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流れ星が落ちる前に

今井亮太郎さんとのシングル「流星ピアス」の中で描かれる別れのシーン。


これからのお話しは、この歌のモチーフです。主人公は女の子。歌のほうは男の子が主人公です、入れ替えて書いてます。
そういや肝心の別れのシーンがこのお話しにはないので、歌で補填して下さい(ひどい。笑)


※ほぼフィクションです(ほぼね!笑)

流れ星が落ちる前に


風が髪をなびかせる。

その度にさらさらさら、と音を立てて生い茂った木々から舞い降りる秋の色。

青い空を背に降るオレンジ色の枯れ葉たちに向かって、私は小さくジャンプした。

捕まえた。

一枚の色づいた葉を、指先でクルクルと回しながら「なんだかいいことがありそう」なんて、根拠なく思いながらまた歩き出す。

小さな川沿いの遊歩道は、秋になると豊かな木々のオレンジと黄色のモザイクで彩られる。春は緑が眩しく、夏はセミの合唱に圧倒されながら、私は学校に通うその小道が大好きだった。

ふと見つけた、前を歩く背中に心臓が跳ねる。

わっ、やっぱり良いことあった!
どうしよう。追いかける?でも、困らせちゃうかも。でも・・・

戸惑いながら、後ろ姿を早足で追いかける。美しい自然の色を纏った葉を踏むたび、サクサクと足元から優しく鳴る音。少しずつ早まっていくそれはまるで、自分の鼓動のようで胸が痛くて、嬉しいのに苦しくて・・・ちょっぴり息を切らしながら。

入学して間もない頃、教室にいる大人びた雰囲気の彼の笑顔に私はほとんど一目惚れだった。

それからは見かけるとこっそり追いかけては「あれっ、居たの」なんて誤魔化して声をかけていた。我ながらバレバレだったんじゃないかなと、今となっては思う。

その日も学校からの帰り道、ざわめく落ち葉の中を駆け抜けて、駅で声をかけた。
いつもははにかんで振り返る彼の顔が心なしかこわばって見えて、また心臓が跳ねる。

(あ・・・やっぱり迷惑だったかな)

そもそも、人気者でいつも誰かに囲まれている彼と、遠くから通い友達も少なかった私が釣り合うはずもない、そう思っていたのに。私は何か期待してたのだろうか。いやただ浮かれていただけかもしれない。

恥ずかしい・・・。
思わずうつむく私に、彼は1枚の封筒を差し出した。

「ごめん、今日は先に帰る。それ帰ってから読んで。」

そう言ってスッと電車に乗ってしまった彼を追いかけられず、ひとりホームに立ち尽くした。今、友達に会ったらまずい。きっと泣いてしまう。

帰ってからなんて到底待てずに、少しぼうっとした気持ちで封筒を開く。中には一枚の便箋と、一枚のオレンジ色の落ち葉。

「気がついたらいつも目で追っていた。ずっと君を見ていたらいけないだろうか。側にいてはいけないだろうか。」

短く綴られた文字に、涙が溢れる。

なんだ、追いかけていたの、知ってたんじゃん・・・だいたい何よ、周りくどいしパソコンで打たないで手書きにしなさいよ・・・。

心で悪態をつきながら、ホームの角でこっそり泣いた。

そうして始まった恋を、ブランドもののバッグや合コンに敏感なクラスメイトたちには話せないでいた。冷やかされて居心地が悪くなってしまいそうで、不安だったからだ。

遊歩道は、気づけばまた秋に染まっていた。

不機嫌そうに手も繋がずどんどん歩いてしまう彼を、私は小走りで追う。それは一年前の幸せな気持ちではなく、遠ざかるを心を繋ぎ止めるように。
悲しくて泣きそうになるのを堪えながら・・・

枝から葉がこぼれ落ちるように、私たちの幸せもいつの間にかこぼれ砕けて、終わりを迎えていた。


「えっ!付き合ってたの?なんで言ってくれなかったの?酷い!それよりまさか彼だなんて、あんた趣味悪い!次は金か顔で選びなさいよ!」

卒業して随分経ってから友達に話すと、そんな風に怒られてみんなで笑った。

あの遊歩道の木々は切られてしまったそうだ。あれだけの自然をまた戻すには、どれだけの時間がかかるのだろう。人は結局、どんなに学んでも自分たちの寿命ほどの時間しか想像できないのだという事に打ちのめされて思わず空を仰ぐ。

初めての恋の終わり。

別れた理由も彼の顔も、今はもうよく思い出せない。

けれど、

あたたかな色が降りしきる小道も
枯葉と土の匂いも
青く透き通る高い空も
友達と笑いあう声、髪を撫でる風、
前を歩くすこし猫背の背中も

嬉しくて、跳ねるような気持ちで落ち葉の中を走ったあの風景。
二十年以上たった今でも、秋にさんざめく木々の音に時おり呼び起こされる。

大好きだった背中を彩る、秋の色。

今頃はきっと幸せでありますように。


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