予祝、予言、占い、まじない……すごい和歌パワー【第一回】
第一回目のゲストは辛酸なめ子さんです。笹さんとは23年来の親友。7月に刊行された『川柳で追体験 江戸時代 女の一生』では江戸時代の川柳をもとに「妄想」を繰り広げていらっしゃいます。そんな辛酸なめ子さんと歌に秘められたパワーと不思議な体験について語っていきます。
驚くべき「言霊パワー」
笹:この間、1970~80年代にスプーン曲げとかの念力を披露して日本のマスメディアに取り上げられた、エスパー清田こと、清田益章君と10年ぶりくらいにある店で偶然再会しまして。10年ぶりに会ったら、たいてい「久しぶり」「何でここにいるんだ」とかなるじゃないですか。そういうリアクションが一切ないんですよ。ただ「何飲む?」って。たぶん、ブラジルとかでばったり会ったとしても「じゃ飲み行くか」みたいになると思います(笑)。
辛酸:時空を超越しているんですね。
笹:そこが本物っぽいですよね。2001年に清田君の『超能力野郎』という本を持って行ってご本人に見せたら、「この頃に戻れ!」って念じているんです。「どうしたんですか」と聞いたら、当時自分は大人気でテレビもたくさん出て、『マインドシーカー』っていうファミコンソフトにもなって、ヤングマガジンの表紙も飾って……でも「さよなら神様」という曲でロックデビューもして以来、一気に仕事がなくなったそうです。「さよなら神様」という言霊でだめになっちゃったみたいで。だいぶ後に「ありがとう神様パーティー」というのをやってましたけど、果たして神様に許されたのかどうか……。
辛酸:私も前、ある俳優のライブに行ったとき、クリスマスが近かったんですけどMCでいきなり「メリークリスマス、マザーファッカー」から始まったんですよ。そのあとメディアの報道を見て、いろいろ状況が悪くなっていったことを知って……。
笹:それは最悪の言霊ですね。しかしあれはヤバイ事件でした……。
言霊の世界では、最初に言う言葉とかが特に大事らしいです。例えば、近世・近代では、大本教祖である出口王仁三郎が一番言霊のパワーを活用した人物だと思います。どんどん信者の数が拡大して、一番多いときで賛同者が八百万人くらいいたらしいです。あるとき、旅の途中で、宿がないので仕方なくある遊郭で休憩することになり、暇だからそこにいる遊女全員の手相を見てあげたら、過去も未来も全部ことごとく当たる。それでみんな信者になっちゃったんですって。で、何とそこがそのまんま教団の支部になって。
辛酸:美女だらけの支部ですね。
笹:でも竣工直前に駄目になったんです。信者との座談会のときに、「なぜこの支部は駄目になったんですか」って聞いたら、最初に言った言霊がまずかったと言っていました。その遊郭に入るときに「淫乱上人じゃ」ってギャグをかまして入ったそうです(笑)。
辛酸:「親鸞上人」をもじって(笑)。かなりセンスがあるギャグですね。
笹:そう。でもなんか駄目だったんでしょうね。
辛酸:王仁三郎でさえ、そうなってしまうと……。
静岡県に言霊を司る「事任八幡宮(ことのままはちまんぐう)」という神社があって、以前お参りしたことがあるんです。境内に大きな木があって、そこに耳みたいな形の穴があるんですけど、そこで神様が聞いているから、境内ではネガティブなことは決して思ってはいけないし、口に出してもいけないらしいです。聞かれちゃって、それが叶っちゃうかもしれないから。だからすごく緊張して。
笹:そういう設定を言われると、逆に悪いことを思っちゃうでしょうね。
辛酸:そうなんです。ずっと「トイレ行きたい」と思っていたんですけど、そのまま行くと「ずっとトイレ行きたいと思う人」っていう状態になっちゃうから、少し前にトイレを済ませたんです。ただ、境内でもちょっとした雑念が浮かんじゃうじゃないですか。だから一緒に行った人と、「ここはすごい気持ちがいいところですね」とか場所を褒める言葉を言いながら、あとはもう心の中に何か浮かびそうになるたびに「ありがとうございます」って繰り返していました。
笹:さすがです。24時間ずっと尿意が続く人生ってハードモードですからね。
過去完了形で先にお祝いする!?
