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60歳で整形しましたが何か? その3

前乗りしてホテルにチェックイン


 手術日は同居している彼氏が大阪に出張している時に決めました。グロい姿を見せたくない。痛みで苦しんでいる姿を見せたくない。そう思って彼がいない日時を選びました。彼氏も留守だし、どうせ外に出られないのであればホテルに缶詰めになりダウンタイムを過ごそうと思いました。ダウンタイムとは、手術を受けてから腫れや内出血が収まる期間のことを指します。駅から少し離れているものの、格安のホテルを見つけ、3連泊で予約しました。
 JR船橋駅に到着すると、駅前はすごい人だかり。時は参議院選挙のまっただ中。議員候補の方は人生をかけているのでしょうが、こっちも人生かけて整形しようとしています。さっさと通り抜けてホテルに向かいました。けど、ふだんと街の雰囲気が違うのです。道路の両側に警官が立ち並び、緊張した面持ちで立っています。するとこんな看板が目に入りました。

ご無事でよかったです。

 ん? 今は15時少し前。これは一目見ないと損……と駅前まで引き返しました。すぐに岸田首相が登壇し、演説を聞くことができました。自民党支持者ではないけど、分刻みのスケジュールをこなす素晴らしい体力には脱帽です。私は猛暑日の中、自宅からここまでの間でフラフラです。

予約したのは幽霊ホテルだった

 iPhoneに導かれながらホテルに向かいます。繁華街が途切れたところでようやく予約したホテルを見つけました。ぞっとするような古さです。ケチって安いところにしてしまったことを後悔しました。フロントの応対もラブホテルかと思うほどの無愛想さ。けど、部屋はリノベーションされて綺麗かもしれない……と一縷の望みを持って鍵を開けました。
 ガーン……やはり中も古かった。赤茶けた壁紙、エアコンから噴き出す風は生ぬるく、風呂と洗面所が一緒になったドアを開けたとたん、下水の悪臭がプ~ンと漂って来ます。確か、「レディースプラン」だったはず。いったいどこがレディースなんだろう……と見渡してみると、古ぼけたアイロン台と昭和レトロのようなアイロンが床に置いてありました。もう泣けてきましたね。
 ビジネスホテルで一番重視しているのはベッドです。ベッドが良ければすべて許せます。お気に入りはシモンズのマット。ダイブしても余裕で跳ね返してくれます。さっそくシーツをはがして確認してみました。どこのメーカーともわからない古びたマットが目に入り、落胆しながらシーツを元に戻しました。
 今回肝心なのは枕です。手術後のダウンタイムは頭を高くする必要があります。これが小さいのなんの。バスタオルを重ねて利用することに決めました。

手術日の朝

 昨夜はじっとりと湿っぽい布団の中で、なかなか寝付けませんでした。ふらふらと起き上がり、ゆっくりバスタブにつかります。術後、一週間は入浴禁止なので、念入りにシャンプーをしました。
 喉が渇き、お腹も空いて来ましたが、ここは我慢。今日は午前中に全身麻酔を行うため、何か食べてしまっては逆流して窒息する恐れがあるのです。
2時間前までは水だけはOKとのこと。時計とにらめっこしながら、水を飲み、2時間前からは何も口にしませんでした。
 さて、いよいよ時間になりました。かばんの中にサングラスを入れたことを確認してホテルを出ました。
 駅前のクリニックは朝一ということもあって空いていました。番号札も2番という数字でした。しばらくすると、大勢のスタッフが一つの部屋から出て来てポジションに付きました。朝礼だったのでしょう。一気に空気が変り、活気あるクリニックに変わりました。患者の数も急激に増えていました。
「2番の方、どうぞこちらへ」
ああ、もう引き返せません。
60歳、二重前切開施術に突撃です。

その4へつづく


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