見出し画像

クアッドによる地政学的、技術的連携(ハドソン研究所の記事)

 写真出展:ElasticComputeFarmによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/elasticcomputefarm-1865639/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=949913

 ハドソン研究所の2021年4月の記事で、クアッドによる地政学的、技術的連携についての提言があった。クアッドと言うと安全保障に偏りがちであるが、実際には経済、科学技術分野での協調が下支えとなって初めて効果が出ると考えられる。日本にとっても参考になると思われるため、その一部をご紹介させていただく。

↓リンク先(Winning the Geo-Tech Battle and Building the Quad Alliance in the Indo-Pacific)
https://www.hudson.org/research/16838-winning-the-geo-tech-battle-and-building-the-quad-alliance-in-the-indo-pacific

1.本記事の内容について
 本記事では、7つの政策を提言している。詳細については、以下の通り。
・民主主義が主導する科学技術の生態系を育成する
 クアッドの中でインドがまだ内向きであり、本格的な取り組みに参画できていないため、まずはインドの経済を開放していく必要がある。そして、クアッドプラスの枠組みを通じて、外部の国々を取り込んでいき、技術提携やイノベーション総支出の仕組みを構築していく。
・中国の5Gを抑え込み、代替企業を育成する
 日米豪の3か国でインフラ投資事業を行っており、ファーウェイの代替となる危機の整備を支援している。支援事業や基金を活用し、日米が得意とするオープンRANを東南アジア諸国で展開し、中国の垂直統合型の5Gネットワークを抑え込むべきである。
 ・デジタル貿易協定の締結
  デジタル化に伴いあらゆるものがデータ管理されることから、データに基づいた経済圏が構築されることが見込まれている。ただデータ植民地主義などへの警戒も根強いことから、クアッド内の国民に安心感を与える明確で法的拘束力のある規則を策定する必要がある。米日デジタル自由貿易などを参考にし、貿易に不必要な負担を伴わない形で、各国間のデータ転送を安全かつ容易にし、知的財産を保護し、国境をまたぐ技術プラットフォームの育成、データ濫用に関する罰則などを定め、デジタル時代の貿易協定を締結するべきである。
 ・中国の経済的関与を抑止する
  中国は対外投資を含めて民主主義のイノベーションを盗用しており、特に新興技術分野における知的財産の盗用が顕著である。そして、盗用した技術を活用してアジアの経済を席巻している。中国が民主主義各国と自由に契約できないようしえ減すると共に、友好国が共同事業により中国の代替となる製品やサービスを創出する仕組みを構築するべきである。
 ・中国のイノベーションただ乗りに立ち向かう
  中国はGitHubなどを自由に利用しているにも関わらず、中国は自国の成果を十分に世界に公表しようとしていない。このような事例はイノベーションただ乗りに外ならず、中国が利用することを制限しなくてはならない。また、中国と互恵関係を確保できない領域には制限を課すべきである。例えば、軍民融合の機密性の高い研究に中国人留学生が関われないようにするべきである。
 ・クアッドでイノベーション基金を創設する
  クアッドではすでに、特定の分野や技術に関する共同基金創設の前例がある。現在有望な候補は、バッテリー技術、食品、制約、バイオテクノロジーであるため、これらの共同研究やイノベーション事業を支援する基金を創設するべきである。
 ・環境技術に注力する
  ヴァーチャルサミットにおいて、気候変動対策を最優先課題として決定した。中国 はパリ協定に加入して目標を設定しつつも、実際には目標を無視し、自国に有利となるよう環境を利用している。中国の矛盾を指摘するには、各国間で連携して環境技術に取り組み、目標を達成するよう努力することである。特に、汚染低減技術、水資源保護、農業技術に着目する必要である。

2.本記事読後の感想
  安全保障の連携は、必然的に経済、科学技術の連携も含む。現代において、科学技術無くして安全保障は不可能であり、経済連携がなければ、科学技術を生み出す基盤を創出することができない。
  クアッドはNATOとは異なり官僚的な仕組みになっておらず、各国間の調整のみで柔軟に様々な政策を実施できるのであり、今回提言のあった事項については、日本が主導する余地があるものばかりである。
  科学技術の共同研究は従前からなされてきたが、それぞれの国の得意分野をより深く追求していくべきだろう。軍事はアメリカ、量子技術ならオーストラリア、ITならインドなど、成長分野が多くある。日本もある程度の選択と集中で得意分野を伸ばしていくべきだ。
5Gはトランプ前政権の取り組みが奏功し、オープンRANなどで猛追しており、この課題は克服できる見込みが立ってきた。こちらについても油断することなく、携帯事業企業への支援も行っていくべきである。
デジタル貿易協定は、今後の経済構造の変化に必須の協定である。データに基づいた経済になっていくにつれ、データの公開及び保護が必ず必要となる。共通の法律や規則を制定すると共に、個人情報に配慮したシステム開発などを支援することも重要となるだろう。
経済的関与は、まさしく経済安全保障の問題である。半導体の輸出制限が奏功しているように、中国も輸入に依存している者が多々ある。こういったものを材料にしつつ、徐々に市場から中国を排除していくことが必要だろう。
イノベーションただ乗りも、経済安全保障と密接に関わっており、民主主義国家以外で成果を利用できなくするよう、特許やライセンス生産についての協定を定め、中国がただ乗りできる仕組みを変更していくべきである。最近は、裁判の管轄権の間隙をついて、特許のライセンス料率を著しく低減させるというある種裏技的な運用もなされており、各国間が法令で協調しなければ、中国の悪知恵に負けることになる。
クアッドでイノベーション基金を創設するのは、割合に容易な政策だろう。アジア開発投資銀行や国際協力銀行の枠組みでアジアへの資金援助の実績があることから、
環境技術については、これはバイデン政権の都合で言っている部分もあるだろう。ただ、日本は独自に動くべきであり、一気にクリーンエネルギー側にシフトするのではなく、火力発電所の技術供与などを通じて大幅な排出削減が可能であることを示し、東南アジア諸国を取り込んでいくべきである。
  ただ、明るい話ばかりではなく、課題が大きいのも確かである。中国の5Gは頓挫し、中国経済も好調とは言えず、大企業や銀行などの破綻も後を絶たない。しかし、軍事的には必ずしも成功しているとは言えず、インドは健闘しているものの、南シナ海や肝心の日本が押され気味であり、尖閣諸島への領海侵入はその度を増している。
  中国の防衛費への傾注を考えると軍事面で即座に対応することは困難であり、経済的に追い込んでいくしかない。クアッドの運命は日本の取り組みにかかっていることから、NSCの活躍を期待したい。
 
 英文を読んでわからないという方は、メールにて解説情報をご提供させていただきます。なにぶん素人の理解ですので、一部ご期待に沿えないかもしれませんので、その場合はご容赦願います。当方から提供した情報については、以下の条件を守ったうえで、ご利用いただきますようよろしくお願いいたします。

(1) 営利目的で利用しないこと。
(2) 個人の学習などの目的の範囲で利用し、集団での学習などで配布しないこと。
(3) 一部であっても不特定多数の者が閲覧可能な場所で掲載・公開する場合には、出典を明示すること。(リンク先及び提供者のサイト名)
(4) 著作元から著作権侵害という指摘があった場合、削除すること。
(5) 当方から提供した情報を用いて行う一切の行為(情報を編集・加工等した情報を利用することを含む。)について何ら責任を負わない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?