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播磨陰陽師の独り言・第503話「幽霊のこと」

 あるYouTube映像の中に、
「なぜ幽霊は女性が多いのか?」
 と言うものがありました。
 話を聴いてみると、江戸時代に有名な幽霊が女性であることと、当時、女性が虐げられていて幽霊になりやすかったことを理由にあげていました。
 有名な幽霊として、『四谷怪談』のお岩様と『番町皿屋敷』のお菊さんをあげて説明していました。このふたりをあげたのは歴史的に有名な幽霊と言う訳です。
 江戸時代に限って言えば『累ヶ淵かさねがふち』の方が有名だと思います。この怪談は『四谷怪談』や『番町皿屋敷』に影響を与えた実話です。ここで実話と強調したのは『四谷怪談』が作り話だからです。『番町皿屋敷』の方も、実際の事件があったのは播磨の国の姫路です。『西播せいばん怪談実記』と呼ばれる古い書物の最初の物語が、この『番町皿屋敷』と呼ばれる怪談の原形となりました。『西播怪談実記』は西播磨地方の実話怪談を集めた本です。
 ここで基本的なことを書いておきますが、男の幽霊はいません。本来、幽霊と言うのは女性の亡霊の呼び名です。しかも若くて美しい女性に限定された言葉です。男性の場合は単に〈亡霊〉とだけ呼ばれています。
 江戸時代の幽霊に関する笑い話にこんなものがあります。

 地獄でシクシク泣く女がいた。
 鬼が問うと、女は何かを小声でつぶやいた。
 鬼が耳を近づけ問い直すと、急に叫んだ。
「なに、幽霊になりたいだと?」
 鬼は女の顔を見た。すると、静かに言った。
「化け物と願え。化け物と願え」

 幽霊には、真夏に出ると言う誤解もあります。確かに真夏の方が多いですが、『四谷怪談』の原作では雪の中に点々と血の足跡が浮き出ると言った演出があります。
 また、幽霊が人を殺すと言う誤解もあります。幽霊が、たとえば刃物を持って人を殺すことはありません。よく映画などで呪いをかけて人を死に追いやるのは〈怨霊〉と呼ばれる連中です。怨霊は死に際の怨念が化けて出た霊のことです。怨念には必ず対象となる相手がいます。誰もが呪われると言うことはありません。貞子のような不特定多数を呪うような怨霊は稀です。霊的な見方をすると『リング』の貞子は幽霊ではなく、どちらかと言うと〈妖怪〉に近い存在です。そして実は『四谷怪談』のお岩様も幽霊ではありません。こちらも〈怨霊〉に分類されるのです。

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