肥えちまった舌先に。
夕方
いそいそとスーパーで買い物を済ませ
駐車場へと向かっているとき
ホワイトデー用特設売り場を目撃した。
そこには
クッキーが山のように陳列されていた。
「ああ、あのクッキー。昔好きだったな。」
25年前、地方のデパートで
売っていたあのクッキー。
当時は物珍しくて
珍重の品として
ありがたく食べていたな。
今、あのクッキーを
当時のような鮮烈な思いでもって
食べられるか?という考えが
頭をよぎった。
否。
時を経て、
私の舌は大いに肥えてしまい
クッキーだけでも
もっとリッチで旨いものを
たくさん知ってしまった。
そこでふと思う。
私は豊かになったのか
それとも純粋さのような、何かを
失ってしまったのか、と。
*
時を経て
昔はありがたがって食べていたものに
興醒めすることもあるし
自分の体の変化とともに
美味しく感じられるようになったり
逆に
ちょっとついていけなくなってみたり
することがある。
よく言われることだけど
中年以降、魚のおいしさに気づき始めたり
カップ焼きそばとかチーズハットグとかの
ヤングな食べ物がしんどくなったり
するのである。
これは舌が肥えたとかいうより
加齢による好みの変化かもしれないが。
*
買ってみようかな、あのクッキー。
当時の物珍しさという魔法は解けても
思い出という魔法が
かかっているかもしれない。