図1

TCC(東京コピーライターズクラブ)の受賞広告がどうスゴいのか語っていく ~新人賞編~

広告業界の人がもてはやしてるけど、何がスゴいのかよくわからない」みたいな広告、世の中にたくさんあるじゃないですか。あるんですよ。

ぼくは広告業界の末端の末端くらいにいる立場の人間ですが、ここ1-2年くらいで広告に対する評価軸がある程度固まってきました。

なので、業界外の皆様なり駆け出し広告人の方々に、業界人が評価する(広告賞を獲る)広告の何がスゴいのかを伝えるくらいのことはできる自信があります。

そんなわけで、4月27日に発表されたTCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞を題材に、広告を作る上での考え方・良し悪しの判断方法について語っていこうと思います。

本文の内容は広告屋のはしくれでしかないぼくの個人的な意見ですので、なんの権威性もないですし、実際に審査をされた方の意図とはズレている可能性も大いにあります。

内容の妥当性については、読み手の皆様が各自判断してください。

コピーライター・TCCについて

ご存知ない方のために基礎的な部分から説明しますと、「コピーライター」とは広告の中の文章やセリフ、ナレーションなどの文案を考える役職で、広告に登場する「ことば」全体に対して責任をもつ立場です。

TCC(東京コピーライターズクラブ)は、コピーライターの団体の1つです。「東京」と名前がついていますが加盟者は日本全域に点在しており、規模・ブランド力とも国内最大の集団でもあります。

コピーライターがTCCに加盟するためには、実務として制作した広告を提出し、一年に一度のTCCの会員による審査会を経て認められ、新人賞を獲得する必要があります。審査対象は国内のすべての広告ではなく、あくまでコピーライター自身がエントリーしたもののみ。ここ注意です。

TCCに入ると、どんなメリットがあるのか。まあぶっちゃけ、(細かいものを除けば)特に何もないです。時代の流れとともに団体の権威性は若干薄れていますし、TCC新人賞を獲らなくても、いいコピーを書いて大金を稼いでいる人はたくさんいます。

でも、「クリエイティブなコピー(広告の中のことば)を書けるというなら、TCC新人賞は獲っておかないと」という業界内の風潮は依然として根強いです。(「クリエイティブ」の意味についてはのちほど)

ちなみに、「優れた広告=コピーが優れた広告」では必ずしもありません。音楽のメロディラインがいいから商品が魅力的に見える広告や、写真が魅力的に見えるから買ってみたくなる広告というのもあります。ですが、TCCはコピーライターの団体なので、広告の中のコピーが優れていないと受賞できません

どういうコピーが評価されるのか

ここでいう「優れている」とは、「売れる」ということではありません。このややこしさが、広告賞が批判されやすい原因でもあると思います。

実は、短期的に売れるコピーというのは、ある程度定型化できるんですよ。「期間限定!今だけ!」を打ち出すとか、「商品を買わなかったときの絶望的な姿を描く」とか、人間心理の隙を突いて商品を買わせる方法論というのは確立されています。

しかし、TCCが目指しているのはそういうコピーではありません。というのも国内外の超大手企業を相手にコピーを考える人たちの集団なので、射幸心をあおるような商品の売り方をしてしまうのはリスキーなんです。「あのときは欲しいと思ったけど、よく考えたらいらなかったな」と思われてしまうのはよくない、ということですね。なので、商品や企業に長期的な愛着を感じてもらえるような、ある種のかわいげがあったり、信念が伴っていたりするようなコピーが評価されます。

また、クリエイティビティも重要です。横文字なので分かりやすい言葉に置き換えると、「新しさ」のことです。皆さん実感されている通り、広告って基本的に面白くないじゃないですか。面白くない広告は人々の興味を喚起できないので、広告としての目的を果たせません。そこで必要になるのが、新しさによる鮮烈な驚きなんですよ。

もちろん、新しければ何でもいいわけではありません。「こういう商品はこういう売り方をするのがセオリー」という商習慣がある中で、それとは違う方向なんだけれど、でも、確かに魅力的だ、という見せ方を模索する。この作業は、定型化できません。じゃあどうやるのかといえば、個人的な実感を掘り下げるんです。

一般論に背を向けて、「自分だったらこういうものを魅力的に感じる」「自分はこれが面白いと思う」というものを追求する。そうすると、「世の中の人はいいと思っていないけど、自分はいいと思っているもの」が発見できます。それが、クリエイティビティのタネになるわけです。「自分だけが面白いと思っていた」みたいなハズレも多いので、地道な作業です。つらいです。

