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『天元突破グレンラガン』とライフサイクル 成人期編

前回、このアニメの1部が青年期を描いていることを説明しました。しかし、実は4部構成だったようです。1部だと思っていたのは、1部と2部で、第2部だと思っていたのが3部と4部だったようです…。大変失礼いたしました。

気を取り直しまして、その後の成人期、壮年期のテーマについてどのように描かれているか語りたいと思います。が、その前に、どうしてこのアニメを語りたかったのか説明します。当時まで成人期・壮年期のテーマとして扱っていたアニメを見たことがこれまでなかったのと、自分の関心ごとである「大人ってなんだろう?」という疑問がこのアニメに集約されていたので、私にとって語りたいアニメになったのです。

それではここから、成人期以降の精神発達を説明して、アニメではどのように描かれていたのかを語りたいと思います。

<成人期の精神発達と親密性>

成人期:20歳~40歳頃 親密性 対 孤立
このアニメでは、このテーマは主人公のものとしてはあまり扱われていません。自分が読み取れなかっただけかもしれませんが。

親密性の問題は、性的パートナーとの問題として語られることが多いのですが、実はそれに限らず、仕事やプライベートにおける集団のメンバーとの関係性としても扱われるテーマであります。しかし、ライフサイクルで語る場合には性愛で説明するのがわかりやすいため、そのイメージがついているようです。

そして、成人期の課題である「親密性」の問題は、自他の承認欲求の問題と密接に関わっています。性愛から考えるとわかりやすいので、やはり性愛を使って説明します。

恋愛には、「求める」側面と「受け入れる」側面があります。それはどちらか片方が一方的に役割が固定するものではありません。「あの子を自分のものにしたい」という欲求があったとしても、相手に受け入れてもらえなければどうにもなりません。受け入れてもらうために、自分の欲求を押し殺して「相手のために何でもしたい」と献身的な自己犠牲を発揮することもあるでしょう。しかし、そのために、自分の欲求は二の次にしたり、隠したり、捨てたりしなければなりません。

自分の欲求と相手の欲求のバランスをとること、両立させるような視座の獲得が求められるのが、成人期の課題なのです。得るべき感覚のひとつに、「自己犠牲的な行動や気持ちになったとしても、自分が消えないでいられること」を体験をすることが重要であったりします。これによって、相手のための行動が自分の喜びとして感じられるようになるからです。もちろん、この時期以前にどのように生きてきたのかも影響するのですが。

この感覚が得られないと、誰かと一緒にいても寂しかったり孤独を感じたりしてしまいます。真に他者とつながるということは、お互いの目的のために自己犠牲をいとわないでいられる相互的な関係であることが示唆されていますね。

先述したように、これは性愛だけでなく、仕事上の関係や友人関係など他の社会的関係でも同じことが言えます。その集団どの程度心の距離を求められているかにもよりますが、性愛のみが親密性を達成させるというような類の問題ではありません。

<作中で表現される親密性の危機>

このアニメの中では、シモンと大グレン団や個々の成員との関係、ニア(ヒロイン)との関係で現れていると思います。シモンを中心とした親密性が大きな危機、テーマとして描かれていることは少ないように感じます。

このアニメの中で仲間との関係性がテーマになっているのは、シモンではなく、参謀として活躍していたロシウが抱えていた問題がまさに親密性と孤立の課題だったと解釈しています。

ロシウは大グレン団の中では、数少ない理知的で冷静沈着な言動をするキャラクターなのですが、イケイケで深く考えない他のメンバーにとっては貴重な頭脳派な対応をしていました。

ロージェノムを倒した後、グレン団は新政府を立ち上げ運営します。ロシウの総司令補佐官として総司令であるシモンを支える役割を担っていました。理知的で慎重派な性格をしている彼なので、ロージェノムが倒れる際に残した「人口が増えすぎると月から敵に襲撃される」という予言に備えて、人口管理や軍備防衛にひとりで奔走し、その役割を果たそうとします。なぜなら、何度衝突しても大グレン団の仲間たちは誰もロシウの心配に耳を貸そうとしなかったこと、そしてロシウも説得することを諦めていたから。

ロシウは専門機関を作り、対策にあたっていました。そしてロージェノムを蘇生させ、予言の真意を聞き出そうとします。そこで月衝突という最悪のシナリオを聞かされます。そんな中、敵による月衝突のメッセージが市民に知れ渡ってしまい、混乱を収めるために、ロシウはクーデターを起こし、シモンに責任をとらせ死刑判決を言い渡します。もちろん、ロシウの本心ではなかったので、自己嫌悪と後悔の念に苛まれます。

