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アメリカ労働市場の現状(1)(ヘリテージ財団の報告書)

写真出展:David MarkによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/12019-12019/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=95311

 ヘリテージ財団は2021年12月8日に、アメリカの労働市場の現状を分析する報告書を発表した。内容は、アメリカ労働市場の特異性や現在の労働不足の真の原因を分析するものである。アメリカにおける労働不足やインフレなどの記事はこれまで何度か紹介してきたが、今回は最も詳細かつ広範な内容となっており、詳細を理解するのに有益な内容となっていることから、その概要を紹介させていただく。ただ長文になることから、3回に分けて紹介することとする。

↓リンク先(What Is Happening in This Unprecedented U.S. Labor Market?)
https://www.heritage.org/jobs-and-labor/report/what-happening-unprecedented-us-labor-market

1.本報告書(1)の内容について
 ・現在のアメリカ労働市場は、かつてない異例なものとなっている。パンデミック後1年間で、記録的な労働力不足となっており、2021年9月現在で1040万人の職に空きがあった。これは2018年11月から38%も増加した水準であり、失業者よりも280万人分多い職に空きがあるということになるが、その一方で9月には440万人が離職しているのである。
 ・現在1億5500万人分が就業しているが、2020年2月比で310万人の労働者が不足している。FRBの予測に基づき毎月8万4000人の職が安定的に創出されたと仮定すると、パンデミックがなかった場合、470万人の労働者不足になると見込まれている。(図1参照)

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 表1は、2021年10月現在の各グループ別労働者ギャップ(対想定雇用水準比)を示したものである。この表により、各グループの労働力状況を概観することができる。以下、各項目について詳細に分析していく。

・図2は、男女別の労働者ギャップ(対想定雇用水準比)を示したものである。2020年2月から4月にかけ、女性の労働者は男性の労働者よりも220万人減少しており、女性は18.1%も労働者不足になっているが、男性は13.6%に留まっている。女性の雇用はパンデミックの影響大きく受けており、ロックダウンに伴う飲食店の休業で離職を余儀なくされる、学校閉鎖などに伴い家で子供の面倒を見ざるを得なくなったことなどが影響していると考えられる。2021年3月は格差が最小になったものの、女性の労働者ギャップは一貫して男性よりも高い水準となっている。これは、選択肢が不足しているというよりは、選り好みの問題であることを示唆している。

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・図3は、年齢別の労働者ギャップ(対想定雇用水準比)を示したものである。パンデミックは高齢者に大きな危険性をもたらしたことから、65歳以上の高齢者層の雇用が大きく失われることになった。2020年4月、65歳以上は19.9%のギャップであったが、25歳から54歳は13.5%であった。また健康上のリスクだけでなく、退職金が十分にある人々が離職を決断したことも示唆されている。ギャップの推移は、感染者数の増加やワクチン接種状況などに依存しており、2021年春以降はギャップがほとんど解消されている。

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・有効求職者数(失業者に占める求職者の率)が低くなっている要因は何なのか?最も容易に考えられるものとしてはCOVID-19への恐怖がある。2020年5月は970万人がパンデミックを理由として求職活動を行っていなかったが、2020年10月には360万人に減少したが、2020年秋には再度上昇した。現在は130万人から160万人程度の水準にとどまっており、1040万人のギャップに占める割合としては小さく、COVID-19は労働者不足の主たる理由ではないと言うことができるだろう。(図4参照)

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・次に考えられる要因は、手厚い失業給付である。給与保証や社会保険料の給付などにより、失業者が休職しない傾向が見られている。COVID-19の名目で可決された法案のため、失業者の保険金や福利厚生が拡充され、結果として有効求職者数がなかなか回復しなくなっている。このことは賃金にも大きな影響を与えている。2021年9月の全米自営業協会の調査によると、42%の経営者が賃金を上げたとしており、30%の経営者が今後3か月にわたって賃金を上昇させると回答している。
 このことは労働者全体の留保賃金(求職者が要求する最低賃金)にも影響を与えており、2020年3月には6万1737ドルだったものが、2021年7月には6万8954ドルにまで上昇している。特に低所得者の留保賃金上昇は目覚ましく、4万197ドルから5万825ドルに上昇している。その後2021年3月から7月にかけて、低所得者の留保賃金は大きく下落しており、この3か月で4万2278ドルまで下落したが、これは手厚い給付が終了する時期と合致していること、半分の州が失業給付の停止を決定したことなどが影響している。(図5参照)

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