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【海のナンジャラホイ-35】えび反りのはなし

えび反りのはなし

えび反りは海底で

ご存知のように、体をググッと後ろにそらすことを「えび反り」と言います。スキューバダイビングの時に、えび反りは大切な技術のひとつです。背中に空気タンクを背負って潜る時に、普通に体を伸ばしていると、フィンを着けた蹴り足が、どうしても下に向いてしまいがちになります。海の中層を泳いで進む時には、それでも大きな問題はありません。でも、海底の近くで浮力を調整しながら泳ぐ時、フィンを下向きに蹴ると、海底の堆積物を舞い上がらせてしまいます。とくに、海底が砂や泥の場合は大変です。フィンキックで砂や泥を舞い上がらせてしまうと、一気に周辺の濁りが増して、ひどい時には周りがほとんど見えなくなります。一度舞い上がった泥はなかなか沈降しないので厄介です。後続のダイバーがいる時には、大変な迷惑をかけることになります。
このような海底からの舞い上げを避けるために、「えび反り」が必要なのです。体をぐっと反らせて、左に90度横倒しにしたアルファベットのCの字にします。背中の窪みにタンクが収まるようにして、頭は前斜め上方に、足は後ろ斜め上方に持ち上げます。この状態で浮力調整しながらフィンの先が下に向かないように斜め上方から横方向にキックするのです。このやり方に慣れてくると、ふわふわの泥の上ギリギリまで降りていって、生物の観察や写真撮影なども行うことができます。気分的には、オウムガイになった気持ちを体感できます。

私は腰痛もち

こんなことをしょっちゅうやっているし、腰には重い鉛のウェイトを巻いたりするものだから、長くダイバーをやっている人には腰痛が持病の人が多いようです。私もご多分に洩れず、20歳代から腰痛持ちです。椎間板ヘルニアで入院したこともあるけれど、腰痛対策の筋トレをやったり、バランスチェアを使ったり、ウォーキングをやったり。時々ギックリやられて倒れてしまうこともあるけれど、なんだかんだその時々に対策をとることで、生き延びてきました。
脊椎動物である私たちにとって、背骨は大切です。体の大黒柱であると同時に、大切な神経の通り道でもあるからです。だからこそ、腰痛にも悩まされるのです。私たちの体の中で、内臓は背骨や肋骨に守られて、体の「腹側」に配置されています。だから内臓のことを「腹わた」と呼ぶわけです。

「腹わた」と「背わた」

つまるところ、私たちの体では、神経系は背側に、消化器官系は腹側にあると言えるのです。まあ、バカバカしいくらい当たり前のことですよね。では、ここで、エビやカニなどの節足動物甲殻類に目を移してみましょう。エビに「背わた」というのがあるのはご存知でしょうか? エビ料理を行うときに、エビの背の部分にある黒っぽい筋を取り除く作業を「背わた取り」と言います。黒い筋は見た目も良くないし、食感も悪いので取り除くわけです。この「背わた」はエビの消化管です。おや、なんだか変ですね。「腹わた」ではなくて「背わた」なのです。そうです。背わたがあるのは、エビのもっとも背側なのです。では、神経系はどこにあるのでしょうか? エビは外骨格の動物ですから、背骨はありません。背わたは、背中を覆う甲殻の直下にあります。そして、神経は一番腹側にあるのです。そうなのです。エビでは、消化器官系は背側に、神経系は腹側にあるわけです。

エビはえび反りか?

私たちの体のつくりを基準に考えるなら、エビの体制というのは、まさに「えび反り」していることになります。逆に、エビたちの体のつくりを基準に考えるなら、私たち脊椎動物の体制は、えび反れば、エビに近づくことになるのです。なぜこんな体制の裏返しが生じたのか、その説明がすでに行われているのか否か私は知りませんが、たまたまなのか理由があるのか、いつか知ることができたら良いですね。
ちなみに、エビだけでなく、甲殻類では、カニでもワレカラでもヨコエビでも、背中側に消化管があります。どこに消化管があるのか、探しながら、彼らの観察を行ってみるのも、面白いかもしれません。

○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。

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