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祈りのカタログ・第二十八話「九尾の狐のこと」

 祈りは願い事を神々に伝えるものです。しかし、それとは別の特別な祈りがあります。それは狐憑きつねつきを祓うための祈りです。この技法は九尾の狐と共にわが国に伝わりました。この九尾の狐はすでに祓われてしまったので、これ以降は九尾の眷属けんぞくを祓う技法が確立されました。
 九尾の狐と言えばアニメ『ナルト』で知られていますが、元々の物語をご存知ですか?
 少し長くなりますが、このではその物語についてお伝えしたいと思います。

 昔々、後鳥羽院天皇(1180〜1239)の頃のことです。清涼殿と言う所で、お歌合わせの会がありました。その時、突然、激しい大風が吹き荒れ、四十ニ本の灯火ともしびが一度にパッと吹き消え、あたりがにわかに暗らくなったと言います。
 不思儀に思った後鳥羽院天皇は、ただちに陰陽師を呼んで占わせました。
 すると陰陽師は、
「これは変化のものの仕業です」
 と言うのです。
 後鳥羽院は、
「ではただちに祈り、すみやかに祓ってくれ」
 と頼みます。
 陰陽師はうけたまわり、四方に四面のだんを飾り、五色の御幣ごへいを立て祈りはじめました。
 すると、どうでしょう。後鳥羽院の近くにいた玉藻たまもの前と呼ばれる美しい女性が、この祈りを見てたまりかね、御幣を一本つかみ取り、下野しもつけの国の方角へ逃げ出したのでした。
 下野の国・那須野なすのの原へ落ちて行った玉藻の前は、どうやら〈変化〉と呼ばれる化け物のようでした。
「この化け物をそのままにしておいては後に大きな厄が来る」
 と言うことで、上総介かずさのすけと、三浦介みうらのすけと言うふたりの侍が選ばれました。彼らを大将として、化け物を追跡する軍隊が、遠く那須野の原に向かいました。

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