将来の夢ってなんだったんだろう。
漠然とした「こういう大人になるんだろうな」じゃなくて、やりたい、なりたい、と願ったもの。

小学生の時に憧れたアイドルは画面の向こう側でキラキラ輝いていて、
その次に出てきたあのシンガーソングライターがかっこよかった。
なんだかカメラを独り占めしているみたいで。
1人であのキラキラしたセットを背負っているみたいで。

向こうから見える景色ってなんなんだろう、と単純に疑問に思ったのを覚えている。
あれから彼女の歌をメモして、がんばって記憶しては風呂場で熱唱する日々が続いた。
多分その頃から心の奥底でなりたいものは決まっていた。

周りに言えるはずもなかった。
二分の一成人式なんてものをやった時、クラスの全員が将来の夢を発表していった。

ある子は野球選手
ある子はバレリーナ
ある子は億万長者
ある子はアイドル

小さな両手をぱちぱちとさせながら、わたしはみんなに対してこう思っていた。
お前なんかがなれるわけないだろう。
もっと現実を見た方がいいだろう。
あの時わたしはなんて発表をしたのかは覚えていない。
あの頃からわかっていたのだ。職に就いて飯を食うことの難しさを。選ばれる人間はほんの一握りだということを。
他人を否定しているから、どうせ無理だろうと馬鹿にしているから、わたしは誰かに将来の夢を語ることができなかった。
誰かに否定された訳でもないのに、もう既に自分が自分を馬鹿にしていたのだ。

広いステージに立ちたい。
カメラのレンズを見つめたい。
スポットライトを浴びたい。
向こう側の景色を知りたい。
わたしの声を響かせたい。
歌手になりたい。

諦めたのは自分自身。ラストチャンスとかほざいて、中途半端に手を出して後悔したのも、未練を残したのも自分自身。

渋谷のセンター街で流れる若手シンガーソングライターの音楽を聴きながら、この子の夢はなんなんだろうと無駄な疑問が頭をよぎった。

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