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【海のナンジャラホイ-38】海のナンジャコリャーズ誕生!

海のナンジャコリャーズ誕生!

まずはワレカラ

研究者というのは、未知の事実を掘り起こしてゆく仕事です。教科書に載っていないどころか、まだ世界の誰も知らない事実を見つけ出してゆくのです。新しい発見があると心が震え、身体中の細胞が沸き立つような感じがします。その瞬間があるからこそ、経済的な苦労や過酷な調査や地道な作業にも耐えることができるのです。そんなわけで、研究者は各々が語りたい物語、それも誰もまだ知らないような物語を抱え持っています。でも、それを語る場所は、学会や学術雑誌や専門書であることが多いのです。なかなか一般の方々に語る機会や知ってもらう機会がないのです。
前回お話ししたように、私は大学院時代からワレカラの研究を行っていたため、ワレカラという生き物の面白さを多くの人に伝えたいと思っていました。私は昔から絵本というメディアが好きで、国内外の絵本で気に入ったものを手元に集めていたこともあって、ワレカラについての絵本を作りたいと思うようになりました。そんな折に大学時代の同級生の畑中さんに会う機会があり、ワレカラについての絵本制作の話を持ちかけたのです。彼女は、それまでに「オタマジャクシの尾はどこへ消えた」という科学絵本の作画をなさっていたのですが、その絵の、不思議な暖かさを伴った緻密さに私は魅了されていたのです。この絵で是非ワレカラを描いて欲しいと思って、自分で描いたワレカラ絵本の絵コンテのような構想を彼女に見せて、ワレカラの絵を描いてくれないかと頼んだのです。そこからワレカラ絵本の企画と制作が始まりました。畑中さんはワレカラの標本やビデオ映像などありとあらゆる関連情報を集めて見事な作画を行なってくださり、2010年に自費出版で「われから」という絵本冊子を世に出したのです。500部ばかり作って「売り切るのに何年かかるのだろう」と心配していました。ところが、博物館のショップに置いて頂いたりしたところ、1年も経たないうちに売り尽くしてしまったのです。それに気を良くして、絵本の出版社のいくつかに「われから」絵本冊子を持ち込んで、出版を相談したのですが、全滅でした。それで、「われから」絵本はお蔵入りになってしまったのです。
 ところが、時が過ぎて2018年になり、学会でお会いしたK先生にワレカラ絵本を出版することを勧められたのです。そして、仮説社の編集者Aさんを紹介されました。K先生はワレカラの絵本冊子をとても気に入り、その後どうなったのかを気に懸けて下さっていたのです。畑中さんと私とAさんは何度も打ち合わせを重ね、もとのワレカラ絵本冊子の前後に解説ページをつけて、大判化して2019年に出版することができました。おかげさまで、絵本『われから:かいそうのもりにすむちいさないきもの』は、多くの方々に受け入れて頂き、重版に至ることができました。

シリーズ名決定!

ワレカラ絵本が出版されるのに先立って、編集者のAさんからシリーズ化の可能性について打診がありました。単体での出版だと思っていたので、畑中さんと私は驚きました。私にとっては、シリーズ絵本というのは夢のようのお話でした。畑中さんはワレカラ絵本の作画で完全燃焼されていたはずなので、続きがあるというのは、登山の時に頂上の位置を持ち上げられたような感じだったのではないでしょうか? でも、私たちは挑戦することにしました。そして、2020年に『わかめ:およいでそだってどんどんふえるうみのしょくぶつ』、2022年に『うに:とげとげいきものきたむらさきうにのひみつ』の出版に至ったのです。
シリーズ化するにあたって「シリーズ名を何にするか?」という相談がAさんからありました。「海」が入った名前が良いのでは、ということになって、お互いにいろいろな案を出し合いました。でも、どれもいまひとつ、しっくりきませんでした。そんなある日、Aさんから私のスマホに電話がかかってきました。声が弾んでいます。背景には駅のアナウンスが聞こえます。「いま、思いついたのだけれど、ナンジャコリャーズっていうのはどうでしょう?」と言うのです。「不思議なものとかすごいものを見た時に、ナンジャコリャー!って言うでしょう。いいと思いませんか?」と。私は、正直なところ、ふざけているような感じで最初は違和感がありました。でも、絵本のコンセプトにこれ以上しっくりくるシリーズ名がないことも認識しました。そんなわけで、シリーズ名は「海のナンジャコリャーズ」に決まったのです。これまでに出た3冊のいずれでも「ナンジャコリャ??」と呟きたくなる画面に遭遇することを思うと「こりゃ、なかなか良いシリーズ名だったな!」と独り言ちるのです。

○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。

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