自分の感覚と世の中の感覚のバランスを見極めた先に、見る人に鮮烈な印象を与えるクリエイティブな広告が生み出されるんです。

説明はこんなところで大丈夫でしょうか。それでは、本年度のTCC新人賞受賞22作品の解説を始めていきます。

1.「書いてダメなら、消してみな。」

本年度の最高新人賞

宣伝する商品は、言わずと知れたパイロットコーポレーション製の、摩擦でインクが消えるボールペン「フリクション」です。

「消せるボールペン」として知れ渡ってしまった現在、「書いて消せる」というメリットを広告で伝えたとしても、消費者にとってはすでに知っている情報。買う理由が生み出されていないので、広告としての価値はゼロです。

であればどうするか? アプローチの選択肢はいくつかあるのですが、この広告の場合は
・「書いて消せる」と、それは具体的にどう嬉しいのかを伝える(メリットの解像度を上げる)
・商品に対して心理的な愛着がわくような表現を用いる(情緒的価値)

というやり方を取っています。

「書いて消せる」ということは、「書き間違えてもやり直せる」ということです。新しいものを生み出すためには試行錯誤が必要ですが、そうして悩み、汗をかきながら何かを生み出す人を支える商品こそが、フリクションである、という見せ方なわけです。

題材としてお笑い芸人のネタ帳が使われていますが、これは小説家でも、一般企業の企画職でも、それこそコピーライターでも、とにかくネタをメモる習慣のある職業なら何でもOKです。ただし、一般の人からみて共感性が高く、わかりやすく、動画のビジュアルとして映えるのは、下積み中の若手芸人である、というのは何となく納得できるところではないでしょうか。

あとは「書いてダメなら、消してみな。」の七五調の語感はいいですね。読んでいて気持ちいいし、覚えやすいです。

2.「バイトしたくなるバイトあるある② 最強のメンツがそろったときの高揚感」篇

バイト情報誌タウンワークのアプリ宣伝用動画です。

ゴールは、視聴した人が「バイトしたくなる」こと。そのためにバイトの楽しさを伝えているわけです。

「バイトの人間同士の美しい仲間意識」のようなものを表現する見せ方はいくらでもあるのですが、この動画の優れている点は
・バイト風景をあえて美しく見せすぎないようにしていること
・そのためにリアリティを追求し、臨場感があること

なのではないかなと思います。

演出じゃなくて、本当にありそう。でも、楽しそう」と思わせるバイト風景を発見するのは、そう簡単ではなかったと思います。その着地点が「最強のメンツがそろったときの高揚感」。バイト風景の見せ方としては定番をハズしていて、なのに臨場感があって魅力的。それゆえ人の心に残る。

そういうところが評価されて受賞に至ったのかなぁと思います。

3.「勤続25年の同期へ。」

サントリーの缶コーヒー・BOSSと、東京メトロのタイアップ広告。

缶コーヒーといえば、働く人の頑張りを応援してくれるもの。各社とも、商品の味のこだわりなどの「機能」ではなく、働く人の頑張る姿を描く広告を使って「情緒的価値」の形成を目指しています。多くの人は缶コーヒーの味の違いなんてよくわからないので、当然といえば当然ですね。

この広告は、東京メトロから熊本電気鉄道へと活躍の場を移しながら稼働25周年を迎えた鉄道車両を主役として、同じく勤続25年の鉄道員たちが同窓会をする、という内容のドキュメンタリー。「働く人の頑張りを応援する」というブランド価値からブレていないのが分かりますよね。

素材が少し地味なのでバズりにくく、かなりニッチなところを攻めたなぁという印象はありますが、映像の中身自体は幸せな雰囲気と職業人としての誇りを感じさせる温かい仕上がりになっています。

動画内に登場する「明日も、なにもない日にしよう。」というコピーは、事故を起こさず、安全な日々を繰り返す鉄道員の働き方をエモーショナルに描いたもの。動画の内容を見た後で締めとして見せられると、納得感が強まります。

「なにもない」という、一見ネガティブに見える状況をポジティブに見せることで、ありふれた広告と差別化する逆説型のコピーです。世の中の人が価値がないと思っているものに対して「いや、実は価値があるんじゃないか」と提言すると、新鮮な驚きがあり印象に残りやすい広告になります。

長崎バスの「名もなき一日を走る。」という求人コピーと、コンセプトが少し似ているかもしれません。

4.「けっして我慢をしないように。」

「誕生学協会」という公益社団法人による、デートDVの相談窓口を告知するWeb動画。

教室で友人と昼食の時間を共に過ごす、高校生くらいの女の子。表情は暗く、「食欲がない」と訴えます。そして、突然の嘔吐。回想が流れ、「ゴムつけて」「大丈夫っしょ」というやりとり。

映像と重なるように、女の子のモノローグが流れます。

愛してるって、誰かと言い合うときが来るなんて、思ってもなかった。
初めて言われたとき、恥ずかしくて笑っちゃったけど、私の心の、何かが溶けた。
私たちは愛し合ってる。みんなが羨むくらいに。
けど、赤ちゃんなんて無理だよ。

