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梅雨のクトゥルフ映画祭り

 先週の日曜日あたりから急激に体温が上がり、頭はぐらぐら、寒気でゾクゾク、関節の痛み、身体のだるさ、咳、めまいと、これまで私が経験してきた通常の風邪とは明らかに違う、何重苦だこれという状態になりまして、とりあえず次の日の朝、病院へ向かいました。病院の先生はプロレスラーの小橋建太に似た顔の人で、症状を説明したら、うんうん頷きながら「コロナの可能性が高そうですねえ」とのこと。抗原検査のため鼻に細長い綿棒みたいなものを「上を向いてくださいね」の一言だけ言って突然突っ込まれたのは少々驚いたけれど、看護師さんが平然としていたので、これが普通なんだろうなと自分を納得させ、されるがままにしておいた。その後30分くらい隔離室で一人放置された末(待たされている間は持ってきていた『鋼鉄紅女』を読んでた。えらい)、診断結果は予想していた通りコロナ陽性。これにてめでたく5日間の外出禁止期間が出来たのでした。

 さて、5日間。療養期間とはいえ、一日中横になっていると逆に腰とか首が痛くなるし、映画館に行くことも、本屋に行くことも出来ないのでどうしたもんかなーと考えたところ、前々からやろうと思っていた「クトゥルフ映画祭り」をこの期間中にやるのがベストな選択なのでは無いかと神託が下り(このとき体温39.0℃。色々とまともな状態ではない)、一日1~2本くらいのペースで“クトゥルフ”及び“ラヴクラフト“に関連する映画を見るという、SAN値を著しく削りそうな過ごし方をすることに決めました。
 色々観れて楽しかったし、せっかくなので「クトゥルフ神話としても、映画としても面白くておすすめ!」という作品を備忘録として残しておこうと思います。いつかこの記事が似たような症状・環境にある人の参考になれば幸いです(そんな人いないと思うが)。まあ熱に浮かされながら見る宇宙的恐怖ってやつもたまにはおつかもなーなんて軽い気持ちで本人は楽しんでいたので、読んだ人も「これを書いた人はちょっとおかしいのだ」と生あたたかい目で見て頂けると助かります。一応おすすめ度も併記しとこ。

『ZOMBIO(ゾンバイオ)/死霊のしたたり』(1985年)

 エログロナンセンスの塊みたいな怪作、いや快作か。原作は『死体蘇生者ハーバート・ウェスト』で、タイトル通りマッドな研究生ハーバートくんが死体を蘇らせてはちゃめちゃになって行くというお話。どうやら彼は一緒に研究をしている同級生のダンくんのことがお気に入りらしく、無駄に体を近づけたり、ダンくんが付き合ってる女性を邪魔者扱いするのでなんとなく微笑ましいです。CG無しのアナログな特殊効果&撮影がいい味出していて、観客が思う「これくらいはやってほしいもんだぜ」という期待を良くも悪くもガシガシ超えてくるのでカオス感あります。最初に選んだクトゥルフ映画としては大正解だった気がする。
SAN値削り度★★★★★


『死霊のしたたり2』(1989年)

 一応前作の続編。話の整合性取れてないけどね。下らなくて悪趣味でキモくてグロテスクな映像のオンパレードですが、製作者が観客に見せたいビジョンを明確に持ってるだけで花マルあげたいです。ただ、前作同様動物の扱いが酷いので観る際は注意が必要。個人的には前作の監督であるスチュワート・ゴードンの悪趣味な「絵」を“上品に”撮る見せ方や演出が好きでしたが、この「素材そのまま」って感じも嫌いじゃないです。相変わらずダンくんに片思いしてるっぽいハーバートくんを見ていると、もしかしてこの映画は恋愛映画なのでは?という考えが頭から離れなくなってくる。最高に最低なクリーチャーの宴と、ハーバートくんの恋わずらいを楽しめる人ならおすすめ。私?もちろん楽しめましたが何か?
SAN値削り度★★★★


『RE-ANIMATOR 死霊のしたたり3』(2003年)

 毎度おなじみのはちゃめちゃ具合。でもクリーチャー好きとしては少々物足りなかったかな。もっと製作者のエゴというか、趣味全開なものが見たいのよ私は。ハーバートくんはちゃっかり生きてて収監されていて、今回も楽しくわいわいと蘇生実験を繰り返します。いや、1作目でも2作目でもあんた死んだはずなんだが……。いま続編が作られたらどんな感じになるんでしょう。悪趣味映画としては楽しい3部作でした。
SAN値削り度★★★


『死霊のはらわた』(1981年)

 どわははは、とにかくぐっちょぐっちょできちゃないクリーチャーとの夜を通した大バトルが楽しい映画です。クトゥルフとの繋がりは薄く、「ネクロノミコン」ぽい本が登場する程度。でもクトゥルフに出てくるクリーチャーのビジュアルイメージはこの作品を参考にしてるものが多いそう。なんとなくむかし観た気になってた作品で、実際どこかで観たような構図、編集が沢山あったのですが、それは過去の名作ホラー文脈をしっかり踏まえていることの証左であり、かつ後継作品に多大な影響を与えたことを意味しているのでしょう。短いしツッコミ所多数で、やり過ぎ感が今では笑えるので誰かと一緒にわいわい楽しむのが吉。食欲あるときは決して見るもんじゃ無いですね笑
SAN値削り度★★★★★