和歌の予祝パワー
笹:予め祝う「予祝」というのが、数年前にスピリチュアルでけっこう流行っていました。それを真に受けたというか、1985年以来ずっと日本一になれずにいた阪神タイガースの監督が2022年の開幕前に予祝の胴上げとかをやっていましたよね。「あんなことやるから負けるんだ」とバカにされていましたけど、後半すごい追い上げて、ついに翌年は日本一になったじゃないですか。だから予祝のパワーはありますよね。すぐに効果が出なかっただけで。
辛酸:確かに。予祝といえば、事任八幡宮の境内では、知らないおじいさんが話しかけてきて、「裏の川に龍の形が浮き出ている石があるから、見に行きましょう」と言うので一緒に行ったら、そこで予祝をやってくれたんです。名前を聞かれて「なめ子さんの良いとこいっぱいあるさ〜どっこいしょ」と、節をつけた歌みたいなのを歌ってくれたんですよね。たぶん神社でボランティアをしている方だと思うのですが。「いい言葉であらかじめお祝いすることで、幸運を引き寄せるんだよ」とおっしゃっていました。妖精みたいなおじいさんでした。
笹:そういうのにだいたい和歌が使われますね。和歌の発祥として、帝とかがまだ荒れている土地で「ここには民がサンマを焼く煙が上がっていて、海にはカモメが舞っている」「もう今年は豊作でした。大漁でした。ありがとうございます」などと言って、和歌に過去完了形を載せることで、予祝のパワーや言霊パワーを得ようとするということがあったのです。スピリチュアルにおいて過去完了形で願うというのは、そこから来ているんですね。
辛酸:アファメーションとか引き寄せが、すでに昔からあったんですね。
笹:そうなんです。予祝と和歌は切っても切れないのです。
和歌や短歌には増幅させるパワーがあるので、出口王仁三郎はポジティブな内容を歌った方がよいと言っていますね。それで歌会始のように「和歌を奉納する」というのが、今でもあるんでしょうね。あと、王仁三郎は「神様は海河山野種々の供物よりも和歌が一番お気にいるのである」とも言っています。※出典1
予言やまじないができる?
和歌の未来予知パワー
笹:清田君と最初に出会ったのは2001年で、実家のお寿司屋へ遊びに行ったんです。9.11に起きた同時多発テロの次の日でした。そしたら、清田くんが「俺、予知してたんだよ」ってパラパラ漫画を見せてくれまして。それが、飛行機がビルに突っ込んで、ビルが崩れるという内容のけっこう長い漫画なんですよ。僕に会う1週間ぐらい前に描いたそうです。
辛酸:それはすごいですね。
笹:いま2025年7月に隕石が落下するとか、海底火山が噴火するとか大災難が起こると言われていますよね。僕もすごい心配していたんですけど。9.11を見てきたようなパラパラ漫画を描いていた清田君が「2025年の大災難は起きない」と言っているので、ほっとしています。
辛酸:それは心強いですね。
笹:たまに短歌でも予言をする人がいます。歌人・大滝和子さんの、
という歌があります。2002年ぐらいの歌集に詠んでいて、「あ、これは同時多発テロのことだな」と思ったのですが、調べてみたら、この歌が発表されたのは1999年ぐらいだったんです。
辛酸:えっ。怖いですね。
笹:なにか降りてきたのかなって思いました。和歌にはそういうパワーがありますから。それを活用したのが、まじない歌などです。例えば、ちょっと怖いなと思ったのは、マドモアゼル・愛さんの本で紹介されている「プロポーズする側が詠んだら、相手はそのプロポーズを断れない」という歌です。
このように、上から読んでも下から読んでも同じ「回り歌」は、一番パワーが宿るらしいんです。
辛酸:これはストーカーとか悪い人に詠まれたら大変なことになりますよね。
笹:そう思います。ただ、まじない歌は「衣服の塵を落とす」ものから「百鬼夜行と出くわしたとき」のものなど、些細なことからスケールの大きいものまで本当にいろいろあります。
辛酸:ホツマツタヱの「あわうた」もありますもんね。そういう言霊を十分に活かした方がいいということですね。
不思議な体験を詠む
お母さんの声で「歯」と聞こえた
笹:予言や占いのテーマで、短歌を詠んでくださったんですよね。ありがとうございます。一首目は……
辛酸:これは、実際に起こったことなんですよ。お参りしている時に、「はっ」ていう言葉が浮かんで、その後に虫歯がたくさん見つかったっていう。
笹:聴覚的に「は」って聞こえたんですか。
辛酸:頭に響いたんですよね。本当に歯医者がすごい苦手なんで、ちょっと怯えてたら、計5本くらい被せ物しなきゃいけない歯が見つかって。50万かかったんです。治療も大変でした。
笹:和田アキ子さんみたいな声で「ハッ!」という感じだったんですか?
