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お坊さんの決り事。第2条「与えられてへん物を盗んだらあかん!」

「律」のエピソードを小説にしてみました。第2条は窃盗禁止令。佛も結構ヒドイ、無慈悲なことしますね・・・。
話の筋はそのままですが、大幅に脚色したり省略したりした超訳『根本説一切有部毘奈耶』です。漢訳・国訳・チベット訳を参照しました。
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第2条「与えられてへん物を盗んだらあかん!」

インドはラージャグリハのカランダカ・ニバーパ(竹林精舎)(王舎城羯蘭鐸迦池竹林園)に、佛がおわしたときのことでございます。

あるとき、陶工の子のダニカという出家者が林の草庵(阿蘭若)にいました。

ダニカ「さてと・・・今日も乞食に行くかな」
牛飼い「しめしめ、あの修行僧、出かけて行ったぞ」
薪屋「あいつの草庵、いい草木使ってるな」
草屋「壊して、あの草木を売ってしまおうぜ」

ダニカ「ふぅ、今日の乞食もまずまずか・・・えぇ!!草庵が壊されてる!?・・・仕方ない、作り直すか・・・」

次の日。

ダニカ「さてと・・・今日も乞食に行くかな」
草屋「しめしめ、あの修行僧、また出かけて行ったぞ」
薪屋「あいつの草庵の木、いい値段で売れたな」
牛飼い「草も牛の餌にぴったりだったぜ。今日も壊してしまおうぜ」

ダニカ「ふぅ、今日の乞食もまずまずか・・・えぇ!!また草庵が壊されてる!?・・・仕方ない、作り直すか・・・」
こうしてダニカが乞食に行くたびに、草庵が破壊されるということが続きました。

ダニカ「えぇ・・・またぁ・・・もう無理・・・こんなの辛すぎるよぉ。乞食でやっとの暮らしなのに、何度も草庵を壊されるなんて・・・どうやって暮らしていけば・・・はっ!じいちゃんに教えてもらった陶工の技を使って、レンガの庵を作ればいいんだ!」

こうしてダニカは自ら土を掘り、虫のいない水を使って土を捏ね、整形して焼き、赤いレンガの豪勢な庵を完成させました。

ダニカ「やった!いいのができたぞ!これでもう庵を壊されずに済むよ!あ、そろそろ乞食にいかなきゃ。・・・すみません、出家者さん、私が出ている間、この庵を見守っていてもらえませんか?」
出家者「あ、いいっすよ」
ダニカ「お願いしますね」

そう言ってダニカは、他の修行僧にお願いをして、乞食に行きました。
ちょうどその頃、巡回していた佛が近くにやってきて言いました。

佛「アーナンダくん、他の弟子のところへ行って、弟子らがどんなとこで暮らしてんのか見たいってわしが言うとったって、ちょっと言うてきてんか」アーナンダ「御意」

こうして佛は弟子達の住処を回り、ダニカが作ったレンガの庵を見て言いました。

佛「あれ?これ、誰の庵?」
弟子1「陶工の子のダニカが作った庵です」
佛「あっそう。ふーん。これ、破壊してくれる?こんな庵があったら、他の宗教の人らから「釈迦の弟子は出家者のくせにこんな煩悩にまみれた豪勢な庵建ててるんか!?」って悪口言われてまうわ。ほな、壊して」
弟子たち「へーい」

こうして、佛はダニカの庵を破壊して去って行きました。

ダニカが乞食から帰って来ると、レンがの庵が破壊されていました。

ダニカ「え!?なになに!?どういうこと!?出家者さん、これ、誰が壊したんですか!?」
出家者「佛がいらっしゃって、破壊するように指示されたんすよ。それで随行の弟子達が破壊したんす」
ダニカ「そうですか・・・佛のご指示で破壊されたのならば、この破壊は善い事だ・・・ということにしておきましょう・・・(シクシク)」

その頃、マガダ国のラージャグリハに樹木を管理する掌木大臣がいました。

ダニカ(そういえば掌木大臣と友達だし、彼に言って木材もらって木製の庵を作ったらいいんじゃん?)

ダニカは掌木大臣のところへ行き言いました。

ダニカ「久しぶり。元気してた?」
掌木大臣「おぉ、久しぶり!元気元気よ。今日はどうしたの?」
ダニカ「あのさ、知ってた?マガダ国のアジャータシャトル王がさぁ、僕に樹木をくれたのよ。その樹木を使いたいんだけど、くれない?」
掌木大臣「え、そうなの?王様が君に樹木を授けたんだったら、持っていっていいよ。あ、でもこの城の中の樹木はだめよ。宮殿の補修とか災難があったときのために確保してる樹木だから、誰にもあげちゃだめなのよ」
ダニカ「ふーん。そうなんだー。(あ、この木ちょうどいいな・・・)」

時に、ダニカはついに1本の大木を伐って持ち去りました。
その後、城の管理をしている守城大臣が巡回してきたところ、樹木が一本伐採されているのを見て、とても驚き恐れおののきました。

