古い映画はまるで物置き探検みたい。-ねずみ小僧次郎吉ー

古い映画には、物置きの中を探検するようなワクワク感があります。確かに昔のものは沢山あり過ぎてきりがないけれど、時代背景などを軽く調べたり、何かの縁を感じたりしながら辿っていくと深い味わいがあります。
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監督は、座頭市シリーズや子連れ狼シリーズなどが代表作の三隅研次氏。1965年の作品で、撮影された大映京都というのは、国際的に影響力のある日本の名だたる時代劇映画が撮影された場所ですが、1971年に倒産し、徳間書店傘下になった後、1986年に完全に閉鎖されたそうです(Wiki)。

この映画の見どころはやはり芸術的に美しい江戸の街と、そして噛み合っている会話。人と人の会話が噛み合うということが難しい世の中になってしまって、その延長上でドラマティックなものを見つけようとしていますが、たいしたものは作れないことが段々明らかになって来ているのではないでしょうか。こういう昔の映画を鑑賞することは益々価値が出てくる時代だと、個人的には思っています。

謎の美浪人

最初に出てくるこの謎の美浪人は、ねずみ小僧役の俳優さんが一人二役を演じているという予備知識がないとちょっと混乱してしまいますが、この美浪人は、ねずみ小僧の賛同者として登場します。ねずみ小僧は人を切らないことになっているので、危機一髪の時にこの美浪人があらわれて、ねずみ小僧の代わりに敵を切り捨ててくれるというのは好都合にみえます。

やくざと悪い旗本
やくざの親分安五郎は、大掛かりな賭博場をつくるため、戦略的な場所にある貧民街の土地を買い占めており、住民追い出しの件で旗本黒田の手を借りようとしています。勿論その気で訪れた黒田に、安五郎に女性をあてがわれた女性と寝室にいたところ、ねずみ小僧にマゲを切られてしまいます。如何にも悪そうな商人(やくざ)と旗本という永遠のコンビです。

とっさん
怒った黒田をなだめるため、安五郎は江戸中の御用聞きを集めて、ねずみ小僧を逮捕した者に報奨金を約束します。この席に一人だけ欠席したのが、長澤屋のとっさんです。もう歳だと周囲からは軽く見られていますが、堅気な御用聞きで、ねずみ小僧逮捕を引退前の大仕事にするつもりでいます。

貧民街
とっさんが注目していた謎の美浪人は、町娘が、やくざに絡まれているのをたまたま助けることになりますが、そのやくざが安五郎の手下だったために、居所に見当をつけられてしまいます。その居所とはまさに、安五郎が住民を追い出して全て取り壊そうとしている貧民街でした。

捜索
真っ黒な夜、粗末な屋根の中から漏れる灯り、安五郎に導かれた御用聞きたちは雑多に入り組む家々を片っ端から探し回ります。驚いて家から出て集まってきた住人たちに、安五郎の妾がしゃしゃり出て、’この土地は安五郎のものだからあんたたちには立ち退いてもらうことになっている’と宣言すると、住民たちはざわつき始めます。

ここからの展開はちょっと残念

ねずみ小僧こと、小間物屋の大阪屋の主人治郎吉は助けられた町娘(伊勢谷の娘)の家に行き、謎の美浪人をかくまって貰える場所を手配します。しかし、それからの展開はガラッと変わって、治郎吉は何故か、この美浪人と町娘をくっつけて旅に送り出す、お節介役におさまってしまい、この立ち退きの一件はよく分からないまま終わります。

クライマックス

途中から登場した幼馴染の寅吉の仇うちのため、例外的に次郎吉自身が人を刺します。血を拭っているところをとっつあんに捕まえられそうになってご用提灯に取り囲まれ、屋根の上から川に飛び込むクライマックス、そして歌舞伎のように朝日をめでるという締めくくりになります。

テンポの良い展開

ストーリー展開にはややがっかりしたものの、笛の音に応答して集まって来るご用提灯、屋根の上での捕り物の美しく、畳み掛けるような映像は、まるでテーマパークで何度もくりかえされているのを見ているように瞼の裏に焼き付きます。

旗本を接待する遊女も町娘も、おてんば路線の演技で突っ走っているのは、監督の好みか、その頃の流行なのか、ちょっと違和感がありますし、美浪人と治郎吉が一人二役なのは、(この俳優さんのファンでもない限り)ただ紛らわしいだけで、余りいいアイデアだとは思いませんでした。

恐らく、途中から前半を軽視した展開にしなければならない事情があったのではないかと勝手に推測しています。わたし的には、日本の時代劇全盛期の末期に属する映画なのかなと、位置付けることにしました。










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