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中国の新しいAI規制(LAWFARE記事)

写真出展:Reto ScheiwillerによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/xresch-7410129/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=6944718

 2022年10月3日にLAWFAREは、中国サイバー空間規制庁が8月に公表された新しいAI規制に関する記事を発表した。内容は、中国による巨大IT企業規制強化について確認し、今後の規制の方向性や技術規制の困難性などを概観するものである。技術規制の困難さや今後の日本が見習うべき情報が盛り込まれていることから、参考として本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Don’t Assume China’s AI Regulations Are Just a Power Play)
https://www.lawfareblog.com/dont-assume-chinas-ai-regulations-are-just-power-play

1.本記事の内容について
 ・中国サイバー空間規制庁は、8月に巨大IT企業が活用している30の推奨アルゴリズムの概要を発表し、これまでにない包括的な規制強化に乗り出している。内容が曖昧であることから様々な憶測を呼んでおり、バイトダンスのような巨大企業もアルゴリズムの機密情報を共有しなければならないと解説する識者もいる。
 ・しかしこのような憶測は必ずしも正しくない。企業への聞き取りは選択肢による回答となっており、500以上もの項目となっているが、機密情報を把握するには不十分な内容である。2015年の国家安全保障法により、国家が企業に介入することは可能となっているが、今回のAI規制はそれほど強力なものではない。
 ・中国サイバー空間規制庁は、今回の規制は情報収集ではなくアルゴリズムを直接的に管理できるようにすることを目的としていると発表している。しかし中国サイバー空間規制庁の職員はそれほど技術に明るくなく、また人員も不足していることから、その目標を達成することはできないと見られている。
 ・今回の規制で重要な点は、第一には規制に関するシグナル効果である。中国が新興技術による被害への対処に本腰を入れることを国際社会に表明することにより、どの国よりも早くAIシステム支配に乗り出すことができるのである。第二は、国内の技術企業締め付け強化である。これまでの規制強化で6大技術企業は市場価格で1.1兆ドルの損失を発生させており、政府の動きに戦々恐々としていることから、このような中身のない通知であっても企業を統制するには十分な効果がある。また、72%の若年世代が技術企業の規制を求めているという世論にも配慮しているものと見られている。
 ・幅広い解釈が可能な規制を施行することにより、政府当局が容易に技術企業を規制できるようにするという点は、EUも同様である。欧州AI法は、エラーが許されない完ぺきなハイリスクAIモデルの訓練に利用されるデータに適用されるものである。機械学習などの訓練に利用されるデータには正確性が求められることから、危険性が高いとみられるAIシステムを開発している全ての技術企業を規制することが可能になる。罰金を科すか否かは不透明であるが、少なくとも違反した企業への統制を強めるきっかけにしようとしていることは明白である。また一般データ保護法(GDPR)も同様であり、本法を遵守することはほぼ不可能であり、かつ、機械学習アプリの多くが違法となるような内容である。それなりの罰金刑が課された事例はあるが、違反事例件数と比較して多いとは言えない水準である。
 ・こういった事例が必ずしも望ましいというわけではない。曖昧な法律により不確実性が増し、コンプライアンス上のコストも増大し、政府当局者が濫用する危険性がある。しかし技術の進歩は日進元歩であり、将来の発展をある程度織り込んだ曖昧な条項は必要になるだろう。もしある政府が包括的な技術規制が必要と判断しても、GDPRのような曖昧さを回避することは困難であり、政府側がより技術に精通する必要がある。
 ・中国サイバー空間規制庁の規制はあまりにも広範囲であり、たとえ技術企業から情報を提出させたとしてもその内容があまりにも広範となり、核となる技術情報を十分に把握できない可能性がある。今回の中国政府による規制を単なる統制強化と見るのではなく、急速に変化する技術規制の本質的な困難さにいかに対処するのかといった点から参考にするべきであろう。

2.本記事読後の感想
  中国の巨大技術企業規制については何度か記事にしてきたが、いよいよAIシステム全体の規制に乗り出してきた。今後この傾向はさらに強まり、ブロックチェーン技術など派生分野にも波及していくだろう。
  もちろんこの動きは権力闘争の一環として見られているが、それだけではなく規制の先例として学ぶべきは学ぶ必要があるだろう。大陸系の法体系であるEUも条文を曖昧にせざるを得ない状況であり、リスト方式や立法事実などに基づくのではなく、もたらされた結果でもって判断するという姿勢も必要なのだろう。
  ただ日本はこういった法律の運用が非常に苦手であり、国民も嫌う傾向にある。またそもそも機微技術を把握してすらおらず、スタートラインにすら立てないだろう。アメリカですら技術情報の把握が不十分であると認識しているのであり、日本が適切な技術規制を行うのは実質的に不可能であろう。
またセキュリティクリアランス法では中国という名前を出すななどという岸田政権の弱腰姿勢を鑑みると、技術規制は夢のまた夢だろう。せいぜい官僚が悪知恵を働かせて、通達レベルでの一括規制のようなものを出す程度だろう。こういった悪質な規制は企業を委縮させて技術者流出を招くだけであり、官僚の権益肥大化にしか貢献しないと見るべきである。取り急ぎ、今後のセキュリティクリアランス法などの展開を見守り、今後の規制の方向性を見極めるようにしよう。

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