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自動車運転について

 車に乗れるか乗れないかで、私自身生活が随分変わってくることを経験してきました。交通の便の良い都会なら、車に乗れなくても生活はできます。むしろ、ない方がいい場合もあるくらい。でも、1時間に1本しかバスが通らないような田舎では、車はもはや生活の必需品です。

 病気や障害の為に元々車の運転が可能だった人が難しくなること、これは加齢の為免許証を返納するのとはわけが違い深刻な問題だといえます。


私と自動車とのお付き合い

 私が車の免許を取ったのは29歳の時。随分遅いデビューでした。これにはワケがありました。

 私の周りの友達は、大抵18歳になると自動車学校に通い、普通はストレートに合格し大学1回生の夏休みには地元に帰ってきて車を運転していました。

 私はというと、子どもの頃から斜視があり視力もあまり良くなかったので、医者から乗らない方がいいと言われていました。乗ってはダメ!というストップがかかっていたわけではありませんが。私自身も、当時は怖い方が先立って、そこまで車に乗りたいとも思っていなかったのです。

 26歳で言語聴覚士免許を取得し、地元の病院に就職が決まりました。そこへの通勤手段は、バスでした。1時間に1本…。出勤時は、早すぎるかギリギリかだし、退勤時も早すぎるか遅すぎるか、という具合にちょうどいい時間帯のバスがありませんでした。

 非常に不便は不便だったのですが、車の便利さを経験したことがなかったので我慢はできました。

 ところが、車の運転に対し考え方がガラリと変わることがありました。28歳の時です。当時勤めていた病院を辞めて、どうしても行きたい職場が見つかったのです。しかし、そこの職場へ行く為には車に乗れないと無理でした。

 私はきちんともう一度視力検査を受けることにしました。そして、眼鏡をかけて何とか規定の視力をクリアすることができました。あとは身体機能について。足でアクセル・ブレーキを操作することは難しいけれど、手動式のものならいけるのではないかとの判定を受けることができました。

 ここまでこぎつけてから、お目当ての職場へ履歴書を持って行き、これから車の免許を取るから働かせてほしいと頼み込みました。

 病院を退職後、自動車学校へ通う生活が始まりました。手動式で練習し散々教員に怒られ苦労しましたが、周囲が思っていたよりも早くに免許を取得することができ、無事に新しい職場へ移ったのでした。

 新しい職場へは、車で片道30分ほどの距離でした。運転が楽しくて仕方なかったですね。楽しいと同時に自由を味わいました。仕事のみならずプライベートでも、これまではどこに行くにも誰かの都合に合わせなくてはいけなかったのが、ちょっと本屋さんへ行きたいと思っても自分の好きな時間に行けるし、好きなだけ居られるしで、こんなハッピーなことはないと(笑)

 車に乗れるようになってからは行動範囲がグッと広がりましたし、何よりやりたいことも増えて積極的になれたような気がします。

自動車運転と高次脳機能障害

 患者さんの多くは、退院後はまた車に乗れるようになりたいと希望されます。それが可能かどうかは、麻痺があるなど身体的な問題もありますが、高次脳機能の評価がとても大切だと思います。

 自動車運転をスムーズに行う為には、高次な脳の働きが必要不可欠となります。正確なハンドル操作を行いながらのアクセル・ブレーキの使用、道路状況の把握を行いながら、危険な時にはブレーキを踏みこむなどとっさの判断ができるかどうかが、ポイントとなります。

 最近は、こういった自動車運転の評価を行ってくれる病院が増えてきています。今現在私が担当させていただいている患者さんの中にも、車の運転を希望されている方がおられます。失語症がメインで、病院生活では顕著な他の高次脳機能障害は見受けられません。後には復職も希望されています。

 その方にとっても、今後車に乗れるか乗れないかで生活がガラリと変わることが予測されます。生活が変わるということは金銭的な問題も生じるでしょうし、元々乗れていた人が乗れなくなるということは、心理的にも相当なダメージをもたらすのではないかと考えられます。

 当院は急性期病院の為、その詳細な判断は回復期リハビリテーションに委ねることになっていますが、今後その方にとって最善の結果が出ることを願うばかりです。もし仮に不合格の判断が下された場合、その時こそリハビリ職が寄り添い、これからの生活について共に考えていかねばならないと思います。

自動車運転の光と闇

 車は私たちの生活に自由と便利さを与えてくれる存在です。しかし、一方で毎日どこかで死亡事故が起こっていて、動く凶器でもあります。

 すべてのドライバーが、安全運転でマナーを守って正しく乗れればいいのですがね。私も他人ごとではありません。自分の生活を守るためにも、慎重に慎重にと言い聞かせて。

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