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愛してほしかったんだよ

数年前の、ロンドンの空港でのこと。

久々に再会したヨーロッパ人の友達を送って、国際線のカウンターに行くと、係りの女性が “Over there” と、自動チェックインの機械をアゴで指した。

 えっ、Pleaseもなしに??
 ここって、紳士淑女の国の玄関じゃ?

座り方からして、緊張感に欠けるその係員の、いかにも機械がやってくれるから暇でいいわ的な態度に、友達は爆発した。

「何、言ってんの!あんた、客を助けるのが仕事でしょ!」

彼女は、ほぼ完璧な英語でどなりつけた。

ところが、係員は、いらつく乗客など日常茶飯事らしく、「そのチケットは、自動チェックイン用です」とビクともしない。

私は、友達が大の機械下手なのを知ってたから、友達の腕をとって、「やってあげるよ」と機械の方へ誘導したが、彼女は「何のために人間がいるのよ!」と、カンカンプンプン。

精密な機械によるチェックインは、3分もかからぬうちに終了。でも、友達の怒りはなかなか収まらず、せっかくの残り少ない時間が損なわれてしまった。

あの頃、友達は長年人生を共にしてきた夫とうまくいかなくなり、別居中という、大変な時期にあった。最大の悩みは、自分に援助が必要な時、彼があてにならないこと。

  なんで助けてくれないの?

彼女の心にたまっていた無念さ、悲しみ、憤りが、無礼な係員の言動で噴火した。

普段は埋もれてる感情が、何かのきっかけで、一挙に湧き上がることがある。そして、一度浮上した感情はちょっとやそっとじゃ収まらない。

行き場のない怒りは、相手を選ばず、噴き荒れる。でも、弱虫をいじめ、後輩をなじり、部下をどなりちらしても、気持ちはちっとも癒されない。

イライラしたり、ムカついたり、意地悪言いたくなるのは、心が泣いてるから?

守ってほしい人が守ってくれなかった、わかってもらいたい人にわかってもらえなかった、愛してほしい人が愛してくれなかった。

悲しくて、不安で、怖かった。でも、泣いてるだけじゃ、崩れちゃうから、怒りを盾に生きてきた。怒りのおかげで、偽りのパワーを感じながら。

友達はその後のセラピーで、幼少の頃からの親との関係が深い傷を残していることに気づいた。そして、その古傷をほじくり返すような関係が、夫との間にできてしまったことにも。

 愛してほしかったんだよ

怒りのみなもと、悲しみの根源は、この一言に尽きるかも。

私も自分の怒りや悲しみと向き合って、泣き、書き綴り、しゃべり続けた時期がある。古傷を見るのは怖かったけど、前に進むにはそれしか方法がなかった。

泣きたいだけ泣いて、書きなぐって、しゃべりまくって、押し込んでたものを出してあげよう。そして、大きな声で叫ぼう。

 ありのままの私をぼくをただただ、愛してほしかったんだよ~ 

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