13、「見えないでしょ?」「見えるよ

 田舎のショッピングモールとは思えない盛況具合に軽く目眩がする。今日は日曜の朝に放送している戦隊ヒーローがやってきて、ショーと写真撮影会が行われるという。毎週早起きしては、画面に釘付けになっている息子もこの情報を聞き入れ、広告チラシを両手で握りしめ目を輝かせながら俺の元へとやってきた。

「こんな人がいたら、見えないんじゃないか?」

 幼稚園の年長になったばかりの息子はまだまだ小さく、人混みの中にいたら紛れてしまう。抱き上げてほとんど同じ目線からステージを見せてやるが、スタートダッシュが遅かったせいで、人と人の隙間から見間違いかと思う時間しかヒーローの姿が見えない。俺の身長がもっと高ければ。後悔したところで遺伝を恨むばかりで、何も解決しない。肩車をすれば後ろで見えていた人が見えなくなってしまうだろう。自分の利ばかりで他人への気をつかえなくなったら終わりだ。そんなの全然ヒーローを見る態度じゃない。

「みえるよ」

 この場所から動けずに左右に揺れることしかできなかった俺に気を遣ったのか、息子が言った。顔を見るともう一度「みえるよ」と言う。

 隣にいた妻がハッとして指さす。その先にステージより少し高い所に立っている敵役の姿だった。まさかともう一度息子の顔を見る。視線はその敵役に注がれていた。

「見えたね」

 妻が息子の小さな手を握りながら、一緒に敵役を見上げている。思えば、自分自身もヒーローではなく敵役を応援してしまう子供だった。物語の都合上、負けることが確定している彼らの運命がたまには変わらないだろうかと期待していた。敵役の住む宇宙から見れば、彼らもヒーローで、ヒーロー自体が悪かもしれないのだ。息子の目を見ていると、あの頃の自分を見ているようだと思った。

「見えるねえ」

 敵役がヒーローに向かって攻撃を仕掛ける。ヒーローは攻撃を受けて倒れ、より視界にうつらなくなった。今日こそ勝つだろうか。多くの子供たちがヒーローに向かって「頑張れ」と叫ぶ。その声に混じって息子も声を張る。たったひとりの声でも届けば、違う結末が見えるかもしれない。

「頑張れ」

 小さく呟く。敵役の笑い声が心地よく響くのを聞いた。


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