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播磨陰陽師の独り言・第460話「歌舞伎は不思議だなぁ」
古典芸能が好きです。特に歌舞伎が大好きです。年末年始にテレビでも見ています。大阪に住んでいた頃は、妻の友人が歌舞伎座で働いていたので、時々、券をもらって見に行きました。
私の耳には、歌舞伎のセリフや歌は普通の会話に聞こえます。もちろん、狂言や能も、ごく普通の言葉に聴こえています。と言うか、曽祖父が古語でしか話さない人だったので、むしろ懐かしささえ感じています。曽祖父は江戸時代末期の生まれでした。ボケていたのか面倒だからか、祖母や私に話す時は、古語の、しかも播磨弁のまま話していました。
歌舞伎を見に行く時は、近くのカニ道楽でお弁当を買って食べました。毎回、カニ道楽でした。
歌舞伎にはお弁当を食べる時間い言うものがあって、その時に食べるものを〈幕の内弁当〉と呼びます。これは、幕と幕の間に食べると言う意味でついた名です。今でも意味を知らずに食べているお弁当のひとつですね。
はじめて歌舞伎の舞台を見に行った時は、まだ市川猿之助さんが亀治郎さんを名乗っていた頃でした。銭湯で三助さんに恋したナメクジの役をしていました。頭にナメクジの被り物をして、着物に〈ナメクジ〉と書いてありました。
その何ヶ月か前のことです。妻がまだ学生の頃、歌舞伎の授業があり、亀二郎さんたちが先生として来ていました。私も見学に行きました。近くでノーメイクの亀二郎さんは、普通の人でした。
それからしばらくして、歌舞伎を見に行きました。その時の亀二郎さんが美しいナメクジの踊りを……ちょっと表現は妙ですが……とても美しく舞っていました。本人を知っていたこともあり、本物の女性に見紛うばかりの姿は不思議でなりませんでした。
その時の別な演目のことだったかなぁ。パンフレットの中に、
「今日は、親父が娘役で良かった」
と書いてあるのを読みました。
親父が娘役……?
まぁ、その通りなのですが、娘さんの役は女性にしか見えません。パンフレットの本人の写真は白髪頭のお爺さんでした。
それを見て、
——歌舞伎は不思議な世界だなぁ。
と思いました。
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