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入門歯科保険診療-カルテの書き方-     「SOAP、POS、POMR」

歯科の保険診療のABCを解説する不定期連載です。カルテの記載方法、カルテメーカーでの入力方法などを解説していきます。研修医の先生や、新規、個別指導を控えた先生の参考になればと思います。


SOAP、POS、POMR

昨今は保険診療のカルテもSOAP形式で記載することが推奨されています。

若い先生は大学の授業で習ったと思うのですが、SOAP形式とはPOS(problem-oriented system、問題志向型システム)に則って記載されるPOMR(problem-oriented medical record、問題志向型診療録)のProgress Note(経過記録)を記述するための記法のことです。

今回は、これらの用語を解説しつつ保険診療カルテに望まれる全体的な構造というかレイアウトを紹介していきます。

■POSとは

POSは、従来の医療の考え方DOS(D-oriented system、疾患中心主義)に 対抗する考え方、哲学として考え出されたものです。

DOSの「D」はDisease疾患、Diagnosis診断、Doctor医師のような意味ももっており、疾患を診断し治療することをひたすら目指すような考えを表したものですが、それ自体は崇高なことでありますが、それにより他を疎かにしてしまっているという否定的な意味合いで使われるものです。

一方、POSのPはproblem問題、patient患者、person全人であり、これは疾患だけでなく、それに付随した全身的、全人的な、さらに広く社会的な背景なども「問題」として、そして、それらのさまざまな「問題」に対応していかなければいけないという考え方です。

日本の医療保険は疾病保険と言われるように、ガチガチのDOSです。歯科医療保険は「歯」や「欠損」などの非常に小さな領域を対象とした、DOSの中のDOS的なものです。

でも最近は、歯科の疾患が糖尿病や脈管系の疾患、認知症などとの関連が注目され、さらに訪問診療などでは嫌でも社会的な問題と向き合わなければいけない状況になってきました。

これらの状況は厚労省などでも認知されており歯科医療保険においても、口腔全体や全身との関連に対応した項目の導入や点数配分がされるようになってきています。

SOAP形式での記述が推奨されていた背景には、こうしたPOSの考え方を導入したいという想いがあるのは確かです。POSは具体的な方法論というより医療に対する姿勢というか哲学なようなものです。ついつい日常の臨床では視野が狭まってしまうのが歯科医師の性かもしれないのですが、より広い視野を持ち患者さんと向き合うように心掛けるのが大切だと思います。

■POMRとは

POMRはPOSの考えを具体的な形式に実現したものと言われていますが、歴史的な経過をみるとPOMRが先のような感じがします。POMRは、従来のカルテが属人的で主観的であり、論理的なものではなかったことを改善するために一定の書式を導入して論理的な構造を持たせたものです。「問題」という広い概念を表すことが可能になったことで、結果としてPOS的な考えが生まれたのではないかと思います。(個人的な意見なので参考にしないように😅)

というのもPOMRはカルテの書式を決めているだけで、それに従って書けばPOSの実践になるかというと必ずしもそうではないからです。

カルテは医師の備忘録ではありません。

指導の時などに「カルテは何のために書いてるのですか?」と聞かれることがあります。正解の一つは「自分以外の誰かに読んでもらって、理解してもらうために書く」というものです。

現代の医療では多くのスタッフによるチーム医療が当たり前です。スタッフ間の情報の共有においてカルテは中心的なものであり、単なる備忘録ではスタッフ間の連携が取れません。医療過誤までいかなくても患者さんからのクレームが多くなっていますのでそれに対抗する意味でもしっかりとした読める記録が大事です。そして、このnoteの主題でもある指導の時に、審査側を納得させるには論理的で読めるカルテが絶対に必要です。

POMRでは、カルテの論理的な構造をしっかりと構築し、それに沿って記述することで他人に理解しやすいカルテを書くことができるようになっています。

■POMRの構造

POMRは4つの大きなパートから構成されています。

  1. Database(基本データ)

  2. Problem List(問題リスト)

  3. Initial Plan(初期計画)

  4. Progress Note(経過記録)

そして、この順序でカルテを記述します。

基本データ」とは、問診、検査などで集めた情報(医学的な情報だけでなく患者さんに関連した情報すべて)を記録したパートです。これにも一定の書式が決まっています。これらの情報を元に「問題」を決定します。

