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ウクライナ侵攻と中東・北アフリカ諸国(RUSIの記事)

 写真出展:OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/openclipart-vectors-30363/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=158800

 2022年3月10日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、ウクライナ侵攻に伴う中東、北アフリカ諸国への影響に関する記事を発表した。内容は、今回の件が東欧のみならず世界の他の地域の安全保障、特に中東と北アフリカ諸国の安全保障環境に悪影響を与えるということを論じるものである。
世界には紛争の火種がそこかしこにあり、次に発生する紛争を予見することは非常に困難である。今回の紛争に伴う今後の展開を予測していく上で参考になると考えらえることから、本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Russia’s War on Ukraine: Implications for the Middle East and North Africa)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/russias-war-ukraine-implications-middle-east-and-north-africa

1.RUSIの記事について
 ・ロシアのウクライナ侵攻に伴い、ヨーロッパなどの各国は素早く連携するなどして対応しているが、中東や北アフリカ諸国の動きは鈍い。中東でロシアを真っ先に批判した国はクウェートのみであり、3月2日の国連総会の非難決議採択においてもアルジェリア、イラク、イラン、スーダンは棄権している。しかも賛成した各国は言葉を慎重に選択しており、プーチン大統領の行動を直接的に非難しようとしていない。
 ・安全保障理事会非常任理事国であるアラブ首長国連邦の対応は、特に注目に値する。2月26日のロシア非難決議の棄権は、西側各国に衝撃を与えた。これは、ロシアが自国にとって都合のいい決議で賛成してもらうためという見方もあるが、最も大きな要因は、大国間でのバランスを取らざるを得ない現状である。
 ・今回のウクライナ侵攻を巡る対応は、アラブ諸国の苦悩を示している。アラブ諸国は、冷戦時代に大国のはざまでうまく立ち回ってきたが、アメリカとソ連、中国との関係性は、安全保障と経済で大きく異なっており、バランスを取ることを求められている。
  事実、ロシアの侵攻により中東諸国経済に影響が出ており、FAOの試算によると5500万人が食料不足に苦しむ可能性があるとしている。また世界最大の小麦輸入国であるエジプトは、ロシアとウクライナに85%も依存しており、価格の高騰は国民の生活や政治的安定性に深刻な影響を与える可能性がある。
 ・その他の大きな経済的影響としては、エネルギーがある。ロシアの石油・天然ガス供給が滞れば、その穴を埋めるべく中東各国が増産するという見方があるが、そう単純ではない。3月1日のOPECプラスの会合では、コロナ禍で減少した原油需要を踏まえ、大幅に増産しないことを決定した。このことは、ロシアとの不和を回避したいという意思と、西側諸国が中東の安全保障に十分な配慮を示していないことに対する不満を示すものである。つまり、どの国からも支援を受けられないのであれば、経済的に自立していなければならないということであり、今回の危機を最大限利用して利益を上げようとするのは当然である。また天然ガス生産者は、ウクライナ侵攻前から需要過多で供給が追い付かない状態だったが、ヨーロッパ諸国から更なる需要が見込まれる状況になっており、今後ロシアとヨーロッパとの間でどのように立ち回るかという問題に直面している。
 ・北アフリカ諸国も、今回の件で問題を突き付けられている。ロシアは政治的圧力を与えるために軍や民間軍事企業を活用する可能性があり、マリにおけるワグナーグループが支援している親ロシアデモは、北アフリカ諸国に恐怖を与えるに十分なものである。
 ・今回の紛争は、各国への経済だけでなく、安全保障環境にも悪影響を与える。ロシアはイランとの核交渉復活を妨害しており、中東における安全保障の混乱を助長しようとしている。またヨーロッパが一致団結している状況において、リビアなどの北アフリカ諸国の混乱は、2正面作戦を強いるという点でロシアにとって望ましい。今回の紛争は、ヨーロッパのみならず、他の地域の安全保障にも波及するだろう。
 
 
2.本記事についての感想
 今回の紛争に関しては、欧米を中心としたメディアの情報が溢れかえっていることから、ロシアに過剰に着目した報道が多くなっており、他の地域の情報がおろそかになっている。
 このため、中東や北アフリカなどに注意が向かなくなっているが、世界の紛争の火種はどこにでもあり、いつどこで戦争が起こってもおかしくはない。特にアフリカは常に不安定な状態にあり、政治的な不安定性だけでなく、バッタによる食害などの自然災害などによっても、大きな混乱がもたらされる可能性がある。こういう大きな出来事がある時期にこそ、あえて他の国に目を向ける必要性があると考えるべきだろう。
世界がサプライチェーンで結びつけられるようになってから、1つの国や地域における出来事が世界中に影響を与えるといったことは珍しくなくなっている。タイの洪水によるハードディスクの供給不足、米中貿易戦争とコロナ禍に伴う半導体不足、などはこの典型的な例である。特に今回はエネルギー供給に及ぼす影響が甚大であることから、今後も事態の推移に目を向けていかなければならない。
 多くの日本人は、今回の紛争をどこか遠い場所での出来事であると認識しているように見える。岸田政権の対応も稚拙で遅く、実効性が伴っていないことから、どこか他人事と取られているかのようである。しかし今回の件で全く悪影響を受けない国はなく、長期的には日本にも多大な影響を与えるだろう。このような中で求められることは、将来を見通した先手先手の外交・安全保障政策であるが、核シェアリングの議論すらまともになされていない国会には何ら期待できない。一人一人の日本人が覚醒し、まともな議論がなされるよう、国会議員に要求を突きつけるしかない。

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