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『呪術廻戦』で扱っている【呪い】について 呪いである意味と社会的テーマ

世間に大きく遅れをとりながら『呪術廻戦』のアニメを見ました。僕なりに呪術を魔法の観点から考えたいと思います。

呪術廻戦は超能力や魔法ではなく、あえて「呪い」を扱っているところが特徴的です。普通は目に見えないエネルギーを描く際に、魔法や超能力はよく使われているのですが、敢えて呪いを扱ったことでこの作品にどのような効果が得られたのでしょうか。

以前、ディズニー作品から魔法について考えた事を書いた際に呪いについても少し考え、触れた部分があります。

逆に呪いは『魔法』の中でも主人公に困難を与える受難の象徴であると言っていいかもしれません。それは、親から受けついだ負の遺産であったり、本人が負った借金かもしれません。血縁に脈々と受け継がれてきた世間の目かもしれません。


呪術廻戦について公式の紹介文を参照してみましょう。

少年は戦う――「正しい死」を求めて 辛酸・後悔・恥辱 人間が生む負の感情は呪いと化し日常に潜む 呪いは世に蔓延る禍源であり、最悪の場合、人間を死へと導く そして、呪いは呪いでしか祓えない 驚異的な身体能力を持つ、少年・虎杖悠仁はごく普通の高校生活を送っていたが、 ある日“呪い”に襲われた学友を救うため、特級呪物“両面宿儺の指”を喰らい、己の魂に呪いを宿してしまう 呪いである“両面宿儺”と肉体を共有することとなった虎杖は、 最強の呪術師である五条 悟の案内で、対呪い専門機関である「東京都立呪術高等専門学校」へと編入することになり..... 呪いを祓うべく呪いを宿した少年の後戻りのできない、壮絶な物語が廻りだす― 

呪術廻戦 公式サイトより

呪いには上記した魔法の解釈に、不気味さや怖さなどの雰囲気が足されています。負の感情をエネルギーとして不思議な技が使えるようになると説明しています。(私は広義の魔法と考えて扱います)
負の感情とは上記の辛酸、恥辱、後悔の他にも悲しみ、怒り、憎しみ、恨み、辛み、妬み、嫉み、など他にもあるでしょう。
こうした負の感情をエネルギーとして扱い、違う形に変換して別の目的に使うのです。

負の感情について考えた時に、心の闇という言葉が浮かびました。日本では、20世紀末から心の闇に世間の関心が集まりました。自分もその中の1人ではあるのですが、世の中ではハッキリとした答えや解決策が示されない中でも、メンヘラ、病みという言葉が出来上がるなど現代を象徴するカルチャーの一つのカテゴリとして扱われたりしてきました。

小説やアニメ、ゲームや漫画など様々な物語の中で試行錯誤が繰り返し行われ、蓄積されてきました。問題を抱えた主人公や登場人物が、時には負の感情に飲み込まれたり、なんとか抗って強がったり、助けを求めたり、自分で乗り越えようとしたり、物語の中でも様々な解決手段や、答えを出そうとしてたのを僕もいち読者、視聴者として見てきました。

その流れの中で、負の感情や闇の部分は、取り払われるべきもの、解決されるべきものという扱いがされてきましたが、徐々に自分の一部として肯定して利用するものであるという流れになってきたのを見てきました。

そう考えると、自分の身を傷つけたり滅ぼしたりするリスクを負いながらも、負の感情から発するエネルギーを利用するという「呪い」の扱い方は自然な事なのかなと理解をしてきました。

さて。呪術廻戦を見ていた時に、疑問に思った事があります。なんでこんなに日本人って呪いとか霊とか妖怪とか好きなんだろうなって。


日本人って妖怪とか呪いとか好きですよね

まず自分の立場として、幽霊や妖怪について、実際には存在し無いものと仮定して生きています。心理学的に考えるうちに、幽霊や妖怪とは恐怖という感情が投影された表象であるという見方が僕の中で使われています。静けさや不気味さ、死の恐怖、誰かに襲われるかもしれない被害的恐怖感、後ろめたさなどから来ている感情にイメージや形が与えられたもので、それを知覚していると錯覚した現象であると説明することができます。

そして、イメージを生み出した結果、イメージは自分の内的なものではなく、知覚できる「存在しているもの」として対象化されます。具体化されたことで、心の中の混沌とした全く訳の分からないモノではなくなり、対処可能性が生まれた存在として認識し、不安を低減させることに役立つのです。

しかし、場合によっては逆に表象化することで、イメージを想起させやすくなり、反対に恐怖を増幅させることもあります。

※ちなみに、これは恐怖で他者をコントロールする際に使われます。親が子供にしつけをする際に「〇〇しないとオバケが出るよ」などと言って子ども恐怖感を想起させ、自律的な行動を促し従わせるのに使われたりしてきました。

