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高岡駅南クリニック

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【富山】「富山県創傷ネットワーク」を創設、病院と在宅医療の垣根を越えてノウハウを共有‐塚田邦夫・高岡駅南クリニック院長に聞く◆Vol.2痔の日帰り手術を年約50件実施、新規開設の「爪外来」が人気
2023年10月27日 (金)配信m3.com地域版
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 高岡駅南クリニック(高岡市)院長の塚田邦夫氏は褥瘡の原因の一つである低栄養の状態を改善するため、同市内で高岡在宅NST(栄養サポートチーム)研究会を開催し、同市内での在宅医療ネットワークを強固にしている。その中で塚田氏や高岡駅南クリニックはどのような役割を果たしているのか。地元での取り組みについて塚田氏に聞いた。(2023年8月18日インタビュー、計2回連載の2回目)

▼第1回はこちら

塚田邦夫氏

――褥瘡の原因の一つは栄養状態の悪化だそうですね。栄養改善の取り組みについて教えてください。

 診療などで採血結果について話す時にはアルブミン値に注目し、4.1以下は低栄養になりかかっていると話します。たんぱく質である肉・魚・卵・納豆・豆腐などをしっかり摂取するよう勧めています。3.8以下ですと免疫力が低下し、3.5以下は栄養失調と伝えます。食事量が著しく低下している方には、サプリメントを勧めています。

 栄養改善は、単に栄養補助食品を処方すればよいわけではありません。課題を抱える患者の多くは高齢者ですが、それまで何十年と続けてきた食事の癖や好き嫌いがあります。また、高齢者は多くの量を食べることができません。そこで食事の量が増えず、好き嫌いの好みを知った上でエネルギー摂取を増やさねばなりません。たんぱく質を増やし、かつおいしく、歯の状態や咀嚼する力、飲み込みの能力に合わせた食事を提供します。しかもこれらの指示を家庭での献立に反映させるため、家族や介護を担うスタッフに伝えて継続してもらわなければならないのです。

――2006年に「高岡在宅NST研究会」を発足されました。研究会の役割について教えてください。

 褥瘡対策に関わり、栄養改善の必要性を痛感するようになりました。2000年ごろは、栄養失調になった患者さんや、他の病気で入院して低栄養になったならば、点滴をするなどのいわば強制的な方法で改善を図りました。すると病院にいる間、ある程度は良くなりますが自宅に戻ると元の状態になってしまいます。病院では在宅でどのように栄養状態を維持するかについて指導していないのです。それが当時の状況でした。そこで、「病院と在宅で患者さんの栄養に関する情報の共有が必要」という目的から管理栄養士や看護・介護の専門家などが参加して「高岡在宅NST研究会」を始めました。

 当初、在宅側と病院側から症例を提示して話し合ったり、在宅の栄養状態を把握するための調査を始めたり、栄養評価の指標作りを始めたりと試行錯誤しました。年4回の開催は負担が大きかったため、年2回に縮小しました。現在は、病院側と在宅側が交互に当番の世話役となり、それぞれが進めやすいように担当した会の企画を担っています。

 病院側は主に、院内での栄養関連の取り組みについて講義しています。在宅側は、栄養関連で実績のある講師を招き、専門の分野をテーマに講演してもらうスタイルが多いです。どちらが世話役を務める場合でも在宅での症例を一つ以上提示し、検討する案件としています。少しずつですが、病院側は在宅側の実情が分かるようになり、在宅でも栄養に関する取り組みが進んでいます。

――多職種職連携および地域連携のあり方について考えを聞かせてください。

 よかれと思うことは全て実施してみること。そして、ダメだったら修正・あるいはやめる……という考えです。いろんな人を巻き込んでいます。栄養改善の取り組みでは、管理栄養士のいる場面では集団栄養指導に力を入れ、弁当の昼食を食べながらその時のメニューに用いられている食材の栄養素について話します。食事の後は理学療法士や作業療法士に筋力を付ける運動を実技指導してもらいます。

 訪問診療では、なるべく介護支援専門員に同席してもらい、褥瘡の患者さんの初回訪問や重要な場面では訪問看護師、福祉用具専門相談員などにも来てもらいます。当院からは医師と理学療法士、看護師、管理栄養士も同席します。その上でシート状の体圧測定器を用い、座位姿勢やクッションを変えることで、いかに体圧が変化し、座り心地や寝心地が変化するかを本人・介護者などに伝えています。

 血液データなどを示し、栄養改善策などを管理栄養士から、姿勢の整えや移乗・移動法については理学療法士などから指導してもらいます。継続が必要な方については訪問栄養指導や訪問リハビリの必要性を伝え、賛同が得られれば即、開始します。最も重要な職種として訪問看護師の必要性を話し、導入を承諾してもらいます。介護保険の限度額が問題になることもありますが、介護支援専門員がその場で提案や修正をして解決します。これだけの職種がそろうと訪問者の人数が多く、びっくりされる家族もありますが、有意義な話し合いができます。

 ほかの医療機関との連携もスムーズです。最近は、退院前に基幹病院から情報が寄せられるようになりました。この点は、高岡地区がかなり進んでいると思います。「退院前に十分な情報共有がなければ在宅医療・介護を担う側は困る」と理解されています。退院後の体制スタートが2~3日遅れるだけで、致命的な結果になると分かってもらえたのだと思います。

