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#66 secretとポンチ絵の関係。 印欧祖語*krei-に遡る。

Secretの語源

ラジオから、「秘密は、蜜の味」という歌詞が流れてきた。よく聞く曲だったが、初めてその歌詞に意識が向いた。

元来そのフレーズは「人の不幸は蜜の味」(または古めかしい言い方をすれば「隣の貧乏は雁の味」)ではなかったかと思ったので、調べてみた。レファレンス協同データベースにあるとおり(クリック)、英語ではschadenfreudeと表現し、元のドイツ語そのままの「他人の不幸を喜ぶ気持ち」という意味だ(Wisdomなどの学習辞書にも掲載されている)。

と、そこまで考えたところで、そもそも秘密を表すsecretの由来について調べてなかったことに気づいた。語源中毒としては、文字通り、"in a mucksweat"、つまり冷や汗だらだら状態である。

で、いつも通り、EtymonlineとMWのWord History、wiktionary、研究者の英語語源辞典の4点セットで調べる。まずMWで、secretは「ラテン語のsecernere(分ける、区別する)の過去分詞であるsecretus由来であり、英国で中世に話されていたフランス語secréから中英語に入った」とされている。

secernere = se- + cernereであり、se-は「自分」の意味で、後半のcernereは印欧祖語の*krei-(ふるいにかける=区別する)とされている。つまり、「自分のことを区別する」という意味から「秘密」という言葉が生成されたのではないかと思われる。

secretaryは?

secretと似た単語に「秘書」を表すsecretaryもあるが、これもsecret + -aryである。接尾語-aryは人や場所を表し、秘密を共有する人=腹心ということで、「秘書」という意味になっている。

wikipediaによると魏のころにはすでに「秘書」という単語はあったということなので(書は書記を表す)、かなり歴史の古い語である。ちなみに-aryつながりではlibraryなどもある。この-aryは場所を表している。もともと-aryは「〜に関するナニカ」ぐらいの意味だったようだ。(例:summary)

印欧祖語*krei-に迫る

少し話がずれたが、secretの後半"cret"が由来する印欧祖語*krei-に端を発する単語は割と多い。その中でも気になるのは、concern、concert、crime、secret等だろうか。

concernは com- + cern = 共に区別する=重要だと考える→不安に思うなどと変化してきたようだ。動詞が古く、名詞が派生している。

concertは少し不思議な単語で com- + certで「共に争う、議論する」の意味がまずある。その後、現在は音楽会を意味するが、その間どのような意味の変遷を辿ってきたのか難しい。辞書も、「〇〇語との混乱?」「〇〇が影響を与えた?」となぜ「争う」から「音楽会」の意味になったのかよくわからず混乱している様子が垣間見える。辞書が悩んでいる様子が伺え、ちょっと可笑しい状況だ。

ポンチ絵とsecretの「秘めた」関係とは

よく省庁のポンチ絵のことがインターネットで話題になりがちだが、諸説あるものの、一説には、ポンチの由来は英国の風刺漫画雑誌「パンチ(Punch)」であると言われる。風刺画も1つの絵に状況と面白さを含むが、見た目はどうあれ、スライド1枚に全てを注ぎ込む態度は、ポンチ絵と似ていると言えなくもない。だからこそ今のポンチ絵の元となったと考えられるのだろう。

その話題となった雑誌"Punch"の名前の由来は、もともとはプルチネッラ(Pulcinella)というイタリアの伝統的な風刺劇「コメディア・デラルテ」に登場する道化師がイギリスに入った時にPunchと呼ばれるようになり、そのキャラを雑誌のメインキャラとして使用したことにあると言われる。

コメディア・デラルテ

コメディア・デラルテは日本の吉本のように、皆に馴染み深いキャラが出てきて、即興的に喜劇が演じられる。プルチネッラ以外にもパリアッチオと呼ばれる現在のピエロの原型となるキャラもいる。実は古代ローマまでその歴史は紐解けるともされることもあり息の長い劇である。

で、そのプルチネッラだが、英語にも成句として入っている。それが"Pulcinella Secrets"である。

Pulcinella Secretsとは

Pulcinella Secrets(プルチネッラの秘密)とは、公然の秘密こと、open secretのことを指す。これは、劇中でプルチネッラが「ここだけの話だけど」と他の登場人物に話し、最終的に全員がその秘密を知るが、互いにそのことを相手が知っていることを知らない面白い状況に陥ることに由来する。

ところで、現代社会では、このプルチネッラの秘密は至る所に存在するとも考えられている。例えば学校では生徒の、病院では患者の、役場では市民の情報が共有されている。それらはプライバシーの観点から、一応誰も知らないことになっているが、分担化が進んだ現在では多くの人が関与するため、その情報に触れることができる人は多い。

例えば役場では、利便性を求めて、様々な部署で情報は共有されている。必要な時には一部の人々の間で公開され、共有される。そのことについて書いた面白いコラムが以下にある。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1467-8519.2011.01938.x

そんなわけでだらだらと書き連ねてきたが、secretだけでもこれだけさまざまな、語られるべき歴史がある。「秘密は蜜の味」だけではないだろう。さらに深く、良きネタを求めていきたいと思ったのだった。

今日はそんなところです。


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