『映像で観るボーカロイドの世界』⑥ココシガPの紡ぐ世界。
”電子の歌姫”初音ミクが誕生し、ニコニコ動画でその楽曲がアップロードされた2007年8月29日から約10年。
この10年であっという間に全世界へと拡大した彼女を中心としたVocaloidというムーブメントのなかで最も重要な位置を占めたのが、ニコニコ動画でありYoutubeであるといった各種動画サイトであり、ボーカロイド系の楽曲を聴かせるための動画――いわゆるPV(プロモーションビデオ)というアプローチであったことは明白である。
この10年間で公開された様々な『Vocaloid-PV』。
それらの中から強く印象に残った作品を紹介していくことで、Vocaloidというムーブメントを紐解いていこう、というのが、『映像で観るボーカロイドの世界』の主旨である――
『映像で観るボーカロイドの世界』⑥
『ココシガPの紡ぐ世界。』
ども、かーるです。
いやあ盛り上がってましたね、ニコニコ超会議2017。
私は札幌から生放送をチェックして(しきれないものはタイムライン視聴で)楽しませてもらったんですけど、特に良かったのがボカロ界隈でしたね――
――って言いたいのはやまやまなのですが、実は一番観たかったものを見逃してしまったので、胸を張って『良かった!』って言いきれないのです。
何を見たかったか、というと――
そう。
『超ボカニコステージ2017』のGYARIさんだったんです。
ほんとこの人のステージ見れなかったのが悔しくて悔しくてねぇ。
※
思い返せば、GYARIさん――ココアシガレットPさんとの出会いは、この作品からでした。
実はこの動画を観るまで、彼の動画どころかCLANNAD自体ちゃんと観てなかったんです。これもジャズ系のボカロ作品で何かないかとニコ動をうろうろしてて見つけたくらいでしたし。
いやあ、この動画を初めて観たときの衝撃と言ったらなかったです。
まず、ボカロが三人も出てて、歌うのが鏡音リンちゃんのみ(しかもほとんど歌ってない)で、10分を超えるその長い動画のほとんどがインストだったこと。しかもそのインストが真正面からジャズで、目を閉じて聴いてるだけで、本当に彼らが楽しくセッションしているように聞こえるところ。
そして最も驚いたのは、10分という長さを感じさせない『作品の魅せ方』だったんです。
※
ここで、彼が作品の中で用意した『世界観』に目を向けてみましょう。
まずベースとなる世界は、『マスター(ボカロ所有者)のパソコンの中』。
このマスターはボカロ『鏡音リン・レン』をインストールしたのは良いけどそれ以上の活動をすることが無くて、彼らはそのままパソコンの中で放置され続けていた――そんな状況から物語が始まっています。
ココシガPの紡ぐ物語の始まりは、この動画からでした。
この動画そのものは元ネタがあっての投稿だったようですが、この動画が殿堂入りしたときにアップされた記念漫画のラストでリンが涙したことで、彼女たちの物語は始まったのです。
ここでこの物語の登場人物を整理してみます。(ニコニコ大百科より抜粋)
鏡音リン: Vocal, piano
ココアシガレットをいつも咥えている、
初音ミク: bass
でかいバイオリン(リン曰く)、握力スゲー、万能ネギ、無口、頑張り屋さん、いたずら好き
KAITO: drums
奇跡ドラム、うざい、リンの標的、ゲッダン、本気を出すと結構凄い、いいアゴ
当初は動画にはこの三人のみ登場していましたが、バックボーンとなるココシガPの漫画には別のキャラクターも登場していました。
それが『名前のないレン』と呼ばれるそのキャラクターでした。
『CLANNAD Live!』で涙を流したリン。彼女のその涙の理由が語られたのは、その次の作品『月光ステージ』でのことでした。
少し昔のこと。
マスターに三か月放置されたリンは、いつの間にか行方不明になってしまった片割れのレンのことを気に掛けつつも、ヒマを持て余しすぎて勝手に電脳世界を遊び回ってました。
マスターに歌わせてもらえない彼女は、それでもピアノを演奏して披露していたのですが、こちらも鳴かず飛ばずで。一人ぼっちでくじけかけていた彼女の前に現れたのが、『どこかのうp主の家のレン』である『名前のないレン』でした。
『”月光ステージ”って知ってるか?なんでも、その場所で心のこもった音楽を奏でると、この電子世界でどんな願いでもひとつだけ叶うらしい――』
殿堂入りを目指してるんだ――そう楽しそうに語る名前のないレンとともに楽しいひと時を過ごしていたリンは、しかしある日突然やってきた別れによって自らの殻に閉じこもってしまい――
――とまあ、動画の背景にこんな物語をぶっこんでくるわけですよこの人は。
私はボカロは聞き専で、試用版とかインストールしても放置しちゃう(事実UTAUだってずっと放置してましたし)と思ってDLしなかった人ですが、もしパッケージされたボーカロイドたち『すべて』に個性があったとしたら――そちらがわの視点に立った時に垣間見えるであろう数々の悲劇(ボカロをインストールした人で曲を作って公開していない人なんて星の数ほどいますもの)を想像するなんて、この当時の私には考えすらしてませんでしたから、本当に衝撃的だったんです。
そして、この物語はあの名作『月光ステージ』へと続いていきます。
あー。
だめだ。
今回この流れを振り返るためにもう一度読み返してたんですけど、なんど読み返してもじんわりこみ上げてくるわ。
そして動画の10:36からのユニゾン!ああもうくそう!
