカラを挟んだ濡れペーパータオルをジップロックに入れて、それをクーラーボックスで運ぶのが常です(第11回参照)。この状態だと丸1日は飼育できる状態で運べます。生体観察などのために生かしておくだけなら、もう1~2日保つ場合もあります。エラが湿った状態で酸素を取り込めるのであれば、酸欠の海水に浸されるよりは良い、ということなのでしょう。

海水に浸けない運搬法

甲殻類で行われる同じような運搬の仕方をご存知の方も多いでしょう。イセエビやクルマエビやケガニなどでも、海水で湿らせたおがくずに入れて運ぶことができます。これも、ワレカラの場合と同じ理屈なのでしょう。甲殻類ではありませんが、ウニを生かして運搬するときも、やはり海水には漬けず、海水で湿らせたスポンジで包んで、低温で運びます。酸欠を防ぎ、抱卵や放精が起こらないようにするためのようです。海水に住んでいる生物なのに、海から切り離された海水は、負に働くことがあるということですね。
自宅でワレカラたちの動く姿をじっくりと見たいと思われる方々、ぜひ今回お話しした「海水につけない運搬方法」を試して見てくださいね。ワレカラたちの世界に魅せられる人たちが増えてくれることを、こっそり期待しています。

○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。

『われから』


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