辛酸:いえ、もっとささやかな。なんとなくその場にいたような感じがありました。霊の声って寝起きとかいろんなときにするじゃないですか。ただの戯れ言というか、通りすがりに適当なことを言っているなということもあれば、何か響いてくることもありますよね。
笹:いいお母さんですね。ちゃんと歯医者に行ったなめ子さんもすごい。
短歌についてアドバイスするとしたら、「母の墓をお参り中」は「墓参り」とか「墓参」で縮めることができるので、お墓での描写を入れるといいかもしれないです。
改作してみましたが、いかがでしょうか。
誤変換という予言
辛酸:次の歌は予祝じゃないけど、その伏線というか。なんか言霊を感じたときのことです。
PCやスマホで変な誤変換がたまに起こることがあるんですよね。「今朝」って書いたら、急にお坊さんの「袈裟」に変換されたり。なんか僧侶の霊かもしれないって思いました。
笹:袈裟ってふだん使わないですよね。
辛酸:今まで使ったことないです。それである日、いきなり「死事 」って出て怖いなと思ったら、直後に駅で階段を踏み外しそうになって。フラグになるとこだった、みたいな。
笹:でも誤変換によって一応、構えはできるから。変換後の文字を読んでいなかったら、もっと激しく落ちてたかもしれない。
辛酸:ある意味助けてくれたのでしょうか……。
笹:そうかもしれませんね。
「油断できない」は説明的なので、「踏み外した」だけでいいと思います。こちらも改作してみました。
占いに垣間見える人間の欲望
辛酸:次の二つは占いの歌なんですが、一つ目は、
過去生を占ってもらって「自分はアルクトゥルスだ」と言って威張る人、けっこう多くないですか。プレアデスが6次元で、アルクトゥルスがそれよりもっと高いとか言って。
笹:根拠がないのにすごい自信! 地球がレベルの低い惑星というのは共通の認識なんですよね。刑獄の惑星だという説もあります。
辛酸:「見える」人に言われて、「自分は高次元の存在だ」みたいな雰囲気になっていくんでしょうね。
笹:勝手に決めつけられて「あなたはシリウスだから次元が低い」とか言われてもいやですよね(笑)。シリウスは、血液型でいうB型みたいになっていてちょっと不憫です。いまの話を踏まえて次のように改作してみました。
辛酸:次は「お笑い短歌リーグ」(注1)でAIと対決したときに作ったものです。
笹:ああ覚えています。わかりやすくておもしろい歌です。
株の動きとかがわかる占い師はいるみたいですね。ただ客に聞かれると「言うと、あなたが駄目になっちゃうから」とか言い訳っぽくごまかしたりして。
辛酸:前テレビに出ていたお坊さんが、大黒様が夢に出てきて、「どこどこの売り場で、宝くじをバラで買え」とか言ってきたので、言うとおりにしたらすごく当たったって。
笹:何か他人のために使うと誓って買うといいみたいですね。「寄付します」とかを決めてやると、当たる率が上がるらしいです。
辛酸:それ、当たったあと寄付しないとやばいってことですか。
笹:それが怖いから僕もやらないです。だって同じ運気を使うなら、宝くじが当たるより、本が売れて印税で入った方がいいですよね。
辛酸:コツコツやる方がいいですもんね。
和歌の占いパワー
笹:最後に和歌で占いをしてみたいと思います。なめ子さんは、おみくじを引いたとき、そこに書かれた歌を読みますか?
