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【小説】神社の娘(第35話 妹)

 まもりの痕跡を探そう。

 桜は家族に気取られないよう、こっそりと、春休み第1日目から家探しを始めた。

 宿題と多少の登校、お稽古ごとなどはあるが、それ以外は時間たっぷりだ。

 母屋から離れた蔵から始めてみたが、貴重品も多く、気を遣う作業だった。

 開始して数時間ほど経ったところで「まもりさんに関する物ってどうすればわかるんだろう?」と疑問がわいた。着物とかなんとか、そんなものは一宮家にたくさんある。これはまもりの物、と一発で分かる。

「あ、あの模様か!」

 桜はあの模様を求めて、また発掘調査を開始した。

 初回の家探しでは、それらしいもの、手掛かりになりそうなものは見つからなかった。

 がっかりではあるがまだ一日目。そして明日はプラモ作りの続きである。楽しみ楽しみ、と眠りについた。

 次の日、るんるんと朝食を食べていると、母から、

「ごめん桜、椿が熱出しちゃって。私、今日は神社の方で手が離せないのよ。看病してくれないかしら」

 と頼まれてしまった。母が忙しいのも、家の人たちが忙しいのも分かっている。

 椿にも、向日葵たちのような役割の子供はいるけれど、その子たちもまだ小さく、まだこうした用事は頼めない。

 一番時間があり、それなりの年齢の自分が断るなんてことはできなかった。

 残念で、残念で仕方なかったが、橘平にキャンセルの電話をした。プラモ作りはさらに後日に延期された。

 朝一で母とともに椿を診療所に連れて行く。診察してくれたのは葵の父、桐人。「大したことないですよ。寝てればよくなります」と診断され、そのまま帰宅した。

 桜は泣きたかった。友人との遊びの約束が、家の都合でキャンセルされることの恨めしさといったらない。自分の都合ではないのだ。

 妹のせいだ。

 友人と遊んだことのない桜は、初めての暗い気持ちを味わっていた。
 布団の上で、ふーふーと寝ている妹。桜は熱で赤くなった小さい存在を眺める。

 菊が亡くなってから生まれた、年が離れた妹。

 もし今、私が死ねば、次は妹が跡継ぎにされて。
 やっぱり家の、村の犠牲になるんだろうなあ。

 椿が生まれた理由はそこにある。菊の代わり、桜にもしものことがあったら、の場合。何も知らない小さい物体は、生まれた時から代替品でしかない。

 ハッキリ言って、桜は妹のことをあまり可愛いとは思えない。ただただ、生まれた時から、椿のことは「可哀そう」なだけ。

 でも、椿が自分を生きられる世界にしたいな。
 一生私の代わりなんて可哀そう。
 私がこの呪いを終わりにしよう。

 妹の頬をぷにぷに触りながら、また思いを新たにするのだった。

〈妹さん、大丈夫?〉
〈うん、大したことないって。橘平さん、何してる?〉
〈宿題やっつけてる。もう今日中に終わらせようかと思ってる〉
〈あ、そっか。私も宿題やっちゃお!!看病しながらできる!!〉

 宿題をしつつ、橘平とメッセージをやりとりしつつ、その日は過ぎていった。


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