死霊と呪い

死者の魂があると認識することや、呪いを受けたと感じることが、私たちにどのような影響を与えるのでしょうか。

先述しましたが、呪いとは、負の感情をエネルギーとした魔法のようなものとして扱われています。その元となっている感情は、怒り、悲しみ、憎しみ、恨み、辛み、嫉み、などです。負の感情を自分自身が感じているときや、他者から向けられていると感じた時に私たちはどのような状態になるかを考えてもらえれば、案外簡単に想像できるとおもいます。僕はそれが呪いの正体であると考えています。

死霊も似たようなものだと思っています。
死者が生きていた頃に、どのような感情を抱いて生きていたのか、死に際にどのような思いを抱いていたのか、感情とその理由を知ると、自分の中に起こる感情があります。

そうした変化を起こさせるため、何か対象が存在しているかのような錯覚を起こしてしまいます。

呪いも死霊も基本的には自分の中に起こる感情がベースで、それが投影されたものを知覚するという事が私たちにそれらを感じさせるのです。

信仰や宗教に流れるテーマのリメイク

呪いの元ネタとなっているのは、神道や陰陽道、密教、キリスト教など宗教や土着の信仰で、呪いや奇跡など信仰に纏わる超常現象への希求と憧れがかたちとなったものだと私は解釈しています。

形作られた発端は個々人のイメージだと思いますが、それらが共有され体系化して考えられてきた事である種の常識に昇華されてきた事は自然なことだと思います。

宗教は世界の成り立ちを説明する物語や、世の中の現象を説明しています。そして、登場人物の良い側面、悪い側面を切り取って教義にしたり、禁忌にしたり戒め訓律にしてきました。

死生観は、多くの宗教にとっての最大公約数と言っても良いのではないかと思います。死後の世界を設けることで、死への恐怖を緩和させたり、現生の耐え難い苦しみを少しでも耐えられるようにしたりという効果がありました。

また、行動に優劣をつけ、より道徳的な行動が肯定されるよう体系化されています。宗教的道徳感を取り入れる事で、治安が良くなります。
ただ、教義に乗れない人もいたり、神経質に教義を押し付けてくる人もいます。これは今も昔もたぶん一緒で、コロナ禍におけるマスク警察や、暗黒時代のような社会がそれに当たると思います。このような社会はあまり幸せでははいと思います。余談ですが。

同じならそのままキリスト教や宗教を使えば良いのではないか。なぜリメイクが必要なのでしょうか?

それは単に現代チューニングをしないと納得できないものがあるからではないでしょうか。共感を得るための説得力に宗教の教義だけでは弱いからではないでしょうか。

特に日本では95年のオウム真理教事件から宗教に対するアレルギー反応が強くなりました。2001年のニューヨークの同時多発テロ事件からアフガニスタン戦争から加熱したイスラム教の過激派組織の自爆テロなどのニュースに対しても、これだから宗教は危ないといった見方をしていた人が多数を占めていた印象がありました。
こうした偏見はその背後にある歴史的な知識が無かったり、宗教に対する知識が足りないために印象でモノを考えているためではあるのですが...。

一方で、最近見ているコンテンツの傾向を見るますと、普遍的な正義やイデオロギーを説くよりも、個々人の立場から敵味方が生まれ、それぞれの立場によって正義と悪が入れ変わるといった見方が主流になっている印象です。

立場の多様性、複雑化している世の中では、強い教義や大義名分で視聴者を牽引するには不十分さがあるため、語り直しが必要になっているのでしょう。

それからイデオロギーでは、リアリティが感じられにくいのかもしれません。今は、自分が信仰の対象が、強固で普遍的なものではなく『推し』のような極めて個人的な体験や感情に依拠した信仰になっており、そちらの方がよりリアリティを感じられるのかもしれません。今は、結局は生きる指針を『推し』に求め、信じる信じないよりも面白いかどうか刺激への嗜好性が強くなっているのでしょう。

そして、科学が宗教を殺した現代だからといって、妖怪や幽霊について語る事は陳腐だとか、古くなったから使えないという訳ではなさそうです。単に慣れ親しんだモチーフで使いやすいという点だけではなく、目に見えない存在と自分の生き様がどのようにリンクするのかを考え直したり、語り直す必要性があるからではないでしょうか。

呪術廻戦の魅力とは

ここまで語ってきて元も子もない発言ですが、呪術廻戦の最大の魅力はアニメが凄い。ここが一番だと僕は思います。

アクションシーンの派手さや絵の面白さ、カメラワーク、エンディング曲の映像表現など、ビジュアルの面白さが群を抜いていると思います。

良いアニメに出会えたなとホクホクしています。

最後がこんな感じになってしまいましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました!

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