この作品群がジャズであること。
ボーカロイドが普及したことで生まれている闇の部分に気付かせてくれたこと。
そして、あきらめないこと。
実は私、初めてだったんですよね。
ボカロ系動画で涙出てきたのって。この作品が。
オッサンがいい年して恥ずかしいったらなかったです。
ココシガP――いや、今はGYARIさんか――が作り上げたこの世界は、この物語が終わった後も続いていて、そのどれもが10分とか余裕で超えるジャズセッションの動画作品だったりするのですが、今ではそのどれもがとんでもない再生数となり、殿堂入りを果たすまでになっています。
ニコニコ動画でボーカロイドの動画がアップされて10年になりますが、彼のような『インストメインで10分以上の作品』を殿堂入りさせた人は他に存在せず、そういう意味ではボーカロイドだけではなく、ニコニコ動画史上に『ココシガP』は名前を刻むことになったのです。
ちなみにGYARIさんと言えば、この世界観とは別にアップされたこの作品も忘れてはいけませんね。
東日本大震災で被災したGYARIさんの彼女さんがGYARIさんと作り上げた、震災で亡くなったお姉さんへ贈る歌、『星巡りのワルツ』です。
※
というわけで。
今回はGYARIさんの作品の紹介だけになりましたが、彼の作り続けてきた作品を通して見ていくと、作品を作り続けることへの一つの答えが見えてきたように思います。
それは『芯をブレさせない』こと。
彼の作品には首尾一貫して『彼の世界観』と『ジャズ』があり、その芯がブレていないからこそ、たとえ絵が完成されてなくても、曲が完璧じゃなくても、たくさんの小ネタや物語がプラスされても揺らぐことが無くて、だからこそ観る側は安心して動画に入っていけるし、長く作り続けることができるのだと思うんです。
まあでも、それって実は一番難しいことですよね。
せっかく作ってもリアクションが無ければ意欲は湧かないけど、これだけ『作品』が氾濫してるこの世界では作ったものを見てもらうことすら大変で。
でも、だからこそ、あきらめないことが大事なのかな、と思うんです。
私たちはきっと、最初はだれもが『一人ぼっちだったココシガ家のリン』と同じで。きっと今現在も、リアルタイムで、くじけそうになっている人はたくさんいると思います。
でも、あきらめなければきっと。
きっと作品を観てくれる人はいて。
『良かったよ』と言ってくれる人が現れると思うんです。
さあ、皆さんも一緒に目指してみませんか。
あなたの『月光ステージ』を。
※作者註:
今回紹介した動画の中には、GYARIさんご本人が公開されていないものも含まれています。その点も踏まえ、最後に、今回紹介した動画作品のニコニコ動画のURLを記載して終わりとさせてもらいます。
『ボーカロイドたちがひぐらしのYOUをセッションしたようです』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm5865063
『ボーカロイドたちがCLANNADライブをはじめたようです』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm7526154
『月光ステージ』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9013559
『ボーカロイドたちがオリジナル曲をセッションしたようです』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13620827
『星巡りのワルツ』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm17320415
『ボーカロイドたちがただ2コードくりかえすだけ』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm26937870
『ボーカロイドたちがただテッテーテレッテーするだけ』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm27905394
『ボーカロイドたちがただ叫ぶだけ』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm29442394
『ボーカロイドたちが2コードくり返してテッテッテッテレーとか叫ぶだけ』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm31111156
動画もしゃべりも未熟な私ですが、何か琴線に触れるものがありましたら、ぜひサポートお願いします。