ダメになる会話「人を呪わば」

学生A「昼の学食はいつも混んでるな。」
学生B「今日の日替りはA定食がアジフライ、B定食がメンチカツだ。」
学生A「そうか。」
学生B「貴様はA定食にしろ。」
学生A「なにっ?何ゆえ貴様にそれを決められねばならん?」
学生B「こういう場合、別々のものを頼むのがセオリーと聞いておる。」
学生A「それは一緒に食べる者同士ですこしずつ分け合って色々な物を食べるという戦法だろう。それをやるのか?」
学生B「我のメンチカツは誰にも渡さん!」
学生A「何だとっ?!だとすればどちらを選ぼうが拙者の勝手であろう!」
学生B「ふふふ、先ほどまではな。だがもう違う。」
学生A「なにぃ!どういうことだ。」
学生B「ここで貴様がA定食を頼めば、我の言いなりになったと感じるであろう。」
学生A「む、確かに。」
学生B「かといってB定食を選べば、我に反発するためだけに選んだのではないか?本当に食べたかったのはアジフライではなかったかという疑念が残る。」
学生A「どちらにしても気持ち良く昼食を食べることはもはや叶わぬということか!」
学生B「それが嫌なら定食以外の物を食べたらどうだ?」
学生A「定食以外のメニューは割高な上に味も微妙なのを知っていてそれを言うか!」
学生B「くくく、これこそが『呪』よ。俺が貴様にかけた呪いというわけだ。」
学生A「学生にとって昼飯がどれほど重要な憩いの時間か、お前とて知らぬわけではあるまいっ!なぜこんな事をする?!」
学生B「知りたいか?では胸に手を当てて思い出すがいい!もしくは足の裏をおでこに当ててみるといい!」
学生A「か、身体が固くて、なかなか届かないっ」
学生B「まさか難しい方を選ぶとはな。やはり貴様ただ物ではないな!」
学生A「どうにか、当てて、みたが、体が痛くて何も思い出せんっ」
学生B「ええい!もうやめろ!ヨガの修行僧みたいになっておるわ!」
学生A「ではなぜこんなことをしたか、話してもらおうか。」

学生B「昨日の放課後、貴様、久美子ちゃんと何か話していたな。」
学生A「あれは、彼女が数学でわからないところがあると言うから、ちょっと説明していただけだ。」
学生B「だが!貴様その時に久美子ちゃんの手に触れたろう!」
学生A「ちょっと当たっただけではないか。」
学生B「我の目はごまかせんぞ。久美子ちゃんは我らのアイドル的存在。けしてぬけがけはせぬという約束だったはず。」
学生A「そんな女々しい理由で俺のランチタイムを台無しにしたというのか。許せぬっ!」
学生B「許せぬならなんとする?」
学生A「『呪』を使う時は用心が必要だ。かけそこなった『呪』は自分に返ってくるぞ。」
学生B「貴様も『呪』を使うと言うのか。面白い。だが先に宣言したのは失敗だったな。仕掛けてくるとわかっている相手に、そう簡単に『呪』はかけられんぞ。」
学生A「では覚悟はいいか?」
学生B「いいとも。いつでも来い!」
学生A「久美子ちゃん、お前の事気になるっていってたぜ?」
学生B「え!マジで?!ねぇそれ本当?!ねえっ!ねぇっ!」
学生A「貴様っ!めっちゃかかってるではないかっ!」
学生B「くそっ、久美子ちゃんを使うとは卑怯な!」
学生A「ふふふ、この状況だからな。嘘かもしれんぞ。だが本当である可能性も捨てきれまい。」
学生B「確かに気になる…だが甘いな。この呪いを解くのは簡単だ。久美子ちゃんに聞けばいいんだからな。」
学生A「そうだな。聞ければ、な。」
学生B「どういうことだ!?」
学生A「貴様に聞けるのか?久美子ちゃん本人に向かって『俺の事気になってるんだって?』などと、聞けるのかぁ?」
学生B「はっ!そうか。もしこれが嘘だったら…」
学生A「とんだピエロだよなぁ?久美子ちゃんにも『こいつ何いってんだ?』てな顔をされて、二度と立ち直れまいよ!」
学生B「た、確かに…」
学生A「だが!その一方で本当かもしれないと言う未練も捨てきれないのだろう?!」
学生B「俺は、俺はどうすれば…」
学生A「はははは!この呪いの本当の恐ろしさはそこにある!この呪いは確かめる勇気さえあれば簡単にとける!だがお前は自分にその勇気がない事に気づいてしまった!」
学生B「い、言うなぁっ!」
学生A「それこそが『呪』なのだよ!久美子ちゃんが言ったかどうかは関係ない!自分に勇気が無い事を自覚してしまう事こそ、この呪いの本当の力なのだっ!」
学生B「くっ、これほどの使い手とはっ…」
学生A「自分の不甲斐なさに気づいてしまった貴様には、もはやメンチカツの味もろくにわかるまい!」
学生B「それでなくともここの揚げ物は衣の厚さが尋常ではないと言うのにっ」
学生A「ふふふ、ふふふ…」
学生B「な、なぜだ?なぜ貴様が泣いている…」
学生A「人を呪わば穴二つ、と言う。」
学生B「確かに、そう言われるな。」
学生A「この呪いは使った俺自身にも返ってくるんだよ。」
学生B「どういうことだ?」
学生A「気づいてしまうのさ。俺にだって、そんな勇気が無いことにな…」
学生B「…所詮、我らは似たもの同士ということか。」
学生A「そう言うことだ。」
学生B「そんな我らが学食で争ったところで無益というものだな。」
学生A「教室でやっても変わらんだろうがな。」
学生B「…なんだかどうでもよくなってしまったよ。」
学生A「腹も減ったしな。」
学生B「では、お主にかけた呪いを解こう。今日の昼は、俺のおごりだ。」
学生A「そうか、では俺も呪いを解こう。久美子ちゃん、お前の鼻毛がいつも飛び出してて気になるって言ってた。」
学生B「……。」

学生A「……。」

学生B「…じゃあ、食券買ってくる。」
学生A「解かないほうが良かったかなあ。あれ?もう帰ってきた。早かったな。」
学生B「…定食、とっくに売り切れたって。」
学生A「マジかよっ!アジフライ食いたかったのにっ!」
学生B「もう不人気メニューしか残ってないようだ。」
学生A「あーあ、仕方ない。今日は購買部でパンを買うか。」
学生B「貴様はメロンパンにしろ!」
学生A「すかさず呪ってんじゃねぇっ!」
-END-

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