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かりそめの仕事【後編:震災と人生観】

仕事に関する本2冊を読んで、自分の仕事(イラスト・デザイン業)と絡めていろいろ考えてみる回。
前編では、「HSPサラリーマン」を読んで、やりがいについて考えた。今回はもう一つ、「女と仕事」を読んで考えたこと。

ちょっと脇道逸れるけど、実は仕事に関する本には、今まで嫌悪感があった。会社勤めのときは業務時間外で仕事のことを考えたくなかったし、フリーで活動をはじめたばかりのときは「ちゃんと働け」と言われそうなのが怖かった。

今は少しずつだけど好きなことをちゃんと仕事にできているし、生活と仕事の垣根がだんだんとなくなってきている感じがする。「これからどう生活していくか」を考えることは「どう仕事していくか」を考えることでもある、という具合に。日常の中で仕事について前向きに考えることが多くなって、そういう流れで自然と手にとっていた。

「女と仕事」(仕事文脈編集部)/タバブックス

雑誌「仕事文脈」に掲載されていたものを中心に構成された本。
23人の女性による、仕事についてのあれこれが書かれている。

手にとったきっかけは裏表紙にあった一文、
ふつうに仕事をしていくのが難しすぎる」。

「いや、ほんとにそれ!」と激しく同意してレジに持っていったのである。


東日本大震災と私の人生観

前に歳の離れた友人とお茶をしていたとき、いつ死ぬか分からないのに将来の計画なんて立てられない、保険もイヤ、安定志向もイヤ、と26歳のイヤイヤ期を発揮していた。
友人は「その”いつ死ぬか分からない”って考えは昔から?いつからそう考えるようになったの?」と素朴な疑問をぶつけてきた。

そういえば、いつからだろう。

嫌な仕事や人間関係を我慢しながら働いて、明日死んだら悲しすぎる。
漠然とした将来のために、今欲しいものや食べたいものを我慢してまで貯金なんてできない。
いつからか、「明日死ぬかもしれないから」と今の気持ちを優先するようになっていた。それは自分が我慢したり計画性を持って行動することを嫌うタイプの人間だからだと思っていた。
だから改めて聞かれて、その場では友人の問いにうまく答えられなかった。

「女と仕事」の中で、何人かが書いていた、
「あの震災があってこう考えるようになった」というような言葉。
それを読んで「あ、これだ」と思った。

ちょうど昨日で12年が経った、東日本大震災。私が住んでいたのは埼玉県だったから東北ほど大きな被害はなかったけど、鮮明に覚えている。
12年前の私は高校受験を終え、卒業式までの残り少ない中学生生活を過ごしていた。自転車で美容院に行く途中、信号が青に変わるのを一人待っていたとき、地面が揺れた。
「地震ですかね?」隣で信号を待っていた見知らぬおばさんと言い合う。すぐに「いつもとはなんか違う」と察知して、あの揺れの中をそのまま自転車に乗って坂を下ってしまった。いつもスイーッと下っていた、滑らかなはずの地面がガタガタで、建物は歪んで見えた。この世の終わりかと思った。

恐怖で家に帰ったけど誰もいなくて、とりあえずテレビを付けたら、誰もが目にしたあの光景である。街が、海に飲み込まれていく映像。その横には増え続ける死者数と負傷者数の数字。

日常は、こんなふうに急に終わることがある。
それをあのとき痛烈に実感していたんだった。
きっとそれがずっと脳裏にあって、私の行動理由になっているんだと思う。
今なら友人に、そう答える。


我慢なんてしたくない

前はちょっとお堅めなお役所仕事で、事務職をしていた。
人間関係が良くないときも、良いときも両方あったけれど、朝仕事に向かう道のりはどんなときもしんどくて胸がキリキリした。そんな私だから「ふつうに仕事していくのが難しすぎる」という言葉に共感した。

デザインやイラスト関係の仕事はずっとやってみたいことではあったけれど、前職を辞めるときはちっとも考えてなかった。そこに辿り着いた経緯はまた別に機会があれば話すとして(個展で配ったフリーペーパー「かりそめ新聞」には載せたのだけど在庫なし)、とにかくそこで働き続けることは「明日死んだら後悔する」ことだった。やっぱり辞めるときもそういう気持ちでエイヤっと辞めた。

我慢強くなくて、ふつうに仕事できなくて、私ってダメな人間なのかも。そう思うこともしばしばだけど、そもそもなんで我慢しなきゃいけないのだろう。そんなことはないはずである。
心穏やかに生きていける方法が、どんな形でも一番だ。「何かを我慢するには、人生は短すぎる」と何かの本でも言っていた。

本書に戻って。23人の女性のエピソードは、悩みも、それに対するアプローチもさまざまで面白い。共感できるところもあれば、そうでないところもある。人間いろいろ、正解なんてないんだ。私もその「いろいろ」のうちの一人。
とにかく今は明日死んでも後悔しないように、かつ心穏やかにいられることを目指して日々模索している。

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