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ラブホテルで神様に会った話

昔、とあるラブホテルに行ったんですけど。

部屋に入った途端、枕元の電話がプルルと鳴りまして。受話器をとったら「お越しいただきありがとうございます。今からサービスのお抹茶をたてに参ります」って言うんです。

お抹茶?

はてなマークを浮かべたまま、おとなしく待っていると、品のいいおばさまが道具を持って部屋にやってきて、ベッド横のスペースでお茶をたてはじめました。私と相手の男性は、少し離れた場所で(すごく広い部屋だった)正座をしてその様子を見守りました。

お茶が二つ出来上がると、おばさまは「それではごゆっくり」と丁寧にお辞儀をして部屋を出ていき、残された私たちは、正座のまま、静かにそのお茶をいただきました。そして、それを飲み終わる頃には、すっかり毒気やら何やらが抜けていて、結局何もしないままホテルを後にしたんです。

その人とは特につきあっていたわけでもなく、お互い完全に勢いでそんな場所に行ったので、後になって「未遂に終わって本当によかったよね」と話をしました。そして「それにしてもアレはなんだったのだろう?」と二人で首をひねったのです。

彼には言いませんでしたが、私が思うに、あのおばさまは神様だったのではないかと。間違いを起こそうとする男女を、静かに戒めるため、抹茶とともに地に降り立つ神様。金曜夜のホテル街あたりをうろうろしては、怪しい二人はいないかと目を光らせる。

あなたも、もし勢いで入ったラブホテルで神様に出会ったら、おとなしく帰った方がいいと思いますよ。なんてったって神様ですからね。逆らわない方が身のためです。

そして、神様があらわれそうもない時は、お抹茶を飲むつもりで、まずは水でも飲んでみましょう。たいてい冷蔵庫に無料のやつが入っています。それを飲んで深呼吸して、そこで落ち着いてしまうような欲望なら、やっぱり帰った方がいいんじゃないかなと思いますよ。夜を越えて続く情熱は、抹茶や水くらいじゃ冷めないものですから。


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