これは、未来の不幸を描くタイプの広告。不用意なセックスをすれば、望まない妊娠が待っている。そんなことは多くの学生たちが十分に理解しているのだけれど、それでもなお軽はずみな行動に出てしまうのは、そして、それを断れないのは、「その先」を具体的にイメージできないからです。

高校生の女の子が妊娠してしまう、という生々しい映像表現に、幸福が不幸に切り替わる心理をありありと描いたモノローグ。特別なアイデアが用いられているわけではないものの、映像の洗練度が高く、セックスについてもう一度考えさせる表現としては素晴らしいと思います。

ただ、どうなんでしょう。観る人の心の琴線に触れる余地はありそうですが、Web動画であれば拡散される仕組みがないと目的を達成できないのでは、とも感じてしまいます。そういう意味では、描写が深刻すぎるのは考えものかもしれないな、という印象を受けました。実際、YouTube再生回数も1000回強に留まっているわけですし…。とはいえ下手に茶化していい話題ではないので、難しいところですね。

5.「なんでお前が打たない、ってわかったんだろう。」

「部活メイト」という、カロリーメイトが色々な部活を応援するキャンペーンの一部として書かれたコピー。

商品名のメイト(仲間)と引っかけて、部活仲間との絆にフォーカスした内容になっています。

運動に必要な栄養素を効率よく補給できるカロリーメイトは、部活に心血を注ぐ学生たちの味方になり得る商品です。

商品単価はさほど高くないですし、商品の機能的特徴はすでに周知の状態ですので、商品に対する漠然とした愛着度を引き上げれば、購買意欲を底上げできます。コピーの内容は商品価値と関係なくてもOK。「ああ、このブランドは俺たちのことをわかってくれてるな」と思わせることができれば、広告として成功です。

この広告は、さきほどの「バイトしたくなるバイトあるある」と同系統の、リアリティのある風景を切り取るタイプですね。

これも、現場にいる人間の気持ちを本当に理解できていないと書けないコピーです。取材ナシの雑な想像だけで書くと、雰囲気としてはいいことを言っているようで、イマイチ共感できないコピーに仕上がってしまうわけです。

ちなみにこの手の疑問型のコピーは、あえて答えをみなまで言わないことによって、答えを想像する余白が生まれ、エモーショナルな雰囲気を醸し出すことができます。また、読み手が答えを自分の心の中から見つけ出すので、直接的に言われるよりも納得感が強まります。コカ・コーラの「こんなに楽しいのに、なんで切ないんだろう。」の類型ですね。

6.走馬燈ディレクター

トヨタ自動車のAQUAのラジオCM。目的は明確で、「衝突軽減自動ブレーキ」の機能とメリットを伝えることです。

なんですが、多くの人は「安全です」と言われたところで「ふーん」で終わってしまうし、すぐに忘れてしまうわけです。

安全性を謳う車は他にもあるので、その中にも埋もれてしまいます。というか、技術がコモディティ化している中で、この商品だけが競合他社と比べて圧倒的な安全性能を誇るわけではないでしょう。

こういう状況に対して、広告はどうあるべきか。その答えは、印象に残る表現を使って「安全な車=アクア」という第一想起を目指すことです。そのためには、安全性をテーマとした小噺を作るのが有効です。

企画プロセスを想像するなら、まず衝突軽減自動ブレーキの機能から「死なずに助かる」というメリットに至り、死から連想されるものを色々と考えたのでしょう。葬式だったり、お墓だったり、天国だったり。走馬燈も、そのうちの1つだったのだと思います。

そこから先は、フィクション的な妄想力のある方なのでしょうね。「走馬燈は映像なので、その映像を編集している人がいたら面白いんじゃないか」という発想に至り、この企画へと着地したのでしょう。

カロリーメイトゼリーの「時報の女」というラジオCMが「117の時報をリアルタイムにつぶやいている女性」をモチーフにしたものでしたが、その類型だと思います。

7.「英語が話せない男たちだから、グローバル化できた。」

外国に輸出しようなんて考えもしなかった。
日本の自然に敬意を払い、
舌の肥えた日本人のことだけ考えて
酒をつくってきた。
いつしか、本物の「日本酒」が欲しい
と海の向こうの、一流の店から声がかかった。
たった10名の蔵人が、世界進出を決めた瞬間だ。