問題リスト」は「基本データ」の中から患者さんが抱えている問題を取り出してリストにしたものです。医師が書くPOMRの場合は多くは診断名です。問題リストには番号(#1、#2とか)を振って区別できるようにします。

初期計画」は「問題リスト」ごとに、問題を解決するための計画を立案します。問題に番号を振ったのは、番号で問題と計画を結びつけるためです。

経過記録」は「問題リスト」ごとに決めた「初期計画」を実行する過程での日々の記録です。この記録の書式がSOAP形式です。問題ごとにSOAPで記述するので1日の記録に複数のSOAP記録がでてきます。

このように、POMRでは常に「問題リスト」を中心に記録が展開されていきます。これが「problem-oriented、問題志向」と呼ばれる理由です。

基本データ」と「初期計画」は、通常は初診時に1度だけ記載するものです。
問題リスト」は初診時にはもちろん必須ですが、その後の経過により新しい問題が発生した場合などは、その時点で追加したりします。
経過記録」が所謂カルテです。毎日の記述は経過記録を作成しているわけです。SOAP形式で記載しましょうというのは、POMRのとりあえず良いところを使ってくださいという意味合いです。

POMRの構造(レイアウト)

■基本データの構造

基本データにも構造があります。

  1. 主訴

  2. 現病歴(全身・局所)

  3. 現症(全身・局所)

  4. (既往歴)

  5. (生活歴)

  6. (基礎疾患)

  7. (服薬歴)

1〜3が必須の項目です。4以降は補助的な項目で見やすさのために独立した方が良いという項目です。

主訴」は前回のnoteの記事をご覧ください。

現病歴」は受診する前の症状の経過等を主に記載するところです。「歴」という言葉の通り「過去」の情報を記載するわけで、当然、その情報の元は患者さんが語ったあるいは問診で聴取した情報ですので「主観的」な内容になります。

主訴に代表される患者さんの訴え、症状の経過などの病態に直接つながる情報は「局所」に書き、これまでに経験した病気(既往症)、現在治療中の疾患(基礎疾患)、服用中の薬(服薬歴)などは、「全身」に書くようにします。既往歴や基礎疾患などは、見やすさを優先して別項目にまとめるのもよいでしょう。

記載の仕方は主訴のようにできるだけ患者さんの言葉で記載するという方法と、医学的な専門用語を使い医師が解釈した内容を記載するという方法の2つがありますが、どっちが良いのかはその時々の判断や医師の考え方次第なところです。ちなみに患者さんの言葉で物語のように記載する場合は、「ナラティブ(ナレイティブ)ベイスド・メディスン Narrative Based Medicine NBM」と呼んだりします。

現症」は、今「現在」の患者さんの状態です。視診、触診、口腔内診査、パノラマなどの画像診断結果、歯周病検査などの検査結果はここに記載します。主に検査結果を記載するので「客観的」な内容を記載することになります。

■問題リストの構造

問題リストは、問題をリストにしたものです。まんまですね😅

  #1 7⏈7,7⏇4 P1
  #2 ⎿6 C2
  #3 ⎾567 MT

基本的には現症、現病歴から導き出される医学的な診断名(病名)を列記します。

このように医学的な診断名だけの場合、POSなのかというと微妙です。POMR形式ならPOSなのだと断言できない理由がここにあります。しかしながらPOMRは見やすい(理解しやすい、共有しやすい)記載方法であることは間違いありません。

問題リストにつづけて「考察」という項目を追加する場合もあります。

考察」には、その問題を挙げるに至った理由、考え方等を記載します。診断に迷いがある時などは記載しておくと後で役立つことがあります。

■初期計画の構造

問題リストごとに「計画」をリストします。

  #1 7⏈7,7⏇4 歯周基本治療
  #2 ⎿6  光CR充填
  #3 ⎾567 局部床技義歯新製

計画には治療計画、診断計画、教育計画などの分類があります。歯科では特に区別する必要はないかと思うのですが、必要に応じて分類して記載してもいいでしょう。

やっと経過記録なのですが、長くなってしまったので、別の記事に書きますね。



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