『死霊のはらわた II』(1987年)

 やり過ぎてギャグ度の高まったパート2。前作からの話の繋がりはいまいち不明だが、よりしっちゃかめっちゃかな展開をしていきながら、バカバカしいほどテンション高く、クリーチャーに立ち向かいます。いやそれにしても編集の仕方というかカットの繋ぎ方がもう完全にギャグですね。
 例えば混乱して暴れ回る女性を主人公が落ち着かせるシーンがあるのですが、落ち着いたと思ったら次のカットで主人公のすぐ横に武器が振り落とされていたり(落ち着けって言ってんだろ!)、まだ発展途上だった合成技術やSFXが絶妙に画面を安っぽくしてますが、それさえも良い味付けになってる気がします。最後は「こんな異世界転生は嫌だ」の極地みたいな終わり方をしていて、主人公の嘆きが可笑しいやら悲しいやら。カルト的な雰囲気も込みで好きな作品です。
SAN値削り度★★★★★


『死霊のはらわた』(2013年)

 サム・ライミ監督の作品を、タイトルそのままにリメイクした映画。ゴア表現や大量の血の雨など頑張って作り直したのが伝わってきます。役者さんも綺麗だし演技も上手い。でもね〜、なんでしょう"狂気"が足りないのです。原作の映画を見たのはつい最近なので特に思い入れはありませんが、それぞれのカットの印象に残る度合いに大きな開きがあり、それは構図の良さの違いなのだと思います。ライミ版は無茶苦茶やってるように見せてその実構図とか編集にそれぞれ意味があります(だから印象に残る)。比べてこちらはひとつひとつを手堅く作ってはいるのですが、いい具合にはっちゃけられていない……上手く言えませんが『死霊のはらわた』に私が求めているのはギャグにしか見えないホラー的狂気であり、ちょっとこのリメイク作品にはそれが不足しているように感じました。あ、でもラストシーンはマジで良いです。燃え盛る炎の中、血まみれの少女は陽光に照らされた森の中を歩いていく……。監督がこの映画において撮りたかった絵がこのラストシーンだったのなら、それだけで十分に見る価値があったと私は思います。
SAN値削り度★★★


『マウス・オブ・マッドネス』(1994年)

 面白かった〜。この期間中に観たクトゥルフっぽい映画の中では理想的な作品。「読むと正気を失う」という本を追いかけてたどり着いた先は「ホブの町」という辺鄙な場所。どこからどこまでが現実か、正気か、主人公のぐらつく精神を編集と撮影で巧みに表現。「本」そのものや「フィクション」自体をテーマとしているのも良く、書かれる存在と、読む存在の立ち位置をあやふやにすることで夢幻の世界に連れて行かれる。脳裏をかすめ、そこここに漂う狂気は、クリーチャーそのものを直接描写こそしないが、それによって観る者の想像力を刺激する。ラストシーンが映画館で終わるのもフィクションがテーマのこの映画らしくて素敵。今回のクトゥルフ映画祭りで一番の収穫。
SAN値削り度★★★★★★★


『DAGON』(2001年)

 嵐に巻き込まれた男女が辺鄙な村のおかしな風習に巻き込まれて……というストーリー自体はよくあるホラーのそれ。だが、ベースがクトゥルフ神話であることから全体の雰囲気を重視した造りとなっており、おおむねそれは成功している。なにしろ町全体の奇妙な空気感が良く、村人たちと基本会話が通じない点や、謎の美しい女性の登場など、神秘的で幻想的な世界観を意識した、ディテールが光る作品となっている。「クトゥルフ」っぽい映画としては満足の出来で、『死霊のしたたり』の監督であるスチュワート・ゴードンの面目躍如といった所だろう。終わり方も含めて下手に続編を作ろうとしない潔さがあり、カルトムービーでありながら、上品な佳作となっている。
SAN値削り度★★★★


『ラブクラフト・ガール』(2013)

 おまけ。ラヴクラフトに関連する映画を探していたら見つけた作品で、「ラブグッズ」を「作る」「女性」という意味でこのタイトル。息抜きに見てみるかーと思ったのですが、無意味なシーンが多い上に、普通はありえない台詞を平気で言わせる脚本、演出がダメダメでなんとも志の低い映画でした。俳優の中村倫也くんの演技や、「ラブグッズ」を商品にするというコンセプト自体は悪くないです。でも対象に対する理解やリスペクトが薄いため、ギャグにも真面目にも振り切れていない残念な出来に。自分で見といてなんだけど「誰が見るんだこの映画」と思いました。
SAN値削り度★★


 他に『遊星からの物体X』『ヘルボーイ』『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』『キャビン』『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』なんかがクトゥルフを題材にしている作品の中ではおすすめ。でも映画好きや、ラブクラフトマニアからしたらあまりに有名な作品だと思うので今回は割愛します。作品はU-NEXT、Netflix、Disney+あたりのサブスクから探しましたが、もっと古めのもので面白そうなのはまだ結構ありそう。もし上記した作品以外にも「こんな作品あるよ!」って方がいましたら教えてくださると喜びます。

 以上、いろいろ観れて満足な療養期間となりました。おかげでSAN値(正気度)は削られまくりです。ぜひ皆さんも高熱等で自宅から出られない時はこのリストを参考にお過ごしください。個人的には高熱時になぜか役所広司が夢に出てきたのが一番恐ろしかった……。

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