人が自慢。磯自慢。

「磯自慢」という日本酒の広告のようです。

「海外の一流店から発注を受けるほどのお酒」という切り口で、商品が一級品であることを伝えています。

「英語が話せない男たちだから、グローバル化できた。」というのは、先ほど登場した「明日も、なにもない日にしよう」と同じく逆説型のコピー。「グローバル化するためには英語を学ばないといけない」という常識を否定し、一見矛盾するような事実を伝えているため、お酒に興味がない人に対しても鮮烈な気づきを与えることができます。いいものを作ることを極めれば、海外からも声がかかるだけの力がつく。言われてみれば、その通りですよね、

類型は、「じつは、いちばんお年寄りにやさしいのは、電子書籍です。」(三省堂書店)、「仕事で疲れた日ほど、まっすぐに帰りたくない。」(ゼリア新薬工業)など。

8.おくる福島民報

福島県の地元紙「福島民報」による、新聞を折りたたんで県外の同郷者に送ろう、というキャンペーン。

たしかに、震災から時が経ち元の姿を取り戻しつつある福島の状況は、県外から見ると誤解されがちかもしれない。それに、県外にいる同郷者に対しては、何か連絡を取るきっかけが欲しいかもしれない。

地元紙ならではの、県民のインサイト(潜在的な願い)に丁寧に配慮した企画だと思います。

企画だけでなく、紙面に書かれたコピーも細やかな文章です。表現技巧に優れているというよりも、誠実な気持ちが乗った文章、という印象ですね。

本日の福島民報は、
手紙になります。

今日は、福島県民の日。
県民の心をひとつにして郷土愛を育もう。
そんな願いをこめてつくられた日です。

だけどこの日を、福島県外で迎える県民もいます。
それは、進学や結婚、就職や転勤。
そして震災後の思わぬ事情で、
長年暮らしたこの土地を離れた方々です。

全国ニュースが「震災のフクシマ」ばかりの中、
県として、地元紙として、県外で暮らす県民にも、
福島のリアルな今日を届けてあげたい。

だから私たちは、この新聞を手紙にしようと思いました。
いつも通りの新聞ですが、あなたの手から送ってもらえれば、
きっと故郷を感じるお便りになるはず。

「帰ってきてほしい」でもなく、「忘れないで」でもなく、
ただページをめくる間だけでも、みんなが里帰りできますように。

「おくる福島民報」に、ご協力をお願いします。

9.「きみのことを思ったら、この100冊になりました。」

約束の海で砂の女とはしゃいでみるのはどうだろう。神様のボートで夜のピクニックをしたり、老人と海を眺めたり。

(長いので以下略)

出ました。文章力・チカラ技系コピー

新潮社の文庫書籍を宣伝するための広告です。「約束の海」「砂の女」「神様のボート」「夜のピクニック」「老人と海」など、書籍タイトルを詰め込んで長文を作り上げています。

ターゲットは、すでにある程度本が好きな人? 自分の知っている書籍タイトルを文章から探して楽しむ過程で、知らないけれど興味をひかれるタイトルに出会って読みたくなる、という心の動きを作り出そうとしているのだと思います。

もちろん文章の意味はほぼ破綻してしまっているのですが、少しでもっ文章が自然に見えるように、並べ替え、試行錯誤を重ねたのだと思います。何時間かかったんだろ。

類型は、広辞苑の新収語を並べて文章を作り上げたコピー。

10.「車を動かすのがガソリンなら、人を動かすのは何なんだろう?」

BOSSとNAVITIMEのタイアップ広告ポスター。トラックドライバーを応援するプロジェクトのサイト告知用ポスターのようです。

この広告の目的は、ポスターを経由してサイトに興味をもってもらい、BOSSとNAVITIMEに対する共感性を高めてもらうことで、購買・利用の促進を行うことです。両ブランドとも、購入・利用のハードルが高くなく、かつ競合差別化が難しいため、「味方をしてくれる」という情緒的価値が購買優先度の微妙な差異を生み出してくれます。なので、広告の内容は商品と関係なくてOK。

先ほどの「なんでお前が打たない、ってわかったんだろう。」と同じ、疑問型のコピーですね。エモーショナルな雰囲気を出しつつ、読み手が自分で答えを見つけることによって納得感が強まる、というのはすでに説明した通りです。

答えは何なんでしょう? プライド? 笑顔? 気合い? 読んだ人がそれぞれの答えを見つけて納得するタイプの広告なんでしょうか。(正直この広告についてはいまいち趣旨がわからず…すみません)

11.「#はじメル」

フリマアプリのメルカリが2019年のお正月に流したテレビCM。

「#はじメル」はメルカリのブランド名とひっかけたダジャレですね。

こういうダジャレって、一見本質的でない表現に逃げているように見えてしまいますが、じつはけっこう重要だったりします。というのは、世の中にたくさんの商品がある中で「あの素敵な広告、何の広告だったっけ?」と思われてしまう状態を回避できるから。「はじメル」という言葉を覚えてもらえば、そこからメルカリが連想されますよね。まあ、いい広告を作ることを放棄してダジャレに固執するとそれはそれで失敗するんですが…。