――高岡駅南クリニックについて教えてください。

 開業時は医師1人、看護師3人、事務職員2人の計6人でした。管理栄養士や柔道整復師、理学療法士・作業療法士なども採用してきました。現在は全スタッフ約30人で、医師は4人(常勤2人)、看護師は6人です。2年前、糖尿病専門医で高岡市民病院などに勤めておられた蜂谷春雄先生を副院長に迎え、内科が充実しました。毎朝20分程度患者さんの情報交換をしていますが、本当に勉強になっています。これまでも全身を診るようにしてきましたが、内科的な考えがより深く分かるようになりました。

高岡駅南クリニックのリハビリ室

高岡駅南クリニックの待合室。石のコレクションは塚田氏の父、三郎氏のもの

 私の父は外科医で、富山県立中央病院で勤務した後、高岡市戸出地区で塚田外科医院を開業しました。高岡駅南クリニックの開業時にはまだ現役でした。東京医科歯科大学で勤務していたときも「いつかは故郷に戻って開業する」と私は思っていました。Uターンした後は富山医科薬科大学(現在の富山大学医学部)附属病院第二外科に入局しました。米国のクリーブランド・クリニックに留学していた時、富山医科薬科大学の教授、助教授に宴会とスキーに誘われ、その時の縁でお世話になりました。

 開業すれば風邪や腰痛や膝痛などさまざまな疾病を診なければなりませんし、皮膚科、整形外科、耳鼻科の知識も必要です。そこで高岡市民病院や厚生連高岡病院、富山医科薬科大学附属病院などにも出向いて見学し、これらの科で半年から1年半くらいずつ研修しながら開業の準備を進めました。東京医科歯科大学とのつながりを継続し、専門外来であったストーマ・創傷外来と褥瘡回診も続けました。また、開業後も手術をしたかったため、東京では東京都内の、富山県に移ってからは県内の肛門科がある医療機関に出向き、痔の専門の先生から手術と麻酔法を学びました。

 当クリニックでは年間約50件の痔の手術をしていますが、複雑な手術も日帰りで行えるようになりました。その理由は、仙骨硬膜外麻酔の工夫で痛みなく在宅で過ごせるようになったことと、創傷治癒理論を勉強していたため術後の創傷に対し、自信を持って処置ができるようになったことが大きいと思います。

――“傷の専門家”としての新たな活動はいかがですか。

 2021年5月、富山大学附属病院形成外科教授の佐武利彦先生とともに代表世話人を務め、「富山県創傷ネットワーク」を立ち上げました。定期的なセミナーや情報交換会などを通して、病院と在宅医療の垣根を越えて医師や看護師、薬剤師、栄養士、歯科医師、理学療法士などが知識やノウハウを共有しています。将来的には病院と在宅の症例のスムーズな連携を目指し、症例の発見と病院での治療、および早期の在宅治療への移行を進めていきたいと思っています。

 佐武先生と当クリニックで形成外科医が専門性を発揮できるようにするにはどうするかを話し合い、このほど「爪外来」を新たに開設しました。ちょうど、地元の新聞で爪切りの重要性について語ったこともあり、週1回の専門外来ですが、毎回10人ほどの患者さんが来ています。

――高岡駅南クリニックの未来像を教えてください。

 皮膚・排泄ケア認定看護師で優秀な人材を確保できれば、訪問看護ステーションを始めたいと思っています。そうすれば入院期間の短縮や、入院せずに在宅で快適に傷が治る患者さんが増えるはずです。また、私は72歳ですので事業を引き継いでくれる方を探しています。その際、1人で全てを担うのではなく、チームを組んで合議制で経営方針を決め、フラットな関係でクリニックを運営するような事業承継の形を考えたいと思っています。

 私自身は、クリニックがある地域を中心に自分の特技を生かし、何らかの役割を人生の最期まで全うできるようなコミュニティーで暮らしていきたいと思っています。高岡活性化のアイデアを出し合う「高岡4D-ポケット(通称タカポケ)」という取り組みに関わっており、私は医療者として、健康についての心配を最小限にできる立場になれたらと思っています。お年寄りや障害を持った方も生き生きとしていて「年を取るのも悪くないな。障害があっても楽しくやれそうだな」と思えるような、安心して暮らせる高岡市になればと思っています。

高岡駅南クリニック(クリニック提供)

◆塚田 邦夫(つかだ・くにお)氏

1979年群馬大学医学部卒業。同年より東京医科歯科大学第2外科にて一般外科・消化器外科・心臓血管外科・小児外科・救命救急センター・麻酔科などの研修を受けた後、文部教官助手を務める。1988年から2年間、米国のクリーブランド・クリニックで研修。1991年に富山医科薬科大学(現富山大学)第2外科へ入局。1997年に高岡駅南クリニック開業。日本褥瘡学会・在宅ケア推進協会理事長、地域医療薬学研究会理事、日本褥瘡学会特別会員、日本創傷・オストミー・失禁管理学会特別会員、日本創傷治癒学会特別会員、日本消化器内視鏡学会指導医、日本外科学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医。

【取材・文・撮影=若林朋子】

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わたしの筆箱紹介

2000年富山国体少年男子メディカルトレーナー 2001年富山県立氷見高等学校男子ハンドボールメディカルトレーナー 2021年ハンドボール日本代表チームにメディカルトレーナーとして合宿に参加 2023年富山ドリームススタッフ