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アナリスト/スタイリストと体験するヴァーチャルファッションの可能性(1)──オルタナティブな自分との対話

2021年、インターネット上の仮想空間と物理空間の距離が急速に接近をしている。デジタル空間上にあったもうひとつの「現実」が、リアルな生活と重なり合い、匿名と記名が入り乱れるソーシャルメディアを代表に複合的な現実空間を生み出している。

仮想的なキャラクターであるアバターのデザインや視覚的な記録を超えた画像合成・編集技術の発展など、すでに複雑な「現実」のなかで消費されるファッションの情報環境から先端的な試み「ヴァーチャルファッション」が生まれている。

ヴァーチャルファッションのプラットフォームである「DressX」を、カラーアナリストのかいじんちゃんと、イメージコンサルタントのアサノシノとともに体験した。全3回でレポートを通じて、実在するわたしたちの肉体に、データ上の衣服を「着せる」ヴァーチャルファッションとは、ユーザー目線でどのような体験となるのだろうか。物理空間上のファッション体験と何が異なり、どのような共通の価値を受け取ったと言えるのか紹介したい。

第1回の今回はアナリストやスタイリストとはどのような職業で、ビューティー業界やファッション業界での立場を理解するとともに、ヴァーチャルファッションの背景を整理しながら、第2回以後に続くヴァーチャルファッションの体験へとつなげていこう。

参加者

浅野 翔(アサノカケル)|社会的移行を目指すデザインリサーチャー、サービスデザイナー。今回の話の発起人。未知の課題と可能性を拓くデザインリサーチ手法を掲げ、文脈の理解〈コンテクスト〉と物語の構築〈ヴィジョン〉を通した、新規事業開発・ブランド戦略・まちづくり・組織デザインなどの実現サポートをおこなう。

かいじんちゃん|CSCA認定16タイプ・パーソナルカラーアナリスト、化粧品検定1級/コスメコンシェルジュ、顔分析鎌田塾メイクアップアーティストコース卒業。変な服と変な音楽とかわいいアイドルが好き。

アサノシノ|"おもしろ"と"チープシック"をファッション理念とする骨格診断パーソナルスタイリスト。普通に生活していたら出会わないようなアイテムやコーディネートの提案が得意。映画みたいな漫画と漫画みたいな映画が好き。

スタイリスト/アナリストの仕事

浅野|今日はヴァーチャルファッションの筆頭サービス「DressX」を、パーソナルスタイリストのTIGER CRABのシノさんと、カラーアナリストでもありメイクアップアーティストのかいじんちゃんと一緒にやっていきます。

技術的な可能性や経済的な規模みたいなものはすでにさまざまな媒体で紹介されているので、実際のユーザー視点に立ったときにどんな可能性があるのかを二人とともに話をしてみたいなと思っています。まずはお二人の職業であるパーソナルスタイリストやカラーアナリストがどんな職業なのか教えてもらえますか。

かいじんちゃん|パーソナルカラーは本人の持つ色素(髪・瞳・肌など)と色の特徴をマッチングさせて、その人が一番「映える」色の種類や属性を探すというものです。まだ人間の肉眼と自然光に頼るところが多くて、見極めていくアナリストの目を養うことが大事と言われてます。女性を中心に浸透してきていて、例えば、自分に似合う化粧品だったり服装がわからない人だったり、10代からご高齢の方まで相談を受けることが多いです。

シノ|私はイメージコンサルティングの中でも「骨格診断」をおこなっています。人それぞれ骨格や皮膚の張りが違うので、体のバランスや重心の位置がそれぞれ異なります。すると全体のバランスで見たとき、服の形や丈の長さ、生地の厚さや素材など、同じ服でも人によって似合うものが違うんです。似合うものを着ると着痩せして見えたり、そうでもないものを着ると着膨れしたり、だらしなく見えたりします。

一般的には最大公約数的な似合う服装を提案することが多いと思うんだけど、TIGER CRABでは「似合う服装はこれで、着痩せして見えるのはこれ、でも好きなのは違いますよね」っていうときにどう組み合わせたり、成立させられるかっていう提案をするようにしています。そういうことしているからか、すでに骨格診断を受けた人がスタイリングの提案を求めて再診に来る方もいます。

かいじんちゃん|カラーで言えば、デパコスは安いものじゃないし、失敗したくないから診断に来る人も多いですよね。万人に似合うと言われているブラウン系の「モテメイク」してたら顔色が悪く見えるのはなぜかとか、似合う色相がわかったけど私やシノさんみたいにブルーベース冬タイプの人は「バブル期の化粧」みたいな色がハマるので普段使いし辛いけどどうしたらいいのか、みたいな相談もあります。