おそらく、「#はじメル」単体ではなくCM内のセリフも含めて評価された作品だと思うので、その内容を引用しておきます。

新しい年。
新しいことを始めるチャンス。
でも人は弱い。
だからメルカリは、三日坊主を応援します。
とりあえず始める。
気軽に始める。
お得に始める。
続かなきゃ売れる。
三日坊主でもいいじゃない、やらないよりさ。

色々と芸が細かい広告なので本気で語ると長くなるのですが、要点だけ。

まずこれ、これまでに何度か紹介している逆説型のコピーです。本来はネガティブな意味である三日坊主が、実は「アリ」なんじゃないか、と提言しています。

その理由付けが「お得に始める」「続かなきゃ売れる」と、商品価値に着地できているのも巧い。メルカリでできること、というのはすでに国内の多くの人に知られている現状で、それでもなんとなく使っていないという人たちに対して、「フリマアプリのメルカリ」ではなく「新しいことを気軽に始めるためのメルカリ」という新しい切り口での宣伝を行っています。これもメリットの解像度を上げるタイプの広告ですね。

最後にひとつ。「でも人は弱い」。ここもいい感じです。世の中の多くの人は、がんばりたいけどついついだらけてしまう人です。そんな人に、ありのままの自分を受け入れていいんだよ、と肯定してあげる。そういうブランドには、図らずも好感を抱いてしまうものです。こういう弱者肯定型のコピーは諸刃の剣で、肯定する根拠に説得力がないと炎上の火種になったりもするのですが、この広告はきちんと根拠をもって、しかも商品を利用すべき理由を根拠として主張しています。

その他、広告を設計するにあたって、普通は何かを得るために何かを犠牲にするものなんですが、この広告はうまくピースがハマって非常に完成度が高くなっているように思います。

すごい。

12.「景気ってのはな、気合いであげるもんだ。」

日清カップヌードルのCM。なんというかまあ、日清食品らしい広告です。

日清食品の広告は、商品の説明はほぼ捨てて面白さに振り切るスタイルを持っています。最近バズったVtuber「輝夜 月(かぐや るな)」を起用したカップ焼きそばU.F.O.のCMなんかもそうですよね。

なぜ日清食品がこんな意味不明な広告ばかり打っているかといえば、ヤケになっているわけでは全くなく、先ほど挙げたBOSSやNAVITIMEのように、競合商品との差別化が難しく、購買ハードルが低い商品だからです。商品スペックを伝えたところで、消費者はいまいちピンとこない。だったら、「なんかよく分からないけど好き」と思ってもらったほうが購買に繋がりやすいんです。

これが逆に、たとえば「青森県に旅行に行こう」がゴールだったりすると、「なぜ行くべきなのか」をそれなりにちゃんと説明してあげないといけないの、わかりますよね。

この「景気ってのはな、気合いであげるもんだ。」のCMも、日清食品節をぶっ飛ばしてますね。政治について語っているけど、完全に茶化してる。からの、「ヤバい。なんか熱い。」! これ、完全に狙ってやってますね…。

カップヌードルはハイカロリーなエネルギーの象徴としてのブランド価値があったりするので、そのエネルギー感を表現してる? そこから表現への飛躍が大きすぎて、どういう思考プロセスでこの企画が生まれたのかは完全に不明です。が、とにかく「なんかよく分からないけど好き」という感想を生み出すだけのインパクトとユーモアがある。

ちなみに、社会問題を茶化しているので炎上の火種にもなりそうなものですが、じつは政策・政治家いじりというのは炎上しにくい。多くの人が漠然と不満を抱えているし、暗黙的に攻撃のマトにしやすい対象なので、誰しもなんとなく容認してしまうんでしょうね。

13.「このわずか数センチを、DNPは大きな革新と見ます。」

2020年東京オリンピック・パラリンピックのオフィシャルパートナー企業・DNP(大日本印刷)による広告ポスター。

「三段跳 女子 12年間で6cm更新」「砲丸投 男子 28年間で5cm更新」など、オリンピックの「わずか数センチ」の記録更新を取り上げた広告です。

この広告の優れている点のひとつは、「気になるポスターである」ということ。広告スペースにきれいに装飾された写真やイラストを使ったポスターが立ち並ぶ中、余白の大きい紙面に謎の縦棒の群れとその下に添えられた小さな文字。つい近寄って見てみたくなります。実寸を表現できるという、ポスターの媒体特性を活かした広告でもあります。

