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海のうた 左右社 所感
ひょんなことから、左右社さんから出た「海のうた」をもらったので、自分がいいなと思った歌をいくつか引用します。海をテーマにした、短歌アンソロジー「海のうた」から。
きみからの電話に出ずに海へ行き、骨。とおもって拾う貝殻 山中千瀬
家から、海までどんだけの距離があるんだろう?ということが気になった。その距離と、貝殻を骨、とおもうことには関係があるんだろう。『さよならうどん博士』より
もう一度言うがおれは海の男ではない フラワーしげる
なんのダメ押しなんだろう。海の男ではないことを言っておかねばならないおれは、なんの男なのだろう。安直に想像すれば山の男だが、おれはけっしてそんな、安直な男ではない気がする。『ビットとデジベル』より
アマゾンで激安だったツナ缶のマグロは海を覚えてるかな 上坂あゆ美
マグロの身が海におった頃の記憶を有してるか否かわからないが、有してるか否かを食事中気にとめる作者の想像力が、海以上にとてつもなく広く深くて素敵だと思った。『老人ホームで死ぬほどモテたい』より
このアンソロジーはいったい何の基準で選ばれたのか。まよってたらいつまでも決まらんし、編集者の、「これじゃー!」「もう、これしかない~!」というような勢いで、怒濤のように集められたんじゃないだろうか。想像だが。そっから漏れたんじゃないかと、自分が勝手に想像した歌を少しピックアップします。
最短で海へ ふたりの足あとは海岸線に下ろす垂線 今紺しだ『偏食のルビー』歌壇2023年2月号より
すみやかに読み手の目が、上空からの視点になっていくのが、動的かつ普遍性を帯びてくようで鮮やかだ。
川と海の怖さを並べて話すときその越境に足りない銀貨 篠原『連続と瞬間』西瓜第3号より
銀貨はなにに必要なのか。考えた末、銀貨の値はその怖さを伝えるための説得力なのではないかと思った。
どこの海で聴いたか覚えてないけれど波の音にも似ている寝息 久石ソナ『サウンドスケープに飛び乗って』より
この一首だけみたら、作中主体は海から海へと渡り歩いてる男のように見えるけど、それでも、彼も海の男ではないような気がする。海千山千の男ではあるのかもしれぬが。
おわり
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