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『ウエハースの椅子』江國香織


“ウエハースの椅子のように触ると壊れてしまう不安定な関係“

妻子持ちの恋人と画家の主人公。

青い屋根、漆喰の洒落たマンション、
ベランダでの朝食、ハーブティー、猫、
クラシック、時折現れる美しい恋人。

これでもかと散りばめられたおしゃれワードに彩られる主人公。
なのに実態が見えてこない。

まるで“紅茶に添えられた使われることのない角砂糖のよう“に。

居場所のなかった子供時代、恋人の存在なしに自活もままならない現状。

そんな自分に鬱屈した思いを抱きながらも、現実を受け止めるにはあまりにも繊細過ぎる彼女はただただ緩やかな死を望む。

現実という怪物の口に投げ込まれ、すべての汚物、忌むべきものの混沌に晒されて死ぬよりは、籠の中の鳥として美しく死にたい。


絶望しか選び取れないジレンマ。

悪夢と幻想はよく似ている。

夢の中の世界に生き続ける、そんな人がいたっていい。

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