ブルーベース/イエローベースとは、その人が持っている色素の特徴をもとに、魅力を増幅させる色を見つけるパーソナルカラーの分類。
青み・黄みの色相どちらが似合うか大きく2つに分類し、更に明度・彩度・清濁でそれぞれを2分割して春夏秋冬の季節になぞらえて分類したものが一般的なパーソナルカラーの4分類(イエベ春・秋、ブルベ夏・冬)となる。

詳しくはかいじんちゃんによるこちらの記事をご覧ください(編集註)
解説:かいじんちゃん

浅野|なるほど、ふたりともに共通して、統計的に似合うファッションやカラーを教えてほしいという方の相談もあるけれど、ハマらないけど精神的な部分でもっと自分らしいものをと探している人たちからの相談も多いんですね。

かいじんちゃん|少し前までは女性誌はモテを目指すメイクやファッションの紹介が多かったと思うんですけど、「自分らしさ」みたいな軸が出てきて迷ってる人が多くなってる。

シノ|そうそう。コスプレとかの変身願望じゃないけど、もっとカッコよくて、特徴的な服を楽しみたいのにっていう人の相談が一定数あるよね。

かいじんちゃんのメイクの話で面白いなって思ったのは、ブルベ冬みたいな強い色のメイクを提案されることに対して、肌の色は多少くすむけど黄色みがある方が今っぽいし、おしゃれだよねって提案していたところなんだよね。ブルベはこれって断言されることがいい場合もあるけど、仕事や生活によって変化が欲しいとき、流行を取り入れたい時に調整することも考えていていいなって思ったんだよね。

かいじんちゃん|カラー診断もどんどん細分化されているんだけど、それに当てはまらない部分も出てきちゃってるんだよね。パーソナルスタイリストやイメージコンサルティングみたいな、その人と社会の関係まで含んだ提案ができるようにはなりたいよね。

パーソナルスタイリストとは、一般的にはお客様に合ったファッションやヘアメイクをトータルでコーディネートするプロフェッショナル。それに加えTIGER CRABでは「好き×なりたい×似合う」のバランスを考え「はずし」を多く取り入れた提案をしている。
解説:アサノシノ

浅野|むちゃくちゃおもしろい話だね。雑誌などのメディアでモテだったりTPOだったりの数少ない正解に向かってどう調整するかだったのが、今では自分の内面と社会をつなぐインターフェイスとしてファッションや化粧が多様なかたちで機能しているんですね。そういうふたりとまさにヴァーチャルファッションの話をしていくんですが、ちょっと簡単に背景の話をさせてもらうね。

シノ・かいじんちゃん|はい

テクノロジーとファッション

浅野|ヴァーチャルファッションは、セカンドライフやどうぶつの森みたいな、ゲームのアバターが着るデジタル空間上のコスチュームという印象を持ってる人が多いと思うんですけど、アパレルCADの発展もあって3Dでデザインされた衣服を3DのCGモデルに着せたり、画像編集の技術が上がったことで2Dの人物写真に合成してあたかも着ているかのように見せることが可能になってます。

かいじんちゃん|セカンドライフなつかしいわ〜。盛り上がりも一瞬だったよね。

シノ|ValentinoとかMarc Jacobsは早い段階であつ森のマイデザインを公開してたよね。色々ダウンロードしたわ〜。

浅野|セカンドライフが流行った頃はリアルとの接続はほとんどなかったし、オタクカルチャーの域をでなかったよね。最近、FacebookがMetaに名称を変更したけれど、メタヴァースと呼ばれるような情報空間と物質空間の「わたし」がリンクする話も出てきています。データで買ったものはこれまでデータでしかなかったんですけど、メタヴァースではデータを購入すると実物も同様に手に入る、もちろんその逆もみたいなことが起きようとしています。あつ森のマイデザインを購入したら、実際の服も届くみたいなことが起きるってことみたいだね。

ブロックチェーン技術を応用したNFT(非代替性トークン)によって、データで購入したものだけど有限性が証明される。これまでは無限にコピー可能だったデータが希少性のあるものとして取り引きの対象になり、OpenSeaなどでNFTアートの取り引きが始まっています。とはいえまだ新しいテクノロジーが好きな方や投資家などを中心にその可能性を模索している段階なようですが。