その下に添えられているのは、こんなコピー。

そのほとんどがわずか数センチ。
しかし私たちDNPは、ここに「革新」を見ます。
挑戦し続け、革新を起こすことでしか、新しい記録は出せないからです。
技術も同じです。
世界を驚かせるような革新は、一歩一歩着実に研究を進める中でしか生まれません。
そう信じて、DNPはもう、全速力の助走を始めています。
東京2020オリンピック・パラリンピックへ。
その先へ。

オリンピックの記録更新と同様に、DNPが一歩一歩前進しながら地道な研究開発を進めていることを伝える内容。

タイアップする各団体の共通項を見つけ出し、そこを基軸に価値を伝えるというスタイルは、先ほどのサントリー・BOSSと東京メトロのタイアップ広告「勤続25年の同期へ。」と通じるところがあるかもしれません。

ただ、惜しむらくは「DNP」という企業のイメージが残らないことでしょうか。細かな技術革新を繰り返している企業は世の中に多数あるわけで、仮にこの広告が心に刻まれた人がいたとしても、企業名とセットで思い出してもらえる可能性は高くなさそうだ、という印象があります。

「わずか数センチ」が「大きな革新」であると伝えているので、さほど鮮烈な印象はないものの逆説型のコピーでもありますね。

14.「読み聞かせ。寝たら、成功。寝なかったら、大成功。」

マクドナルドのハッピーセットのおまけで絵本がついてくる。その宣伝ポスターです。

このコピーはベネフィット型。絵本があることによって生まれる幸せな親子生活を想像させることで、絵本がもらえるならハッピーセットを買いにいこう、と思ってもらうことが目的です。

とはいえ、絵本がある幸せな風景を表現する言葉なんて、普通に考えていても、しょうもないものしか生まれてこないわけですよ。「次のページをめくるときの、君の輝く瞳。」とか「同じ本を見つめるしあわせ。」とか…。

この状況を打破する方法って、絵本を読む親の気持ちを精度高く想像しながら、とにかく多角的に表現を考えるしかないんですよね。その中で最終的に行きついた

「読み聞かせ。寝たら、成功。寝なかったら、大成功。」

というコピー。どうでしょう。初めて聞く言葉なのに、子供がいる人もそうでない人も、「ああ、なんか分かるわ」と思ってしまいますよね。それでいて、幸せな読後感。言葉だけで、楽しそうな風景が目に浮かんできます。

表現技巧としては、文章を区切ることで「オチ」を生み出していますね。「読み聞かせ。寝ても寝なくても、大成功。」だとしても言っていることはほぼ同じなわけですが、「寝たら、成功。」で一度区切ったあとにさらに盛り上がる一文を添えることで、納得感が二重の波になって押し寄せるつくりになっています。

15.「内定式には自由な髪型で、と書いてますが、どれくらい自由ですか?」

P&Gの女性用シャンプー「パンテーン」のポスター。

これもBOSSやカップヌードルと同様、商品スペックでの差別化が難しい商品なので、情緒的価値によって商品の魅力を引き上げるタイプの広告ですね。「女性の髪の味方」というポジションを狙っているようです。

いわゆる意見広告。メルカリの「三日坊主」があらゆる人を肯定する広告であったのに対し、こちらは女性の味方をするために企業の商習慣を否定する広告です。

提案したのは、広告主か、広告代理店か、どちらでしょうか。いずれにせよ、敵を作るタイプの広告なので、担当者の方は関係者の説得に苦心されたことと思います。

とはいえこの広告、炎上しにくいと思います。ベンチャー企業を基軸として服装や髪型の規制が取り払われつつあり、大企業であっても「見た目の個性を制限するなんておかしいよね」という空気が醸成されつつある社会的な流れ読み取っているからです。

強いて言うなら年配の男性からは嫌われる可能性もありますが、彼らは購買層ではないので、彼らを敵に回してでも若い女性の味方をしたほうが(やや語弊がありますが)メリットが大きいです。

同系統のコピーとしては、ゴディバの「日本は、義理チョコをやめよう」も印象的でしたね。

16.「いま、テレビの現場から。」

東海テレビの自社CM。

この記事で紹介している中で、いちばん心に突き刺さる広告はこれだと思います。(もちろん色々な評価軸があるので、それが全ての広告にとって理想的とは言いませんが)

東海テレビのCMシリーズは広告として明らかに異質で、目を背けたくなるような事実をまざまざと見せつけ、視聴者に複雑な気分と問題意識を残します。

数が多いので動画を張り付けることは控えますが、興味のある方は下記リンクをご覧ください。

戦争、震災、交通事故、同性愛、環境汚染などの深刻なテーマを取り扱ってきたこのCMシリーズですが、今回扱うのはテレビ局の現場。ストレートです。

テレビ局を魅力的に見せようという意図は一切なく、終始ドロドロした現実を見せつけてきます。テレビ局の報道に対する一般人のイメージ、トラブルに追われ騒然とする現場風景、記者の葛藤…。心がチクチクする映像ばかりを見せつけた上で、「それでも、伝えつづける。」「届かない声を、届ける力がある。」と締めくくります。