辛酸:軽く読みますが、意外と当たっていますよね。タイのBLドラマにハマりすぎていた時は、おみくじに「神の道を忘れてよその小道に惑うな」っていう意味の歌が出て、怖くなったことがあります。
笹:神様はそこまではお見通しなんですね! 僕もこの間、韓流ドラマの「ペントハウス」を見出したら止まらなくなって、1週間で3シーズン完走しました。「ペントハウス」を見てる合間に生活しているという状態になっていてヤバかったです。仕事が溜まりに溜まって、そのあと地獄を見ましたが……。おみくじを引いておけばよかった。
で、おみくじは、本来は歌が重要で、大吉とか凶とかはあとづけらしいです。本当は歌だけでも占えるんです。タロットが上下の向きで意味が変わるように、和歌にもダブルミーニングがあるので、おみくじにしていたんだな、と僕は解釈しています。
辛酸:どちらの意味かは、自分で読み取るということですね。
笹:そう。そして、今日使うこの「歌占カード」はめちゃくちゃ当たるんですよ。
辛酸:私もこの歌占いカードを持っていたんです。友人が仕事に悩んでいたときにやって、写メを送ったら「すごい当たっている」って言われました。
笹:「歌占カード」おそるべし……。では、何か占ってみますか?
辛酸:最近は旅行に行けてないので、旅行に行けるか占ってもらえますか?
笹:わかりました。まず「ちはやふる神の子どもの集まりてつくりし占はまさしかりけり」って3回唱えます。それから8枚並べて、その中から1枚選びます。……22番「玉の緒」が出ました。
笹:では、解説を読んでみましょう。
笹:だから自分次第じゃないですか。「自分が誰かと旅行に行く約束さえすれば、いつでも行けますよ」ということだと思います。ぼーっとしていると仕事がどんどん入っちゃって、たぶん行けない。先に日程を決めちゃって、宿も取って、「この日仕事入れません」ってやればすぐ行けると思います。
辛酸:なるほど。先に決めちゃえば行けると。
笹:そうそう。ぜひ素敵な予定を立ててください。
注1:2017年に笹公人とゴウヒデキ(放送作家)とラリー遠田(お笑い評論家)の三人で立ち上げたイベント「お笑い短歌道場」のリニューアル版。
現在は、笹公人、枡野浩一、小島なおの審査員で定着している。なめ子さんは「第2回 お笑い短歌道場」で審査員として、「第2回お笑い短歌リーグ」に出演者として参加。
出典1:出口王仁三郎(著)『玉鏡』
出典2:大滝和子(著)『人類のヴァイオリン』砂子屋書房
出典3:マドモアゼル・愛 (著)『シンクロニシティ幸せの連鎖: 求める答えはそこにある』説話社
出典4:平野多恵(著)、遠藤拓人(絵)『完全解説付き 歌占カード 猫づくし』夜間飛行
◎対談者プロフィール
笹公人(ささ・きみひと):
1975年、東京都生まれ。歌人。「未来」選者。令和4年度「NHK短歌」選者。
大正大学客員准教授、日本文藝家協会会員、現代歌人協会元理事。
歌集に、NHKにて連続ドラマ化された『念力家族』(朝日文庫)、『念力図鑑』(幻冬舎)、『抒情の奇妙な冒険』(早川書房)、『終楽章』(短歌研究社)、『連句遊戯』(和田誠との共著/白水社)、『遊星ハグルマ装置』(朱川湊人との共著/日本経済新聞出版社)、『パラレル百景』(北村みなみとの共著/トゥーヴァージンズ)、『NHK短歌 シン・短歌入門』(NHK出版)等、著書多数。
「牧水・短歌甲子園」審査員。「新・介護百人一首」選者。「アイドル歌会」選者。
角川『短歌』にて、鎌田東二氏と「言霊の短歌史」を連載中。作詞家としても活動している。
辛酸なめ子(しんさん・なめこ):
漫画家、コラムニスト
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部卒業。「辛酸なめ子の現代社会学」(幻冬舎)「女子校礼賛」(中央公論新社)「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)「辛酸なめ子の独断!流行大全」(中央公論新社)「辛酸なめ子、スピ旅に出る」(産業編集センター)「無心セラピー」(双葉社)「電車のおじさん」(小学館)「大人のマナー術」(光文社新書)「川柳で追体験江戸時代 女の一生」(三樹書房)