そうしたテクノロジーがファッションやビューティーの分野にも持ち込まれていて、Gray James McQueenのランウェイがゲームエンジン上でおこなわれたり、ChlomaがVR空間内にヴァーチャルストアをオープンしたりと話題になっていましたね。アパレルCAD上で制作した3Dのデータを持ち込むことが可能になったことも要因のひとつだと言われています[*]。

かいじんちゃん|ヴァーチャルメイクアップもアプリだったりウェブだったりで増えて、だいぶ身近になってきた気がする。instagramのフィルターやsnapchatなんかもそれの一種か〜。

シノ|最近のZOZOGLASSもそれだよね。ただ、私はカラーアナリストの診断ではブルベ冬だったのにZOZOGLASSではブルベ夏と診断されたり、色はまだ人間の目とのズレがあるから信用できるか怪しいけど、化粧品買いに行く前に簡易的にシミュレーションできるのはいいと思う。

浅野|そうだね。実用的な面では試着だったりタッチアップをより簡単にできるし、そのままECサイトで購入できますっていうところはあるよね。

環境負荷とファッション産業

浅野|今回、ふたりに試してもらおうと思う「DressX」は、身体の写った写真を送信するとCGでできた衣服を着ているかのように「合成」して送り返してくれるサービスを提供してます。

NFTによる取り引きやメタヴァース的などちらもというのはまだ一部のブランドだけが展開してるけど、むしろDressXは「物理ファッションよりもヴァーチャルなファッションの方が環境負荷が低いよ」って、サスティナビリティの観点からヴァーチャルファッションの可能性を謳っているんだよね。眉唾だなーと思いながら見てるけど。

シノ|どういうこと?

浅野|服つくるよりもCGの服を着せる方が環境負荷が低いよってことみたい。例えば、服を1枚つくるにも約25.5kgの二酸化炭素排出や約2,300Lの水が消費されるし、日本だけでも年間50万tを超える衣類が廃棄されてる。どうせ写真撮ってinstagramに載せて「いいね!」をもらうことが望みなんだったら、リアルな服でもなくていいでしょってことだと思ってるんだけど。

シノ|でも環境負荷が低いからってサステナビリティを目的にヴァーチャルファッションを楽しむかと言われたら私はわからないな。

余談だけど、ファッションレビュー投稿するインスタグラマーが「〇〇な色のほうがあとからメルカリで高く売れるからコスパがいい」みたいなこと書いていて、服が好きな人たちから批判されてプチ炎上してたな(笑)

かいじんちゃん|(笑)

浅野|BBCニュースではファストファッションの古着が集まる西アフリカでも、服のつくりが悪いから現地の人も困って埋め立てるしかないという話があったね。つくるだけでなく廃棄するにもたくさんのエネルギーが消費されるから、新しい行動様式としてヴァーチャルファッションに可能性を見出している人たちがいるみたい。

シノ|もちろん環境問題は分かるけれどサステナにより過ぎてて「サステナ」って言いたいだけみたいな所もあってなんか気持ち悪いんだよね…。服好きからすると好きなブランドの好きな服を長く着続けるのも楽しいけど、今の流行や今の身体だから今しか着れないみたいな楽しみ方もあるから、そういうのがヴァーチャルファッションでの体験に移行するのかな。

かいじんちゃん|我々みたいに面白い服を追求してしまうタイプだと、いつ着るんだろうみたいなコレクションが増えて困ることもあるから、極端なことを言うとコスプレ的な楽しみ方をヴァーチャルで体験することもできるのかなって聞いていて思った。サステナビリティかと言われると悩むけど。

シノ|せっかく私たちがやるんだから、つよくておもしろいヴァーチャルファッションを楽しもうぜ。

浅野|ファッション誌が煽る異性からのモテをはじめとした、性別らしい装いといった固定観念の過渡期に今はいるんだろうね。物理空間と仮想空間が織りなす新たな現実空間に、どんな装いをふたりがイメージするのか楽しみ!

(次回へ続く)

スタイリスト/アナリストと体験するヴァーチャルファッションの可能性(2)──DressXでショッピングを体験する を読む

参考リンク

脚注

[*] 筆者は2021年夏に京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labで開講された「School of Fashion Futures」に参加し、ファッションを取り巻く持続可能な取り組みについて学ぶ機会があった。進行の水野大二郎さんは後に、経産省の「これからのファッションを考える研究会」で、政策的な視点からも議論を深めているので、興味がある人はぜひチェックしてもらいたい。


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