それでも月衝突から市民を守ろうと、宇宙船に市民を避難させようとしますが、敵の策略に踊らされており、敵の大群に包囲されてしまいます。絶体絶命の危機に瀕していたところを救ってくれたのが、シモンや大グレン団の仲間たちでした。

ロシウは自身の失策で人類を絶滅の危機に陥れた責任感と、シモンに死刑判決を下して取返しのつかない状況にしてしまうところだった後悔から拳銃自殺を図ろうとします。それを止めたのはシモンと秘書のキノンでした。シモンはこれまでロシウがたったひとりで、ひとりでも多くの命を守ろうとしていた苦しさを理解しながらも、ひとりで抱え込んだことを諭した。そして、キノンはロシウがしてきたことをずっと理解して側にいた、理解してくれる仲間がいたことを気づかせたんですね。立ち直ったロシウは、新たな自分の役割を見つけ、彼なりの方法で世界を守る決意をします。

第3部はこんな感じでした。

説明するまでも無いかもしれませんが、ロシウの孤立が3部の大きなテーマでした。アニメの設定を人間ドラマの部分だけで、大きく切り分けてコンパクトにすると「仲間と分かり合えない、分かり合おうとしないこと」が人類存亡というこれだけ大きな問題に発展してしまったという話なんですね。

雨降って地固まるとはよく言ったもので、抱えていた問題が顕在化して始めて注目され、多くの人に理解されるのです。人類存亡の危機というめちゃくちゃでかい問題ではあったのですが、このことによってロシウが抱えていた重責感がシモンに理解されて初めて、ロシウも意固地になって歩み寄ることができていなかったと気づくのです。

衝突や接触を避けていては親密性と孤立の問題は解決できないのです。一方的な理解は割とできるのですが、相互的な理解となるとかなり難しいのです。それは、自分にも相手にも、他社を受け入れる度量がある程度必要とされるからです。

自分本位になり過ぎても孤立してしまいますし、相手を優先しすぎていても、本当の気持ちは受け入れてもらえてるか分からず、近くにいるのに寂しいといった具合に孤独感を味わうことになるからです。ぶつかって、相手を傷つけるかもしれないし、自分も傷つくかもしれない。けれど、そこを避け続けてしまうと、ずっと孤独感を抱いたままになってしまうのです。

ちなみに、ロシウが一人で奔走してるあたりの話は、社会批判的な意味合いも含まれていたんじゃないかと思います。「持続可能な社会」という言葉は最近出始めた言葉ですが、問題意識はずっと昔からありました。資源が枯渇して住めない星になるから目先の利益ばかり優先しないで!みたいな。今でいうグレタさんみたいな主張とか。最近では経済活動をとりあえず止めないとコロナの蔓延で医療崩壊してしまうよ!みたいなこととか。

経済活動も人の命に関わることなので非常に重要ではあるんですけどね。


<青年期の補足:男子のボーイミーツガール>

第2部でシモンはニアという少女に出会います。ロージェノムの娘であったのですが、「感情」を持っていることがわかり、捨てられてしまいます。親子の関係を今風に置き換えると、こんな感じでしょうか。

完璧主義で子供を管理したがる親が、今までうまくコントロールできていたと思っていたが、ある時、子供が自分の意志で動くことに気付いてしまい、自分にとって失敗作で必要のない子供と見なし、関心を向けなくなったり、冷たく接するようになった。みたいなとこでしょう。

親に見捨てられて、それでも卑屈にならず非常に主体的に行動のできるキャラクターです。また、自分を見つけて拾って助けてくれたシモンに対する信頼が厚く、揺らぎません。シモンはカミナを失いましたが、ニアと出会って彼女のために行動するようになります。行動の原動力がカミナからニアに移行したとみることもできます。

まあしかし、可愛い女の子が、自分を慕ってくれて、どんな状況でも自分を信じてくれるんですよ。男の子からしたら勇気も出るし、無い袖だって振るし、背伸びしたくなるでしょう。

ボーイミーツガールの重要な要素、つまり男の子の成長に与える影響は、とにかく行動を喚起させることなんだと思います。「自信がなくて動けないよ」って言ってても、可愛い女の子に気に入られたくて、背伸びして、カッコつけようと行動します。その子に注目されたり、自分のことを頼ってきたり、ちょっと信じてくれるだけで、行動する勇気が湧いてきます。実績のない根拠のない、借り物の自信ではあるのですが、行動を起こすのに劇的な効果をもたらします。

思春期の男の子にとって女の子の力は偉大なのです。


実はこの親密性の話は、平成史で書ききれなかったっことを改めて書いているという側面もあります。割と書けたと思っているので、ここまでお付き合いしてくれた方、ありがとうございました。

壮年期は描き切れなかったので、また次回にまわしたいと思います。

次回もよかったら見に来てください。ではまた。


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