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米中の技術格差に関する報告書(protocolの記事)

写真出展:Gerd AltmannによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/geralt-9301/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=1607160

 2022年2月9日にprotocolは、北京大学の国際問題研究所が公表した、科学技術に関する報告書に関する記事を発表した。本報告書は、米中の技術格差に関する現状分析であり、米中デカップリングにより中国が不利になると結論付けた。内容や発表時期などが影響してか、本報告書は突如取り下げられており、いろいろな憶測を呼んでいる。
こういった報告書は主に欧米側からのものが多いが、中国側からまっとうな内容で公開されたものは珍しいことから、その概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(A report detailed the tech gap between China and the U.S. Then it disappeared.)
https://www.protocol.com/china/us-china-tech-decoupling

1.本記事の内容について
 ・北京大学の国際問題研究所は、北京冬季オリンピックが始まる直前の1月31日に、「中米戦略的技術競争に関する報告書」を発表し、中国の科学技術に関する現状について発表した。本報告書においては、両国がしのぎを削っている情報技術、人工知能及びの航空・宇宙3つの分野について、中国の相対的な立ち位置を分析しており、米中が技術的にデカップリングした場合、中国が不利になると結論付けている。
 ・ただその表現は弱弱しいものではなく、将来一定の分野において、アメリカとの技術格差を解消し、自立可能になるとしており、アメリカを凌駕するには苦労するといったニュアンスであった。ただ旧正月やオリンピックの時期ということで国威発揚の雰囲気が高まっていたことから、本報告書は国営メディアや中国国内のSNSにやり玉にあげられることになり、突如として削除されるに至った。
・各項目の分析の詳細は以下の通り。
 ① 情報技術(IT)
   アメリカの経済制裁により、ファーウェイなどの情報技術部門が大きく損害を受けることになり、制裁対象外の中国企業のビジネス取引にも大きな悪影響が出ている。ただ、技術デカップリングの直接的な影響は現時点では不明確であるとしている。

 ② AI
   米中共にAI分野は他の国を圧倒しており、中国はビッグデータに強みを発揮し、アメリカはコンピューティングやアルゴリズムに強みを発揮しているとしている。また中国は論文数が多いものの、アメリカは独創的な研究において明確な優位性を持っているとしている。
 アメリカに留学したAI研究者のうち、中国に戻るのはたった10%であり、米中関係の悪化によりさらに状況が悪化すると見ている。しかし研究成果の共有は行われており、留学生が帰還しなかったとしても、その影響をある程度抑制することができるとしている。

 ③ 航空・宇宙
   アメリカは、宇宙航空機、人間飛行、衛星ナビゲーション、衛星通信、宇宙探索などにおいて世界をリードしているとしている。中国は、ヨーロッパやロシアと共に、第二グループに属しているとしている。そして、宇宙技術や軍事航空技術において、ほぼアメリカからデカップリングして自立することができるとしているが、民間航空産業においては、不利にあるとしている。

・以上の分析を受け、中国が米中技術戦争に勝利するには、学術交流や国際協力を強化し、研究開発投資を推進し、未来のイノベーションを担う人材育成をしなくてはならないとしている。更にこれ以上格差を広げられないように努め、新興技術において支配力を強めなくてはならないともしている。
・アメリカの研究者も、この見方におおむね同意している。また中国の人材不足についても同意見であり、米中デカップリングにより両国が人材不足に陥ると見ており、特に中国が影響を受けるとしている。特にAI分野ではこの傾向は顕著であり、アメリカが公開しているオープンソースのAIコミュニティに大きく依存している。
 技術外交については、中国は多国間での協力の枠組みを持っていないことから、資源が分散されてしまい、十分な成果が上げられないとも指摘している。
・中国が本報告書を削除した理由は、推測するしかない。ある専門家によると、中国は自国の誤りを認めることにはためらいがないが、公開した弱点を突かれる可能性があることを懸念したこと、中国が技術大国であるというイメージを維持するためであるとしている。

2.本記事読後の感想
  今回の報告書のアーカイブは、以下のリンクから取得することができる。中国語であることから、ブラウザなどを用いて翻訳していただければ、その概要がわかると思われる。ただ、このアーカイブは原本ではないことから、内容が不正確である可能性もあることから、あくまでも参考という位置付けで考えていただきたい。
  https://uscnpm.org/zh/2022/02/06/pku-iiss-2022-report-tech-competition/

 さて内容に入るが、オリンピックが始まろうとするこの時期に、ナショナリズムを既存するような報告書が出たことは、中国で何らかの異変が発生している証拠なのだろうか。一部には習近平派に対する江沢民派などの旧勢力の反撃などといった陰謀論の類が流布しているが、その背景は謎である。ただ、中国は自国を批判するような報告書を出すこともあり、誤りを認めることそれ自体にそれほど抵抗感を抱いていない。(むしろ政局に利用しようとしている節があり、本来の意味で失敗に目を向けているというわけでもなさそうだが。)
  ただ中国は、認識した誤りを正すことにかけてはそれなりに迅速であり、今回取り上げた弱点の克服のため、いろいろと手を尽くしてくるだろう。おそらくその手段は、技術の盗難や情報の詐取といったものが主なものとなり、まっとうに長時間かけて研究開発に尽力するというものにはならないだろう。
  人工知能や軍事航空については、中国は間違いなく世界トップクラスであり、人材不足についても情報共有や研究成果の詐取などで十分カバーできる範囲だろう。ただITに関しては国内だけでは覇権を握ることができず、半導体などのハードやソフトなどについては、おそらく弱点を克服することはできないだろう。事実ファーウェイやZTEの苦戦を見るに、途上国などでそれなりにシェアを取っているものの、6Gへの研究に注力する余力はなく、大きく進展することはないだろう。

 参考まで、本報告書についてはエポックタイムズの新聞観点では割合長い時間かけて取り上げられていたが、中国の技術力が宣伝と乖離しているといった批判に終始し、本質的な部分に触れていなかったことから、あまり参考にはできなかった。従って、こういった報道でぬか喜びするのではなく、今回の記事のような本質的な部分について考察したものに触れる必要がある。
とかく保守系と言われる人々は、中国や韓国の悪口や批判を聞いて気分が良くなってしまい、本質的な問題に目を向けない傾向が強いように思う。面白いか面白くないか、印象深いかどうかなどは関係がない。問題の本質とその解決策を見出す冷静な姿勢こそが重要なのである。

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