7、焼却炉で見た夢

 お別れなんだと思ったのは、一ヶ月経ってもLINEに既読がつかなくなってからのことだった。少し前までなら、連絡すれば五分以内に既読がついて返信があったのに。もう私に興味がなくなってしまったのか。私はまだこんなにも好きなのに。

『どこにいるの?』

 既読がつかないままの問いかけに続けるように『会いたい』と打ち込んでみて、二分経って既読がつかなかったので急いで取り消した。もう永久的に私のものにならない。心の中にも部屋の中にも濃く残っているのに、全て思い出の中だけだと思うと腹立たしく思えてきた。私だけが苦しいなんて不公平じゃないか。

 部屋の中に残るアイツの匂いを吐き出すように机の上や引き出しの中をひっくり返す。付き合うキッカケになった遊園地のチケット、お揃いだったネックレス、可愛いと言われたくて背伸びして買ったシャネルのリップ。デートの度に撮ったプリクラたち。キラキラと輝いていたはずのそれらが全部憎くて仕方がない。あり得ないほど加工された私がアイツの隣で笑っている。瞳の大きさも顎の形もまるで別人のようになっているお陰で私の思い出だと思えず助かった。それでも、身につけている洋服や、手にしている映画のパンフレットやアクセサリーに覚えがありすぎて、嫌になる。間違いようもなく私だ。私の思い出なのだ。

 机に置きっぱなしになっていたキャメルを手に台所に向かった。換気扇が回ったのを確認してから火をつける。アイツが私に教えた味を吐き出しして、シンクに水を流した。プリクラに火をつける。こんなことをしながらも、火事にならないための理性があることに笑いがこぼれた。

「こんなんで割り切れたら単純じゃないっての」

 ゴミ袋に投げ込んだ思い出たちと、灰になっていくプリクラを交互に眺めながら笑う。ちりちりと火は大きくなりながら私の指先に近づいていく。

「あつ」

 思わず手を離す。水が流れっぱなしのシンクの上に不時着してジュと情けない音とともに消火した。私の左目が焼け残ってこちらを見上げている。どうせなら、アイツの目が残っていたらよかったのに。そう思った自分が気持ち悪くて、吸いかけのキャメルに口をつけた。この箱が空になるまではもう少しだけ引きずってもいいか、なんて自分に甘えて煙を吐いた。


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