守城大臣(え!?なに!?木が1本無くなってるじゃん!?もしかしてアジャータシャトル王を怨んでる輩が城に入って盗んでいったのか!?この木は王様のもので、他の誰にも与えてなんかないのに・・・なんでこんなことになったのか・・・)

こうして守城大臣は掌木大臣のところへ行って言いました。

守城大臣「掌木大臣、ご存知ですか!?さきほど私が巡回していたところ、大木が1本伐られて持ち去られていたのです。王様に怨みを抱く者が盗んでいったのかと思って、驚愕したのですが・・・あるいは、木を管理するあなたが誰かにこの木を与えたのですか?」
掌木大臣「いやいや、私が誰かにこの木を与えたことなどありません。あ、そういえば。ダニカという出家者がやってきて「アジャータシャトル王が木をくれたので私に木をくれませんか」と言っていました。それで私は「王様が木を与えたのだったら持ち去って使ってもいいですよ」と答えたのですが・・・もしかしてダニカが木を持ち去ったのかも・・・」

掌木大臣の話を聞いた守城大臣はアジャータシャトル王に報告しに行きました。

守城大臣「・・・ということで木が持ち去られていたのですが、王様、誰かに木を与えましたか?」
アジャータシャトル王「んー・・・そんな覚えはねぇなぁ。おい、掌木大臣を呼べ」

ちょうどその頃、用事があってやってきていたダニカを掌木大臣が見つけて言いました。

掌木大臣「ダニカ!君が木を持って行った件で、僕は王様に呼ばれたんだよ」
ダニカ「え!?そうなの!?先に行ってて。僕も後で行くから!」

こうして掌木大臣とダニカは城の門の前にやって来ました。

侍者「王様、掌木大臣が門前に来ています。例のダニカとかいう出家者も呼ばれていないのに門前に来ています」
アジャータシャトル王「掌木大臣はそのまま門前で待たせておけ。例の出家者をここへ呼べ」

こうしてダニカは王の前までやってきました。

ダニカ「王様、無病長寿でありますように」
アジャータシャトル王「出家者よ、与えられていない木を持ち去ることは許されるのか?」
ダニカ「いえ、それはいけません」
アジャータシャトル王「じゃぁ、なぜ俺の木を持ち去ったんだ?」
ダニカ「王様がかつてその木を与えてくださったからです」
アジャータシャトル王「そんな覚えはないぞ。俺に思い出させてみろ」
ダニカ「かつて王様が王位につかれたとき、<我が国において、戒を保ち善を修め盗みを働かない修行者は、我が領地の草木や水を自由に使ってよい>とおっしゃったのです」
アジャータシャトル王「それは所有者のいない物について言ったんだ。例の木には所有者がいる。それなのになぜ持ち去った?」
ダニカ「はて。所有者のいない物なのに、どうして王様はそれを自由に使ってよいなどと言えるのでしょう?(ニヤリ)」

これを聞いたアジャータシャトル王は眉間に山のようなシワを寄せ、目を剥き、大激怒して言いました。

アジャータシャトル王「はぁ!?ゴルァ!死にてぇのかぁ!テメェ!出ていけぇ!」
ダニカ「ひぇぇぇ~!!」

この出来事を知った人々は、「あの暴虐なアジャータシャトル王が、殺さずに叱責するだけで放免にするなんて!そんなことあるぅ!?」と大声で言いました。
時にダニカは自分の庵に帰って他の弟子1に言いました。

ダニカ「いやー危なかったよ。アジャータシャトル王に殺されそうになっちゃった」
弟子1「え!?何したの!?」
ダニカ「実はね・・・・・・というわけよ」
弟子1「・・・あぁ・・・そう・・・(こいつぁ佛に報告だ!)」

弟子1「師匠!」
佛「ん?どないしたん?」
弟子1「実は、これこれこうでございますですよ!」
佛「ふむふむ・・・なにぃ!?アーナンダくん、ちょっと街に行って、どれくらいの物を盗んだら王様の法を違犯して死罪になるのか調べてきてくれへん?」
アーナンダ「御意」

こうしてアーナンダは街に行き、人々に尋ね歩きました。

アーナンダ「師匠、調べて参りました」
佛「ご苦労さん。で、どうやった?」
アーナンダ「街の人々が言うには、5マーシャカの貨幣に値するあるいはそれ以上の物を盗んだら死罪になるようです」
佛「ふむ。なるほど・・・おーい、君ら集まれー」
弟子たち「へーい」
佛「ダニカくん・・・君、やってもうた?」
ダニカ「・・・はい、やっちゃいました・・・」
佛「あぁ・・・やってもうたかぁ・・・それ、出家者のやることちゃうで、ほんま」

こうして佛はダニカを叱り終わってから、弟子たちに言いました。

佛「君ら、ええか。与えられてへん物を盗んだらあかん!そんなことしたら追放や!」

こうして、与えられていない物を盗んではいけない、というお坊さんの決り事ができました。

--------------------------------------------------------------------------------------お坊さんの決り事は約250条あります。更新頻度は激低ですが、ぼちぼちとすべてのエピソードを超訳していきたいと思っています。よろしくお付き合いくださいませ。

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