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夜の校舎の窓を叩け!

『何が私をこうさせたか 獄中手記』金子文子 著:岩波文庫

 おれは世代的に尾崎豊とか青春だったんだけど、「卒業」って歌あるよね。有名なやつ。尾崎はもちろん好きだったけど、この歌はどうもピンとこなかった。だって自由になるのに、なんで夜の校舎の窓ガラス壊してまわるのか、よくわからなかった。管理されたくないなら、学校なんてとっとと辞めて、外国へ旅に行っちゃうとか、働いて独り立ちとかすればいいのに。
 まぁ、とにかくこの本は自由について書かれた本なんだけど、ある意味そんな類の自由ではなくて、もっとなんていうか、例えば、南アフリカのアパルトヘイトとか、アウシュビッツのユダヤ人とか、それくらいのレベルでの本質的な意味での”自由”に近いんじゃないかな、その求める精神において。
 驚いたんだ。これほんとうに日本の話かよ、って⁉昔々、俺たちの婆さんよりもっと昔の話。

 本書は大正時代の女性社会活動家、金子文子の獄中記。
 親がひどくて、今でいう毒親で、生まれた時から出生届も出されなくて、いわゆる無籍者というやつ。当然学校にも行けず、そもそも日本国籍さえないんだから。完全に社会のアウトサイド。
 やがて、祖母の伝手で朝鮮に渡り、奴隷のように働かせられる。今で言ったら完全に児童虐待。絶望しすぎて死のうとするけど、辞めて一念発起して復讐するんだって気持ちで日本に戻ってくる。そんで、上京していろんな労働してそのなかで社会主義や、無政府主義に目覚めていく。やがて、関東大震災が起こり、そのどさくさに紛れて逮捕されて、朝鮮人の夫、朴烈とともに大逆事件を企てたってことで死刑宣告を受ける。
 その獄中でまるで遺書を書くように、この手記を書いた。

 あらためて自由ってなんだろう、て考えさせられる。
 今も昔も、搾取されひどい目に合うのは貧しい若者。そりゃ、夜の校舎窓ガラス割りたくもなるよなぁ…。


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