なぜ、こんな異端な表現を使うかといえば、東海テレビが報道に対して迷い、考えながら向き合っていることをストレートに伝えるのが、東海テレビと視聴者とが理解しあい、信頼関係を築くための最適なルートだからです。外面としてニコニコせず、裸を見せつけてくるブランドのことを、むしろ嫌いにはなれないんじゃないでしょうか。

17.「大人の、字を書こう。」

再生時間 0:44 - 1:06

パイロットコーポレーションによる、ペン習字通信講座のラジオCM。

多くの人はペン習字を習うことに対して実益を感じていないので、ペン習字が上達することのメリットを伝えたり、逆にペン習字が下手なまま放置することのデメリットを伝えることで受講を検討してもらうことができるわけです。

課題は、ラジオCMなんて基本的に誰も耳を傾けていないということ。広告は、常に消費者の無関心との一騎打ちです。

そこに対する解決策は、ラジオCMの媒体特性である「音しか伝えられない」という特徴を活かしたエンタメを提供すること。

字の巧拙を、たどたどしい子供のしゃべり方で表現することによって、「肩書はすごいのに文字が子供レベルだとダサいですよね」ということを、嫌味に聞こえない形で表現しています。

ただ、納得感は薄いかなぁという印象もあります。たしかに印象に残るCMではあるのですが、これを聴いてペン習字を始めたくなるか、と問われると若干怪しそうです。

このCMのようにラジオの音の特性を活かした広告事例は沢山あるのですが、まじめに紹介すると超特大ボリュームになるので、またの機会に。

18.「息は気にならないよね なりません」

こういう商品メリットの定番表現は、笑顔の女性が吐く息に緑色の演出を加えて、息が爽やかであることを視覚的に伝えたり、周囲の人がつられて笑顔になる様子を映したり、という感じでしょうか。

表現が定番であるということは、他の広告に埋もれて誰の心にも残らないということでもあります。なので広告屋は、表現として定番でないけれど、商品のことは魅力的に見せられる、という見せ方を模索するわけです。

このCMの異質さ、分かりますか。キレイな女性を起用する、というのはセオリー通りであるものの、至近距離で向かい合った2人の女性が笑顔もなく淡々と話すだけ、という構成。

話す内容は「息がキレイになれば至近距離で息をしても大丈夫」という、ストレートなメリットの伝達なのですが、「ため息の理由」という商品と無関係な話題を介することで、「宣伝臭さ」をほどよく打ち消しています。

このシュールな世界観。同シリーズの他のCMは、下記リンクからご覧になれます。

19.「お茶は、揉まれて傷がついて、ええ味が出るんですって。」

サントリーのペットボトル緑茶・伊右衛門のテレビCM。草なぎ剛がタイムスリップして、おなじみの伊右衛門の茶屋を訪れる内容。

伊右衛門も、一般消費者から見て競合他社と味の違いの区別がつきにくいため、情緒的価値を広告で押すべきタイプの商品です。

ロングセラー商品であるがゆえに、鮮烈な印象を与える広告が作りづらいことろですが、このCMの切り口は「お茶と人生の類似性」です。

CM中に流れるのは草なぎ剛と宮沢りえの以下のやりとり。

草なぎ
「大変ですよね、生きるって。傷つけたり、傷ついたり」

宮沢
「お茶は、揉まれて、傷がついて、ええ味が出るんですって」

「茶葉は傷つくことで味が出る」という商品に関連する事実を、人生と重ねて表現することによって、エモーショナルな印象を与えようとしているわけです。製造工程に関する話でもあるため、「作り手のこだわり」を感じさせるニュアンスもありますね。

個人的な感想としては「やや強引な理屈付けかな」という印象もあるのですが、どうなんでしょうか。人生に疲れかけている人は、CMに好感を抱いてくれるのかもしれません。

20.「また野球部たちが『サボりてえ』って言ってる。サボらないくせに。」

大塚製薬・ポカリスエットの新聞広告。

先ほど登場したカロリーメイトと同じく、「部活動に心血を注ぐ学生の味方」というポジショニングを狙うタイプのコピーです。

何度もしつこいようですが、こういう購買ハードルが低く、かつ商品の機能的特徴が知れ渡っている商品の場合は、コピーの内容が商品価値に直接結びついていなくてもOK。「ああ、このブランドは俺たちのことをわかってくれてるな」と思わせることができれば、広告として成功です(2回目)。

これまでに挙げた広告でいえば、バイトしたくなるバイトあるある、「なんでお前が打たない、ってわかったんだろう。」、「読み聞かせ。寝たら、成功。寝なかったら、大成功。」に近い、日常のちょっとした風景を「じつは魅力的なもの」として紹介するタイプのコピーです。

