美術館の椅子
コロナ禍の初期、美術館で椅子・ソファそのものが使用禁止になったり撤去されたり、例えば3つ座れるスペースのうち、真ん中のスペースだけがソーシャルディスタンスを理由に使用禁止となるようなケースがしばしばあった。
いちおうコロナ禍というものに一区切りがついた今、昔のような感じに戻りつつある一方、現在もソファなしを継続しているような美術館も全く無いわけではない(ただ、元々ソファを置かないスタンスの美術館というのもあるかもしれないので、初見だとそこらへんは判断しにくい)。
美術鑑賞は体力勝負と言われることがしばしばある。私の場合、一般的な企画展の滞在時間は40〜70分程度。過去に足底腱膜炎や腰痛、最近もアキレス腱の炎症を経験していることもあって、限度を超えると足が「キェー!」と悲鳴をあげる。
そういう時、足腰を休める場としてソファなどの休憩スペースが欲しい。当然、私以上に足腰の不調、また体力的に立ち続けることが難しい人はもっといるはずで、そういう人達にとってはもっとじゃないかと思う。落ち着いた気分で、椅子に座って作品を眺めたいという鑑賞者ももちろんいる。
もちろん、今でも感染防止という観点は理解できなくもないし、なかには「そんなの勝手だろ」と凄んでくる手合もいるかも知れない。特に収益性を重視する館の場合、客の回転率を上げるためにわざと展示室に椅子を置かないというような「悪い戦略」というのも閃く。
確かに勝手かもしれないが、その一方でICOM(国際博物館会議)が定める、下記のような定義もある(ちなみに美術館も広義の博物館に含まれる)。ベンチ・ソファが無いことが一定の利用者を作品から遠ざける原因になることは十分にありえる(収益性の観点からも個人的には疑問があって、ここらへんは統計・アンケートを取ってみても面白いと思う)。
美術館で思い出すのが渋谷区立松濤美術館の2階展示室にある、やたらふかふかなソファだ。私が初めて美術館を訪れた際はコロナ禍の真っ只中で利用禁止だったが、現在は利用可能となっている。牛革のソファは豪邸にも置かれるようなデカさで、数ある美術館のソファの中でも破格の存在である一方、「なぜこんなに大きいソファが…?」と疑問もある。
美術館によると、あのソファは美術館を設計した白井晟一によるもの。配置は開館当時とは異なっているようだが、ソファ自体は今も昔も変わらないらしい。下のツイートにある「「区民のための美術館」を目指す白井(晟一)は、一般の方々にこそ、この椅子に座って貰いたかった」という一文に、白井の心意気を感じる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?