呼吸は簡単! 最終回

「呼吸は簡単!」シリーズ、今回が4回目。
目標として、今回を最終回にしたいと思う。ただ、現在進行形で検討中のテーマなので、また、気づく事があれば追加するかもしれない。

前回は「胴体」に呼吸を満たす話をした。
口鼻から息を吸い、胸を膨らませ、腹に落とし、腰椎から骨盤に漏らせば、胴体をタンクとして呼吸が満ちていく。
今日はパンパンに満たされた胴体から、腕や脚へとつなげていく感覚について話したい。

モノの状態には「気体」、「液体」、「固体」がある。
「呼吸」と言えば気体な感じがすると思うが、腰椎から骨盤に漏れ出したあたりから、液体感が生まれてくる。
胴体というタンクに水が満ち、溜まる感じ。腰椎からわずかに漏れ出た呼吸がきっかけとなり、骨盤から自噴して泉が生まれる感じがする。

そして、今日話をする腕と脚には固体感が生まれてくる。
喩えは悪いが腸詰のソーセージが作られていくような感じだ。
勢いだけなら長細いジェット風船とも似ているが、そこに生まれる強さ、硬さは気体ではなく、固体感。それもカチカチではなく、肉感がある。

胴から腕に呼吸を送る時、ポイントとなるのは「肘」。肘を揺らすようにすると、腕の中に流れが生まれる。
肘にまでぎゅぅ~と、呼吸が「押し出される」。
肘にまで届けば次は「手首」。手首を押し出せば手のひらに、手首を絞ればゲンコツが作られる。

腕に生れていた固体感は手のひら、ゲンコツへといけばさらに強く、固くなる。ソーセージレベルだった固さも、「ゴムの固まり」のようになり、固くなる。
気体から始まった呼吸だが、全身を通っていくうちに、液体になり、固体になっていく。一度液体や固体になればそれは漏れずに、身体に溜まっていてくれる。
呼吸を全身に、と伝えるとハーハーゼーゼーと、息の仕方を気にしてしまう人もいるが、そうじゃない。「ルート」が大事なのだ。

脚に関しても腕と同じ。
肘と膝は同じように働く。
胴体に溜まった呼吸は、膝を揺らす事により太ももに溜まり、かかとを意識すれば足裏に溜まる。
さすがに腕と脚では感度の違いがあるので、脚の方がわかりにくいが、腕で感じ取った感覚が手掛かりになり、それほど難しくなく、脚への呼吸の溜め方もわかると思う。

さて、呼吸が全身にたどり着いたとして、それがどうしたのか、と思われるかもしれない。
まず第一の効用は「動き」。呼吸がエネルギーの交換だけではなく、具体的な動きのエネルギー源となっている事。

多くの人はこの身体を動かそうとすると筋肉を使う。また、中には重力に身を任せ使う人もいるかもしれない。
しかし、呼吸も、それらに代わるエネルギー源になるとわかった。

筋肉の動きは派手で分かりやすく、人気だ。ただ、筋肉の動きは気配が出る。最近は何事も派手でなくては人気が出ないから、むしろ気配のあるダイナミックに見える動きの方が好まれるのかもしれない。
しかし、実用という点で考えると、筋肉を主とした動きでは役に立たないし、力を偏らせ、バランスを崩しやすく、ケガへと繋がる事も多い。いくら見た目は好みであったとしても、それほど使えないのがわかってくる。

武術において「気配」は大切になる。
いや、気配は何事にもそうだ。いくら強い武器、正しい答えを得ても、身体に緊張があれば相手に準備をされてしまう。気配がなければ、相手と間に「衝突を作る前」に動きを完了させられる。

呼吸をエネルギー源とした動きは速く、気配がない。
身体が奥から膨らんでいく動き、相手へと向かう。相手との間合いがぐっと近づく。気づかれないのだから頭も働き、良いことだらけ。
こんな力を誰もが持っているのに、ほとんど使われる事なく、見過ごされている。もったいない。

また、もう一つ大きな効用がある。
それは「弱点が消える」という事。

気づいていないかもしれないが、私たちの身体は弱点だらけ。
急所がある、と考えるかもしれないが、そんなレベルの高い話じゃない。身体全体、どこもかしこも、弱点だらけだ。

一つは「内臓」。肋骨に守られている胸部はまだしも、がら空きになっている腸のあたりは非常に敏感になっている。
ただ、世の中が平和になり、腹をえぐるような攻撃をしてくる相手がいなくなり、そんな攻撃を忘れてしまっている。
忘れていれば動じる事もなく、見かけ上、達人に見えるかもしれないが、向かってきた攻撃はそのまま受ける事になり、痛みを経験する事になる。
そして、一度痛みと苦しみを経験すれば、身体は覚え、敏感になる。腹をえぐられるようなそぶりを見ただけで、身体は逃げようと、緊張をしてしまう。

この敏感になってしまった内臓を呼吸が守ってくれるのだ。
胴体の中に水が溜まり、守ってくれる。張りを持つほど、溜まれば、空気のしっかり入ったタイヤのようになってくれる。
空気の抜けたタイヤでは走れるかもしれないが、ダメージが大きいし、不安も消えない。

