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正方形になってしまった 小話

 

 昨日の夜、旅行の準備をしていた母からキットカットを一枚貰った。イチゴ味のキットカットで桃色の包装紙に包まれた綺麗なお菓子。最近運動不足で危機感を感じているものの、やっぱり甘いお菓子を貰うのは心があったかくなってうれしい。もらってその場で何気なく袋を開けてみた。
…短い…―。
 短すぎる。かろうじて長方形になってはいるものの、もはや正方形と疑うくらい、縦と横の長さがほとんど変わらないのである。二つに分けるためのくぼみも健在だったがこんなにミニサイズのお菓子を2つに割って食べるのは顎がハムスター並みに小さい人間くらいだろう。
 調べてみると、どうやらここまでキットカットが悲しい姿になったのは2020年9月14日らしい。「おいしさそのまま! 砂糖10%減」と大きくかかれたパッケージが痛々しい。全粒粉やおからパウダーを使用し、健康志向の現代に寄せたリニューアル内容と言えるが、それでもやはり、内容量が減ったのは事実らしい。カッコ付きで合わせるとしたら「お値段そのまま! 1cm減」。
 1センチも短くなっている。このままだといつか本当の正方形のキットカットが製造され、チロルチョコのように銀紙とセロファンで包まれてしまう。2つに分けあう幸福さを知らない子供時代をこれからは味わっていくのか?そんなのって、かなしい。パピコも雪見大福もキットカットも、2人できちんと分け合うかは別にして、二人で食べる選択肢があるからこそ楽しいのだ。結果的にすべて自分で食べても、二人分を味わう幸福感があるのだ。そういう気持ちを、キットカットではもう味わえなくなるなんて…。
 調べを進めていくとカントリーマアムの大きさの変遷についての記事も出てきた。なんと、カントリーマアムに至っては2005年からわずか10年でファミリーパックの数量が10枚(!) 減り、その上で小さくなっているという。下手したら私の目よりも小さいカントリーマアムが流通しているのかもしれない。そんなのって、ないよ。
半分はそのまま、もう半分はあたたかい牛乳に浸して食べる事がもうできないなんて、悲しい。

キットカットもカントリーマアムも、大人の事情とやらに振り回されながら自分のアイデンティティをなんとかして保っている。その姿はけなげで、痛々しさすら感じる。
悲しみに暮れる私を置いて、母親はずっと旅行の準備をしている。一枚のキットカットを割らずにそのまま口に放りこんで。

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