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アメリカ労働市場の現状(2)(ヘリテージ財団の報告書)

本記事は、アメリカ労働市場の現状(1)(ヘリテージ財団の報告書)の続編である。前回の記事は、以下のリンクを参照。

・手厚い失業給付の影響力は非常に大きい。18か月間の失業給付は、1週間当たり600ドルが給付されるものであり、3分の2の労働者はかつての賃金よりも多く給付を受給していた。この給付の影響により、2020年3月から12月にかけて、求職者の労働市場への戻りが鈍かった。更に2021年3月から9月にかけて300ドルの給付が開始され、労働者全体に失業給付が拡充され、労働者不足が解消されにくくなった。(図6参照)
 マリガン氏の分析によると、2021年7月以前に追加的な失業給付を停止した州は労働者が増加しており、もし停止しなかった州が停止していれば、7月から8月の1か月で80万人の労働者が増加したと見込まれる。

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・その他の影響としては、オバマケアがある。失業者にも健康保険に加入できる仕組みになっており、低所得者にとって有利な仕組みであり、年収1万3000ドル未満の労働者、4人家族世帯では年収2万6500ドル未満の労働者であれば、保険料を支払う必要がない。年収3万9000ドル未満、4人家族世帯で年収8万ドル未満の場合、保険料は年収の6%以下である。
・毎月の臨時児童手当も労働者不足に拍車をかけた。5歳以下の子供がいる家庭には毎月300ドルの給付があり、6歳から17歳の子供がいる家庭は毎月250ドルの給付があった。(図7参照)シカゴ大学によると、この給付を継続した場合に2.6%の子供を持つ労働者が失われることになり、これは150万人に相当する。更に悪いことに、年間3000ドルから3600ドル給付を追加しても、子供の貧困問題解決にはならない。

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・補助的栄養支援プログラムの追加給付も影響を与えている。パンデミックに伴い食料費補助要件の緩和及び予算増額が承認され、2019年度から2021年度にかけて受給者が610万人も増加し、4人家庭当たり年間4000ドルの増額となった。このことに伴い、一人母親の労働者及び給与が大きく下落することになった。
・借家立ち退きモラトリアムと家賃補助も、労働者不足に一役買っている。CDCが施行した借家立ち退きモラトリアムにより、賃借り人は家賃の支払いを先延ばしにするもしくは免除されることになった。この制度の恩恵を受けた失業者は、恩恵を受けていない失業者よりも求職しない傾向にあった。
・景気刺激給付は、4人家族に年間1万1400ドルを給付するものである。他の給付ほどではないが、これも求職活動が鈍る要因になった。これら給付の影響により、アメリカ人の貯蓄がパンデミック前から2.2兆ドルも増加しており、ある研究では1000ドル当たりの給付により給与が660ドル下落し、政府が1ドル給付を増額するほど、生涯年収が5ドル下落するとしている。
・ワクチン義務化も、非常に大きな影響を与える要因である。350万人の連邦職員にワクチン接種が義務化され、1400万人の医療関係者にも義務化が適用されている。更に2022年1月4日からは8400万人の労働者にも義務化が適用されようとしている。(現在、裁判にて差し止められている。)2021年11月21日現在、18歳から64歳人口のうち、33.2%がワクチン1回接種もしくは未接種である。これらの多くの人々はワクチンを忌避しており、離職も辞さないとしている。カイザー家庭基金の調査によると、ワクチン未接種の労働者の3分の1(全成人の5%)は、ワクチン義務化や検査義務化を課される場合は離職すると回答しており、毎週の検査が選択できない場合は、7%から10%(全成人の9%)にまで増加するとしている。
 その他州政府などのワクチン義務化も数千人の労働者を失わせることになっており、例えばニューヨークのノースウェルヘルスは、1400名を解雇せざるを得なくなった。
その他、ニューヨーク市はワクチン義務化施行に伴い、1800名の学校の保安員及び2000名の教員を無給休職させざるを得なくなった。
 FRBの2021年10月のベージュブックによると、ワクチン義務化による離職は少ないとしているものの、労働者不足を悪化させたと認定している。連邦政府のワクチン義務化は11月22日に施行されたが、17万5000名の連邦職員が離職予備軍になってしまった。連邦職員一人を採用するのに平均98日、研修に数か月要することを鑑みると、連邦政府の機能が大幅に低下することになるだろう。失業しても職に空きが大量にあることから、解雇されたことの影響は大きくはないが、軍や警察などの定員不足により、社会の安全性が損なわれる危険性がある。

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