このコピーもなんというかまあ、分かりますよね。たしかに、体育会系の部活生は「サボりたい」と言いつつメチャクチャに頑張る。その努力を応援するのがポカリスエットである、という見せ方です。

女の子の視点を介して伝えることで、皮肉めいた冗談っぽいニュアンスが生まれて気楽に眺められる広告になっています。野球部員本人の視点で「サボりたい。でも、サボらない。」と書いてあると、マジメすぎて一歩引いて見ちゃいますもんね。

21.「木曜と思ってたら金曜じゃん!の表情 いい表情で、いきましょう。」

資生堂の動画広告。YouTubeの再生開始前に6秒だけ流れるスキップできない広告「バンパー広告」の作品です。

「ベネフィーク レチノリフトジーニアス」という化粧品の広告のようですが、商品の機能説明はゼロ。「資生堂表情劇場」という広告シリーズで、ひたすら働く女性のふとした瞬間の表情を映し出しています。

商品特性が分かりにくいため、「色々な表情を楽しめる」という情緒的価値をブランドと結びつけ、ターゲットである「働く女性」の共感を得ようとしているのかな、と思います。

これも、日常のありふれた風景を魅力的なものとしてピックアップするタイプの広告ですね。「あるあるネタとしてはあまり聞かない。けど、なんか分かる」というのが理想形で、鮮烈な驚きがありつつブランドに対する好感が形成されていきます。

そういう意味では、「木曜と思ってたら金曜じゃん!の表情」「その話は3度目だが初めて聞きましたの表情」などは、打線がいいコースを描いているのではないでしょうか。

この手の「風景」を見つけるには、自分自身の仕事中に生まれる表情・感情を意識的に観察する中で、「もしかしたらこれは新しいあるあるネタになるんじゃないか」というものを注意深く探す必要があります。

22.「悪意ある言葉が、人の心を傷つけている。」

ACジャパンによる啓発CM。目的は、SNSでの誹謗中傷に対して反省の意識を向けさせることです。

「誹謗中傷は悪いことだ」なんてことは誰しも分かりきっているので、これをそのまま伝えても広告の目的は果たされません。中傷された側の苦悩を描き出すことで同情を誘う、という手法も、やり尽くされている感がありますね。見慣れたものは人の心と行動を変えることができません

そこでこのCMでは鮮烈な印象を与えるために「昔話」を使って誹謗中傷を表現しました。

桃太郎をはじめとする昔話は、日本人が共通して知っているものなので、趣旨が伝わらないリスクが低く、パロディのネタ元として広告によく利用されます。昔の要素と現代の要素を掛け合わせることでギャップを生み面白さに繋げる、というのもよくある手法ですね。

「誹謗中傷によって昔話が筋書き通りに進まない」という設定は、意外にも面白い仕上がりに着地しているなぁという印象です。

表現がコミカルなので心に強い印象を残すものにはなっていないのですが、おもしろがって拡散してくれる人は多そうです。「けっして我慢をしないように。」の項目でも説明しましたが、このあたりはバランスが難しいところです。

総括

いかがだったでしょう。なんとなく、広告制作者が考えていることがピンとくるようになってきたんじゃないでしょうか。

この記事をきっかけに、広告に対する興味を持っていただけたり、広告屋と仲良くなってみたいと思ってくださる方がいれば幸いです。

重ねて申し上げますが、この記事の内容は個人的な意見です。なんの権威性もないですし、実際に審査をされた方の意図とはズレている可能性も大いにあります。内容の妥当性については、読み手の皆様が各自判断してください。

需要がありそうなら、TCC賞(新人賞ではなく、ベテランが応募する賞)についても解説記事を書こうと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

アドライター(@ad__writer

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

トクン!
71
たいしたものです。

この記事が入っているマガジン

コメント3件

おもしろかったです。ただ、個人的に思うのはここにあった22のコピー、ホントに費用対効果を考えて結果を出したコピーはどのくらいあるんでしょうか?やはり広告主は売りに直結したコピーを評価して欲しいし、知りたい。本音の批評も聞いてみたいと思いました!
コメントありがとうございます。

ややオブラートに包んでいる部分はありますが、基本的に本音でいいところはいい、怪しいところは怪しい、とそのまま書いています。

具体的な広告効果はぼくでは把握できないですね。作品応募にあたって広告の効果を添えて評価軸に加えてもらうことはできるそうですが、その情報は一般に開示されません。

ただ、基本的に費用対効果での判断は審査にあまり加味されず、「斬新なものを生み出す能力的なポテンシャル」によって評価されるようです。
とても為になる記事でした!有難うございます。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。