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播磨陰陽師の独り言・第466話「陰陽師討伐隊」

 私の祖先……と言っても、幼い頃は生きていた曽祖父から聞いた話。
 明治政府によると、
——陰陽師は、江戸幕府の威光を笠に着る不貞の輩。
 なのだそうです。それほど恐ろしかったんでしょうね。
——ひとりでも陰陽師が生きていれば、明治政府は覆るかも知れない。
 と考えて、特に播磨陰陽師が嫌われ、闇の討伐隊まで出されました。資料によると、三度、討伐司令が出たそうです。そのたびに敵味方に分かれて殺し合いが繰り返されました。
 曽祖父は、
——討伐隊がわれわれを全滅させるより先に、明治政府が滅んでしまったが……。
 と笑っていました。その時の顔は、まさしく恵比寿顔でした。

 夏山ですら凍死しかねない北海道。いくら討伐隊と言っても、所詮は本土の寒さしか知らない人々です。山に逃げてしまえば、誰も追って来れません。山には寒波、ヒグマ、毒ガスの漂う地形などがひしめきあって、土地感のない者には地獄でしかありません。しかも、アイヌ人の抵抗勢力も暗躍し、地元のことを知らなければ命取りになりかねません。さらに真冬ともなれば、北海道は逃げるには絶好の土地だと思います。寒過ぎて誰も追っては来れません。
 われわれ播磨陰陽師は、あえて滝行事などの難行苦行を行いません。しかし、厳しい自然の中で武術の鍛錬を欠かしません。マイナス35度、体温との気温差70度の世界の中で生きる術を体感するのです。この気温では、全力で走っただけで肺は破裂します。死ぬのです。その気温を知らなければ、注意することもなく命を落とすことでしょう。
 祖母の祖父は討伐隊に出会ったことはないそうです。しかし、身内の何人かは出会ってしまったらしく、行方不明になった者や、敵を消し去った者などの話をしてくれました。
 立場を変えれば、討伐隊も可哀想な存在です。明治政府に脅されて、この世の果てのような蝦夷の地に捜索に出たのです。言葉を変えれば、
——敵を殺すまで帰って来るな。
 と言う意味を含んだ、ただの追放です。しかも地獄のような土地に、戦いには不向きな人々を放つのですから……。

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