もちろん、筋肉は助けてくれるが、筋肉はタイミングを合わせる必要があるし、持続力を持たない。
呼吸で満たした腹であれば、衝突するものがあっても、内側へと力を流す事なく、全身に分散をしてくれるようになる。

大切な事だが、勘違いをしている人も多い。痛いから崩れるのではなく、痛そうだから崩れる。
何かが起こる前に感情が揺れ、身体が怯え、崩れて元気をなくしてしまうのだ。
武術的に殴られる事だけに対応する呼吸ではなく、どんな時にも、心、感情を揺らさずにおける力を呼吸は与えてくれる。

皆それぞれの才能でやれる事をやって今にいる。
ただ、限界という壁を見た時、そこでどうしようか、と不安を感じているはず。この時、「努力」で乗り越えられればいいのだが、努力が通用するのは若いうちだけ。歳を重ね、老いを見つけた時には努力はケガも生む諸刃の剣になってしまう。

ブレイクスルー、なんて言葉を簡単に使うが、本当に困った時、その壁を越えたいなら、絶対に土台としての身体を強くしておかなくてはならない。一か八かでも勝負は出来るが、それでうまくいくかどうかはわからない。
しかし、呼吸は常にあるもの。そして、身体にはそれが通るルートがある。全身を通っていった時、確実に身体の内側は守られ、安心が生まれる。
こんな世界を呼吸はくれようとしていたのか、と本当に驚いているから、こうして、思いつくまま、その効用を伝えさせてもらっている。とにかく、意識をして、研究してみて欲しい。自分勝手でも構わないし、むしろ、それがいいと思う。

身体が持つ弱点をもう一つ上げておく。
それは「関節」。胴体にある関節は大きく、大きな筋肉にも守られているので、巨人にでも引き裂かれなければ大丈夫(笑)。
しかし、腕にある関節は弱い。しかし、この関節がなければ人間としての器用さを発揮する事が出来ない。

この関節が呼吸が満ちてくると守られ、簡単には攻められなくなる。捻じろうと逆をとっても、得体のしれない力がそこに感じられるようになる。
「気」という概念を用いて曲がらない腕を伝える武道もあるが、まぁ、似たようなものなのだろう。しかし、「気」と「呼吸」ではそこへの確信がまるで違う。

目に見えない気を信じ続けるのは難しい。練習の場であれば気を練り、それを技にし、相手を倒すのは出来ても、相手に攻め入れら、今まさに負けを意識してしまった時、「気」は「弱気」を生み、逆に心を押さえつける。

しかし、呼吸ならどうだ。
呼吸はどんな時にも口鼻から吸い胸に入る。
そして腹へ落とし、腰椎から骨盤に漏らせば胴を満たしてくれるとわかるし、肘を使って腕へと満たす事ができる。
そういう「仕組み」になっているのが身体だ。呼吸に頼る事で、一定レベルの安心が確実に手に入ってくるのだ。

身体が呼吸で満たされれば結果として怖いものを怖くないと認識するようになり、平常心が保たれる。
その上で自分が何をしたいのかを問えばいい。同じ行動であっても、それが安心と選択から生まれた行動か、怖れと不安で反射的に生み出された行動かは大きく違う。
武器や知識は無限に手に入る時代になったが、誰もが情報にアクセスできるのだから、手に入れた最新の情報はすぐに使えなくなり、また、新しい情報を探すのに忙しくなる。ずっと競争をし続けなくてはならない。

しかし、呼吸はもう、ある意味、枯れた知識。先人が大切だよ、と残してくれたものの、あまりにも当たり前すぎて、興味を失えてしまっている。
そして、呼吸を使わなくても機械やコンピュータ、誰かが代りに仕事をしてくれる時代になってしまった。
呼吸が大切、と本気で伝える人も少なくなってしまった。

今、チャンスなのだ。
皆が忘れているからこそ、呼吸を探り、自分の呼吸を見つける事。まぁ、自分のと言っても、身体は同じようなつくりなのだから大本のルートは同じだけれども。
今回ながながと伝えたのは身体を通り抜ける呼吸のルート。
これは誰かと競い合うものじゃない。出来たからと言っても威張れるものじゃない。外からはただ、落ち着いている人にしか見えないし(笑)。
しかし、普段から心がびくびくしがちな人には役に立ってくれるものだと思う。

私自身が臆病で、ずっと、何十年もこの性格を嫌いだったからこそ、伝えたい。
性格の問題ではなく、純然たる身体の問題だったのだ。臆病になっていたのは内臓が反応し、萎縮してしまったから。それは内臓を守るものがなかったから。ただ、それだけの事。

どれだけ書いても、書き足らないのでこの辺りにしておくが、自分の呼吸なのだから、遠慮する事はない、と最後に伝えたい。
誰かから「正しい呼吸」をするように指示されても、まぁ、一人の時に自分の呼吸を試していればいい。ルートを探してみれば、必ず全身に伝わって安心感をくれるのがわかると思う。
後は機会がある時、ぜひ、遠慮なく、聞いて、触れて試してみて下さい。長々と書きましたが、身体で試せば一瞬です。

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・3/7(日)、「つくば稽古」を開催します。
定期稽古(大垣・名古屋・浜松・熱田)を開催しています。
ヒーリング稽古(瀬戸・浜松)も始まります。
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