愚笑

文字の羅列を追いかけることで、世界に没頭していた午後4時27分、一際大きな音で、私は視線を上げざるを得なかった。
学生服を着た男女のグループが、和気あいあいと乗車してきたのだ。グループの会話に意識が向くが、周りのどこよりも「声が大きい」という認識しかできず、会話のないような一切耳に入ってこない。

耳障り、とまではいかないが、集中力も途切れてしまったため、私は一度視線を下げ、どこまで目を通したかを確認してから栞を挟み、本を閉じた。

本の世界に入ることもできず、グループの会話を聞き取ることもできず、完全に手持無沙汰になった私は、仕方なく、仕方なく、自分の学生時代の記憶を、掘り返してみた。

ろくに勉強もしなかった3年間、何よりも友達と過ごす時間が楽しかった。

――あぁ、私も学生の頃はあの子たちのように、周りなんて気にせずに、笑っていたのかもしれない。

少しだけ、苦笑いを浮かべる。

今あの子たちは元気にしているか
過去を振り返れば今が気になるのが必然とでもいうかのように、私は学生時代の友を思い浮かべる。

だが、頭に浮かぶのは学生服を着た頃の記憶だけで、現在の姿は全く想像できない。


ふと、車窓に反射する、自分の姿が目に入った。


学生服は、もちろん着ていない。
何もかもが変わった姿で、目的地に向かう電車に、ただ揺られている。

私は未来に進んでいる。
学生服を着ていた私は、まさしく過去だ。
だが、彼らは――――

気が付けば喧騒はなくなり、車両には私一人が取り残されていた。

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